NECやJTOWERなど4社は2022年8月22日、産官学連携による「交通インフラDX推進コンソーシアム」の設立を発表しました。交通信号機に5Gの基地局を設置して交通インフラのデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める取り組みとなりますが、具体的に何を実現しようとしているのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。
交通信号機と5Gを軸に交通インフラのDXを推進
5Gの時代に入り、基地局を設置する場所やアンテナなどを他社と共用する「インフラシェアリング」に関する取り組みが進みつつあります。低コストで全国に多くの基地局を設置することがその狙いですが、それだけにとどまらない取り組みも進められているようです。
それが2022年8月22日に設立された「交通インフラDX推進コンソーシアム」です。
これはJTOWERと住友電気工業、日本信号、そしてNECの4社を中心として設立された産官学連携による取り組みで、その名前の通り交通インフラのDXを推進し、人とモビリティ、インフラが協調した交通社会を実現するために設立されたものとなりますが、その特徴は5Gと交通信号機を活用してそのDXを実現しようとしていることです。
具体的には、交通信号機に5Gの基地局、そしてカメラやセンサなどを設置して現実空間の交通状況などを把握します。
5GとMEC(Multi-access Edge Computing)の活用により収集したデータを処理、プラットフォームとして企業や自治体などにそれらのデータを提供することにより、交通をはじめとした幅広い分野でのDXを推し進めることを目指しています。
実はこのコンソーシアムは、2019年から3年間にわたって実施されていた、官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の延長線上にあるもの。
PRISMでは交通信号機に5G基地局を設置し、5Gのエリア拡充を推し進めるとともに交通信号機を5Gで集中制御するための技術や制度の検証を進めてきましたが、そこでの成果を社会実装する上では中長期的なニーズや技術の検証が継続して必要とされたことから、今回の産官学連携によるコンソーシアム設立に至ったようです。
PRISMでの取り組みから議論の深堀りが必要とされたテーマは大きく3つあります。1つは5G基地局やセンサなどを設置するため交通信号の柱に高度化や拡張性が必要なことで、同コンソーシアムではその実現に向け必要な要件や、制度面での課題などを検証するとしています。
2つ目はセンサなどで取得したデータを交通管制に活用したり、信号の情報を配信したりするのに必要な要件の検討。
そして3つ目は、公共交通のDXによって得られるデータの利活用ニーズや、その活用に対応したアプリケーションやプラットフォームを検討していくことで、今後はそれら3つのテーマについてワーキンググループで議論を進めていくようです。
5Gのユースケース開拓に期待も具体性が課題
交通インフラDX推進コンソーシアムでの取り組みを5Gという観点から見た場合、期待されるのは大きく2つの要素となるでしょう。1つは冒頭でも触れた通り、交通信号機のインフラシェアリングによるエリアの拡大です。
現在、全国にはおよそ21万もの交差点があり、それに応じた数の交通信号機が設置されています。
それらすべてに基地局を設置できるとは限りませんが、一定数の交通信号機が携帯電話会社に開放され5G基地局を設置できるようになれば、政府が2023年度末までに95%の人口カバー率を求めている5Gの基地局整備に弾みが付くことは確かでしょう。
そしてもう1つは、5Gのユースケース開拓を加速する可能性です。実は同コンソーシアムが実現しようとしている、5Gとセンサ、MECなどを活用して実世界のデータを収集・分析し、その成果を再び実世界に反映させるという取り組みは、これまで5Gの企業・自治体向け活用で多く挙げられてきたユースケースに近いものでもあります。
-
PRISMでまとめられた一連のシステムの概要。交通信号機に5G基地局やカメラ、センサなどを設置し、そこで収集したデータを5Gネットワークを通じてMECで処理、行政や企業などに提供して活用してもらう形となる
しかしながら現在に至るまで、そうした5Gの典型的なユースケースの実用化が進んでいないというのが正直なところ。
それだけに、産官学連携の取り組みによって具体的なユースケース開拓が進み、目に見える形で有用性が確認できるようになれば、企業や自治体での5G活用が急加速することになるのではないでしょうか。
とはいえ、同コンソーシアムの説明によると、データ利活用の範囲は自動運転や交通安全などモビリティや交通インフラに関わるものだけでなく、マーケティングや街づくりなど幅広い用途が想定されているなど、かなり多岐にわたっていることが気になります。
なぜなら汎用性を重視するあまり具体的な方向性を見出しにくく、その分議論や意思決定が遅れる可能性が出てきてしまうからです。
同コンソーシアムでは、先に説明した3つのテーマのうち、柱の高度化は2024年度、交通管制・信号情報配信についても2025年度より前倒しで実現したいとする一方で、データの利活用に関してはもう少し時間がかかると見ているようです。
日本では5Gに関する取り組みで多くの遅れが出ているとされているだけに、スピード感重視で早期に、なおかつ具体的な成果を出すことこそが同コンソーシアムには強く求められるところではないでしょうか。