KDDIは2023年7月31日、国内で初めてダイナミック周波数共用を活用し、新たな5Gの周波数帯である2.3GHz帯の運用を開始しました。
すでに、この帯域を使用している放送用FPUに配慮し、FPU使用時は自動で基地局からの電波を停止・発射することで共用を実現しているのが特徴ですが、KDDIは携帯電話会社側にとって自由度が低く不人気の周波数帯を、どのような用途に活用しようとしているのでしょうか。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
新たなシステムで放送用FPUとの共用を実現
携帯各社が5Gの整備に取り組んでいる昨今ですが、KDDIが新たな動きを見せています。それは2023年7月3日より、新たな5G向けの周波数帯として2.3GHz帯の活用を開始したことです。
2.3GHz帯は2022年に、KDDIへの新たな割り当てが発表された周波数帯。帯域幅は40MHzと、従来携帯各社に割り当てられている3.7GHzや4.5GHz帯(100MHz幅)と比べると帯域幅は狭いですが、周波数が低いのでより遠くに飛びやすく、しかもバンド「n40」として世界的にも39の国や地域で利用されていることから、スマートフォンなどでも活用しやすいメリットがあります。
しかし、2.3GHz帯の最大のデメリットとなるのが、「FPU」(Field Pickup Unit)と呼ばれる放送用の無線中継伝送装置がすでに使用している帯域だということ。
FPUは、テレビ局などが屋外で中継をする時だけ用いるため常時使用している訳ではないことから、FPUが使っていない時間と場所に限って携帯電話会社が使用してよいという、従来とは異なる割り当て方がなされているのです。
そこで2.3GHz帯の割り当てに際しては、FPUと周波数を共用する「ダイナミック周波数共用」(Dynamic Spectrum Access、DSA)の導入が条件として求められています。
DSAは、既存のシステムがその周波数を使用する時間や場所をデータベースに登録し、それを元に電波干渉の可能性がある基地局の電波をシステム的に自動で停止・発射する仕組みです。
具体的な例を示しますと、地方のゴルフ場でスポーツ中継をするのに放送局がFPUを使いたいという場合、FPUを使うゴルフ場の時間と場所をあらかじめデータベースに登録。するとそのゴルフ場の周辺にあり、電波干渉の可能性がある2.3GHz帯の基地局をシステムが算出し、時間になったらそれら基地局からの電波射出を自動的に停波。時間が経過したら再び電波射出を開始する……といった具合です。
そして、KDDIは2.3GHz帯でDSAを実現するべく、同社の傘下にあるKDDI総合研究所が放送事業者などの関係各所と連携し、基地局を自動で制御するシステムを開発。
今回、2.3GHz帯の運用はそのシステムを導入して実フィールドでの技術検証を進めるために始めたもので、まだユーザーが本格的に利用できる訳ではなく本格的な活用は2024年度を予定しているとのことです。
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ダイナミック周波数共有(DSA)の仕組み。今回の場合、放送事業者側がFPUを使う場所や時間を登録すると、システムで干渉の可能性がある基地局を算出。それを基にKDDI側が自動で停波や再度の電波発射をする形となる
地方での活用に重点を置く理由は
ただ、基地局からの電波を止めてしまうと、広範囲で突然2.3GHz帯が使えなくなってしまいます。それゆえKDDIでは2.3GHz単独でエリア構築することはせず、4Gと併用することで通信の継続性を担保するとしています。
そうであればFPUが使用するエリアだけ、基地局のアンテナの角度を変えて射出する範囲を狭めるなど、動的に電波を射出するエリアを変えれば済むのでは?という声も少なからずあるようです。
しかし、KDDI側の説明によると、2.3GHz帯の免許割り当て時のルール上、定められた値で電波を射出する必要があり、動的にエリアを変えるのは難しいことから基地局の電波を止めるという対応を取っているとのことでした。
一方で放送事業者側から見た場合、事件や事故、災害などの報道で緊急的にFPUを使いたいという事態が生じる可能性も考えられます。KDDI側ではそうした事態にも対応できるよう、45分で停波できる仕組みも用意したとのことです。
そしてもう1つ、気になるのが2.3GHz帯の展開エリアの方向性です。KDDI側の説明によると、2.3GHz帯は割り当て時に、都市と地方の一体的な5G展開を求める政府の「デジタル田園都市国家構想」の実現を重視していたことから、地方も含めた5Gエリアの拡大に活用し、2026年度末には全都道府県に8300局超の基地局設置を予定しています。
ですが2.3GHz帯の展開エリアは、具体的な計画は技術検証の結果を踏まえたうえで決めるとしながらも、まずは地方で優先して整備を進め、その後に都市部で容量が足りないようであれば必要に応じて活用していくとの方針も打ち出していました。
技術実証を進めている地域も地方の数カ所で展開しているとのことで、明らかに都市部ではなく地方での展開に重点を置いている様子がうかがえます。
そこにはもちろん、デジタル田園都市国家構想の実現に貢献するという目的が反映されているのでしょうが、運用にDSAが必要だという2.3GHz帯の性質上、都市部で活用しづらいというのがKDDIの本音ではないかと筆者は推測しています。
単独では使用できずエリア拡大には使えない2.3GHz帯の性質上、その活用用途は広い帯域幅を生かした通信トラフィックの吸収に限られます。
とはいえ、トラフィックが多い都市部で2.3GHz帯を積極活用すると、放送事業者側がFPUを使用する時に2.3GHz帯を止めなければならず、そのトラフィックが他の帯域へと一気に流れて混雑が発生しやすくなり、通信品質の低下を招きかねません。
ただ、地方であればそこまでトラフィックが大きくないことから、2.3GHz帯が突然使えなくなっても既存の4G周波数帯で十分吸収できる可能性が高いのです。
しかも2.3GHz帯はそこそこ帯域幅が広いうえ、KDDIが保有する5G向けの3.7GHz帯と比べると遠くに飛びやすく、衛星通信の干渉も受けにくいことから、より低コストでエリア整備がしやすく、採算性が低い地方での整備に活用しやすいといえます。
そうしたことから、KDDIは都市部では引き続き3.7GHz帯を使用し、地方では2.3GHz帯を主体に活用することで、5Gの高速化を図っていくのではないかと考えられる訳です。
もちろんそのためには、地方であっても2.3GHzがある程度安定して利用できることが重要になってくるだけに、技術検証でどのような結果が得られ、それを実際のエリア構築にどう生かしていくのかが気になるところです。