5Gの時代に入り、携帯各社がコンシューマー向けサービス開拓に向け力を入れて取り組んでいるのがメタバースです。なぜ携帯電話会社は、5Gでメタバースに力を入れているのでしょうか。各社の取り組みから確認してみましょう。→過去の回はこちらを参照。

メタバースに積極的に取り組む携帯4社

ここ最近急速に注目を集めるようになった、仮想空間でコミュニケーションなどさまざまな行動をする「メタバース」。注目の高まりと同時に、メタバースに力を入れる企業は急増しているようですが、注目が高まる以前からメタバースに類するサービスに力を入れてきたのが携帯電話会社であり、その契機となったのが5Gです。

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実際、国内の携帯各社が2020年に5Gのサービスを開始した時から、いくつかの企業がVR空間を活用したサービスをアピールしていましたが、現在もその延長線としてメタバースに積極的に取り組む企業は多いようです。

KDDI

特に以前からメタバースに力を入れてきたのがKDDIです。同社は、2018年にメタバースプラットフォーム「cluster」を展開するcluster社にファンドを通じて出資、その後clusterを活用して東京都渋谷区公式のプラットフォーム「バーチャル渋谷」を展開、コロナ禍で大規模なハロウィンイベントを開催して話題となりました。

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    KDDIはcluster社への出資以降、clusterを活用したメタバース関連の取り組みを積極化。「バーチャル渋谷」ではコロナ禍の行動制限を受け、渋谷区公認で2度ハロウィンイベントも実施している

KDDIはその取り組みを発展させ、現実の都市とバーチャル空間を連動した都市連動型メタバースに力を注いでおり、渋谷以外の都市へ拡大することを打ち出しています。

2022年には新たに「バーチャル大阪」を展開しており、今後もさまざまな自治体と連携して都市連動型メタバースを展開していくものと考えられます。

NTTドコモ

NTTドコモもメタバース関連の取り組みには力を入れてきており、これまでにもVR空間上でのバーチャルアイドルによるライブなどを実施してきました。2022年3月にはメタバースプラットフォーム「XR World」を展開しており、よりメタバースへの取り組みを本格化させている様子がうかがえます。

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    NTTドコモは2022年3月よりメタバースプラットフォーム「XR World」の提供を開始、メタバースへの取り組みを本格化させている

ソフトバンク

ソフトバンクも2022年に入ってメタバースに関する取り組みを急速に拡大しており、その1つとして挙げられるのが、傘下の福岡ソフトバンクホークスの協業により展開している「バーチャルPayPayドーム」。

その名前の通り、福岡ソフトバンクホークスの本拠地でもあるPayPayドームをバーチャル空間上に再現し、実際の試合を観たり、現実のPayPayドームと連携した施策を展開したりするなど、チームのファンを主体として利用の拡大を図っています。

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    ソフトバンクが展開する「バーチャルPayPayドーム」は、実際の「PayPayドーム」をバーチャル空間上に再現したものとなる

また、既存のメタバースプラットフォームを活用する取り組みも進めており、ソフトバンクは韓国のNAVER Z Corporationが展開する「ZEPETO」などに仮想空間上のソフトバンクショップを展開。実際のショップと同じ手続きができる訳ではないものの、実際にショップスタッフを配置してサポート対応するなど、力を入れている様子がうかがえます。

楽天モバイル

そして、楽天モバイルも同じ楽天グループ傘下のヴィッセル神戸と連携し、5Gを活用してメタバース空間内で買い物体験をする実証実験を2022年7月に実施。直接的なプラットフォーム展開こそしていないものの、メタバースへの注力を進めようとしている様子を見て取ることができます。

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    楽天モバイルはヴィッセル神戸と連携し、5Gとメタバースを活用した買い物体験の実証実験を実施している

キラーサービス開拓だけではない、メタバース注力の理由

携帯各社がメタバースに力を注ぐようになったのには、もちろんメタバースが話題になって今後普及が見込めることも理由の1つではあるでしょうが、5Gという視点で見るとそれだけにとどまらない理由があるように見えます。

その1つは、コンシューマーに向けた5Gの普及を促すキラーサービスとして、メタバースに着目したためでしょう。

すでに実現している高速大容量通信に加え、性能をフルに発揮できるスタンドアローン運用に移行すれば低遅延などの特徴を生かせる5Gですが、とりわけコンシューマー向けとして課題になっているのは、5Gの性能を生かせる明確なデバイスやサービスが存在しないこと。

それだけに、利用するうえでも大容量通信が必要なメタバースに注目が集まることは、携帯電話会社にとっても5Gの性能を消費者にアピールできる大きな材料となるだけに、力を入れるようになったのではないかと考えられます。

そしてもう1つは、5Gでのコミュニケーション需要を獲得することです。通信の基本はコミュニケーションにあり、3Gの時代までは携帯電話会社が音声通話やSMS、携帯メールなどで、そのコミュニケーションを主導してきました。

しかし、スマートフォンの利用が広がった4G時代に入ると、「LINE」「Twitter」などの各種SNSやメッセンジャーサービスがそのコミュニケーション需要を奪い、主導権を握るに至っています。

それだけに携帯電話会社としては、5Gとメタバースによってコミュニケーションのあり方が再び変わろうとしているのを機として、SNSから再びコミュニケーションの主導権を奪い返したい狙いも強いのではないかと考えられるわけです。

もちろん米Metaのように、SNSの側からもメタバースに積極的に取り組む動きは出てきていることから携帯電話会社の思惑通りになるかどうかは分かりませんが、コミュニケーションは通信の根幹でもあるだけに、5Gのインフラ整備とともにメタバースに力を入れる動きは今後も加速する可能性が高いのではないでしょうか。