NECプラットフォームズが2023年8月29日に操業開始した掛川事業所の新工場では、ローカル5Gを活用して自動走行搬送ロボット(AMR)を運用するなど、ローカル5Gを積極活用することで生産性の向上を進めています。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。

実証実験ばかりで、いまだ具体的なユースケースをほとんど見ることができないローカル5Gですが、同社はなぜその導入をいち早く進められたのでしょうか。

ロボットの自動走行制御にローカル5Gを活用

NECのグループ企業で、5Gのルータやホームゲートウェイなど多くの通信機器を提供しているNECプラットフォームズ。同社は国内外に10の製造拠点を持っていますが、その中の1つとなる静岡県掛川市にある掛川事業所で2023年8月29日、新しい工場の操業を開始したことを発表しています。

新工場の最大の特徴は、最先端のデジタル技術を取り入れて生産性を向上させている点にあります。活用されているものとしては量子コンピューティングなどさまざまな技術が挙げられるのですが、通信という側面で注目されるのがローカル5Gを積極活用していることです。

エリア限定で5Gの高い性能を生かせるローカル5Gは、工場をはじめとした企業のビジネスでの活用が非常に期待されていますが、免許の割り当てがなされてからおよそ3年が経過してもなお、ほとんど活用が進んでいないのが実状です。

しかし、NECプラットフォームズの新工場では、そのローカル5Gを製造の現場に最初から取り入れて運用がなされているのです。

今回、ローカル5Gが導入されたのは新工場の4階部分で、下の階で製造された基盤を筐体に組み込み製品を完成させる作業を担うフロアになります。このフロアには、部品や製品などを運ぶ無人搬送車(AGV)と自立走行搬送ロボット(AMR)が走行しており、どちらも無人で走行する点は共通しているのですが、その動きにはかなりの違いがあります。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第103回

    「NECプラットフォームズの掛川事業所に設立された新工場。ローカル5Gが導入されているのはその4階部分になる

具体的に説明しますと、AGVは地面に貼られた磁気テープ上を決められた速度で走行する、いわば貨物列車のような動きをするのに対し、AMRは指示された場所に最短のルートで向かい、荷物を運ぶ宅配便のような動きをする仕組み。

そして、決まったルートを通るAGVは車両側にコンピューターを搭載し直接制御しているのに対し、AMRはネットワーク経由で制御する仕組みで、カメラの映像から位置を測定し目印のない場所を自動走行できる機能や、AGVから送られてきた位置情報を把握して衝突しないよう走行する機能などを実現しています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第103回

    AGVは地面に貼られたテープで示されたルートを決まった通りに走行する仕組みで、その位置情報を送ることでAMRとの衝突回避に役立てている

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第103回

    段ボールを乗せているのがAMR。指示に従って不特定のルートを、カメラの映像を基に位置を判断しながら、AGVを避けながら走行するためネットワーク経由で制御がなされている

そのAMRの制御用ネットワークとして用いられているのがローカル5Gです。ローカル5Gは上りの通信速度が高速で、なおかつ免許が必要な周波数帯を用いるためWi-Fiなどのように電波が周囲の環境に左右されることなく安定した通信を確保しやすい。それゆえカメラからの映像を基に自動走行するAMRの制御には、ローカル5Gが最適と判断したようです。

なお、ローカル5Gに用いているのはサブ6の4.5GHz帯で、アンテナは4階の中央部分に設置。フロアの面積は2430平方メートルとかなり広く感じますが、ローカル5Gとしては低い周波数帯を用いることもあって1つのアンテナで17台のAMRを制御できているそうで、工場内でもAMRが縦横無尽かつスムーズに走行する様子を確認できました。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第103回

    フロア中央の天井に設置されたローカル5Gのアンテナ。使用しているのは4.5GHz帯となる

早期からの実証が実用化に貢献、課題はコストか

しかし、先にも触れた通り、ローカル5Gの活用といえば未だに実証実験が大半を占め、実際のビジネスに導入された事例はほとんど見ることができません。それだけに今回のNECプラットフォームの事例は、実際のビジネスにローカル5Gが活用された非常に貴重なケースと言うことができるでしょう。

なぜNECプラットフォームズが、工場にローカル5Gをいち早く導入できたのでしょうか。同社の執行役員である石塚直美氏はその理由として「われわれは数年前から実証実験をやっている。その技術生かし、新工場を建設するに当たってローカル5Gを生かした運用システムを作った」と答えています。

実際、同社では2021年に甲府事業所でローカル5Gを活用した実証実験を実施。この時の実証実験ではロボットの遠隔操作などに加え、AGVのリアルタイム制御なども実施していたことから、そこでのノウハウを掛川事業所の新工場で生かすことにより、ローカル5Gの早期活用ができたようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第103回

    NECプラットフォームズではローカル5Gを活用したAMRによる自動搬送システムの導入などにより、30%の生産効率向上を目指すとしている

掛川事業所では、ローカル5Gの活用などで30%の生産効率化を目指すとしていることから、実際の成果が期待される所です。ただ1つ気になるのはコスト面の課題です。

実はローカル5Gの導入を阻む大きな要因の1つとなっているのが、機材の低下価格化が進んでおらず導入費用が高いこと。

もちろん、導入によりコスト効率化が進めば、費用対効果の高さから導入に前向きになる企業も増える可能性が高まりますが、NECプラットフォーム側は今回の取り組みで、ローカル5Gの導入でコスト効率化が進むかは言及していなかったのが残念なところです。

ローカル5Gの普及が進むことは、かねてローカル5Gに力を入れてきたNECグループ全体のメリットにつながってくるだけに、先行するNECプラットフォームズにはローカル5Gの導入で生産の効率化だけでなく、コスト効率化を成果として示すことが大いに求められるのではないでしょうか。