KDDI総合研究所は2022年10月14日、同社が取り組むさまざまな研究について紹介する「研究プロジェクト紹介2022」を実施。Beyond 5G/6Gに向けたさまざまな研究が披露されていましたが、そうした中からは5Gの実力を発揮する上で重要な点も見えてきました。
5Gの有効活用に映像伝送技術が必要な理由
KDDIグループで無線通信などさまざまな分野の研究開発を担っている、KDDI総合研究所。そのKDDI総合研究所が2022年10月15日、メディアなどに向けて研究に取り組んでいる技術を紹介するイベント「研究プロジェクト紹介2022」を実施しました。
このイベントではKDDIの本業として重要な位置を占める通信技術のほか、ドローンやAIなどさまざまな先端技術に関する研究とその成果を見ることができました。
とりわけモバイル通信に関するところでいえば、2022年5月の「ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2022」で紹介されていた「ユーザセントリックRAN」や「仮想化端末」などのBeynod 5G/6Gに向けた技術に関する研究の進展具合を見ることができたことが、大きなポイントといえるでしょう(第70回参照)。
また、このイベントでは1つのアンテナで10の周波数帯に対応した「10波平面アンテナ」や、ミリ波のような高い周波数の電波を、電波のまま中継することで大容量・低遅延の通信を実現する「リアルタイム遠隔制御に向けた5G無線中継方式」、さらには月面でのモバイル通信実現に向けた研究など、モバイル通信に関するさまざまな取り組みが披露されていました。
しかし、一連の研究からは、通信以外の側面から5Gの活用を進める研究も披露されていました。その代表的な例となるのが、5Gで活用事例が多い映像伝送に関する技術です。
スマートフォンの普及と通信速度の高速化・大容量化などによってモバイル通信でも動画の利用は増えていますが、ネットワークの容量には上限もあるため動画のような大容量のデータを伝送する際には圧縮することが求められます。
ですが圧縮によって映像が劣化するだけでなく、圧縮・展開する時間のロスによって遅延も発生してしまうことから、5Gでネットワークの遅延を小さくしただけでは低遅延を実現できないのです。
そのため、5Gの高速大容量・低遅延といった特徴を映像伝送でフルに生かすには、大容量のデータの劣化を少なくしながら圧縮して容量を減らし、なおかつ低遅延を実現する技術が求められているのです。
圧縮技術の標準化や低価格のシステムなどに取り組む
そうした映像圧縮技術の1つとして、KDDI総合研究所が研究を進めているのが「VVC」(Versatile Video Coding)を活用した映像伝送です。
VVCは2020年に標準化がなされた国際標準の動画圧縮規格であり、KDDI総合研究所ではそれを用いた4K/8K対応のリアルタイムコーデック開発で世界初の成功事例をが多数あり、従来の圧縮方式であるHEVC(High Efficiency Video Codec)と変わらない画質を、半分の通信量で実現したとしています。
VVCで映像の内容に応じて、平坦な場所は大きなブロック、複雑な場所は小さいブロックに分割し、ブロック単位で圧縮処理をする仕組みであることから、映像をいかに最適な形に分割できるかが通信量削減の鍵になるようです。
そこでKDDI総合研究所では、独自の映像解析によってその分割する形を決めることにより、30倍の高速化と高画質化を両立したとしています。その実現には処理をするコンピューター側のパワーが求められることから、実現にはハードウェアの進化も寄与しています。
一方で、今後メタバースなどで活用の機会が増えることが予想される3Dの物体データに関しても、品質を落とすことなく圧縮する技術の開発を進めています。
その1つが、ボリュメトリックビデオのような点で構成される3Dデータに対して品質を落とさずに圧縮をかけるPCC(Poing Cloud Compression)、そして面とテクスチャで構成される3Dデータを圧縮するDMC(Dynamic Mesh Coding)になります。
この2つは現在、国際標準化団体のMPEGで標準化・実用化に向けて世界各国の企業などが取り組みを進めており、日本ではKDDI総合研究所が積極的にその標準化に向けたアプローチを進めている企業の1つになっているとのこと。将来的にはこうした技術を活用し、3Dで人物をリアルタイムに取り込んでのライブ配信なども実現したいとしています。
そしてもう1つ、低遅延に向けた取り組みとして紹介されていたのが「廉価に構築可能な超低遅延映像伝送システム」です。
低遅延での映像配信を実現するには高価な機材を用いる必要があり、低価格な民生品を使うと映像圧縮だけでなく撮影するカメラの性能や、それを映し出すディスプレイのリフレッシュレートなどによって大きな遅延が生じるといった課題がありました。
そこで、米NVIDIAのGPU組み込みボード「Jetson TX2」とオープンソースのマルチメディアフレームワーク「GStreamer」、そして民生のパソコンや高リフレッシュレートのディスプレイなどを用い、エンドツーエンドで35ミリ秒という低遅延の映像伝送を実現しながら、業務用機材の10分の1という低価格を実現することに成功したようです。
こちらもハードの高性能化が実現に向けたキーポイントとなっており、ハード・ソフト両面での技術進化が映像伝送技術の向上にも貢献している様子がうかがえます。
5Gの実力をフルに生かすにはネットワークの進化が必要不可欠なのは確かですが、その高い性能を生かす上でも周辺技術の進化が一層求められるようになってきたことは確かでしょう。
今回のKDDI総合研究所のイベントからは5G、ひいてはBeyond 5G/6Gの利活用を進める上でも、ネットワークだけでない総合的な研究開発力が求められていることを見て取ることができるのではないでしょうか。