今回は珍しいことに、「男性限定」の話題である。いや、女性の皆さんにとって有用な話もないわけではないが。

先日、某線の電車に乗っていたら「本日は列車が遅れて運行しております。そのため、○号車の女性専用車の設定は中止とさせていただいております」という趣旨の車内放送があった。普段、ラッシュ時に電車で通勤するということをしないせいか、この手の放送を耳にしたのは初めてのことで、「へえー、そういう措置をとることもあるのか」と、少し驚いた。

本稿は女性専用車の是非について論じるのが目的ではないから、その話については取り上げない。本題は別のところである。

路線によって異なる「女性専用車」の設定

女性専用車は基本的にラッシュ時に設定するもので、路線によってそれぞれ対象となる車両は異なる。

主要駅の階段・改札口の位置との兼ね合いから、どうしても車両によって混雑度に差異が生じるため(本連載の第21回を参照)、どちらかというと混雑度が低い車両を女性専用車に設定するのが通例であろう。最も混雑度が高い車両を女性専用車にしたら、それはさすがに大顰蹙を買うこと請け合いである。

ところが、混雑度が低い車両は路線によって違いがあるから、路線ごとに、どのハコが女性専用車になるかは異なる。これがそもそも、よそ者にとっては分かりにくくなる一因である。

もちろん、駅のホームでは頭上や足元に、さらに車両の側面や車内にも「この車両は何時から何時までの間、女性専用車になります」という表示はあるわけだが、急いで飛び乗った時に、いちいちそこまでチェックしている余裕があるかどうか疑わしいことも少なくなかろう。

時には、「駅で目の前の電車にパッと飛び乗ったら女性専用車で、周囲の雰囲気が何か違っていた」とか「周囲から刺すような視線を浴びて、初めて女性専用車だと気付いた」なんてことがあっても不思議はない。

時間帯や区間によって設定の有無が異なるので話がややこしいうえ、終日にわたって特定の号車が女性専用車という路線もあるので、さらに話が複雑だ。個人的に覚えているところでは、神戸市営地下鉄がそれである。

バッチリ「毎日:始発から終日まで」と書かれている神戸市営地下鉄の女性専用車両の表示

終日にわたり女性専用車の設定がある路線が存在する

例えば神戸市営地下鉄海岸線の場合、4両編成のうち1両が終日にわたって女性専用車である。初めてこの路線に乗ったときに知って仰天したものだ。8両編成あるいは10両編成の中の1両なら比率として大したことはないが、4両編成の中の1両ということは25%の比率であり、ずいぶんと高い割合になる。なお、三宮・花時計前方面行の電車は1両目、新長田方面行の電車は4両目なので、つまりは三宮・花時計の先頭車という意味になる。

神戸市営地下鉄海岸線に限って、特に「女性利用者の比率が高い」「痴漢がたくさん出る」というわけではなかろう。だから、「時間帯によって違うよりも終日固定しているほうがわかりやすい」という観点から、こうした措置をとっているのではないかと推測してみた。

ちなみに、同じ神戸市営地下鉄の西神・山手線も同様の終日設定で、新神戸・谷上方面行の電車は先頭から3両目、西神中央方面行の電車は先頭から4両目が、終日にわたって女性専用車である(早い話が、谷上方から数えて3両目ということ)。ただしこちらは6両編成だから、比率は約15%に低下する。

確かに、時間帯や区間によって設定の有無が変わるよりも、フルタイムで特定のハコが女性専用車になっている方ほうわかりやすい、と言えなくもない。しかし、他社線で広く用いられるている方式ではないだけに、よそ者にとってはかえってビックリさせられる。首都圏在住者の観点からすると、「女性専用車は朝間ラッシュ時限定」という意識が染み付いているからだ。

悪気があって意図的に女性専用車に乱入したわけではないのに、駅員・乗務員・警察に通報されても困るわけだが、傍から見たら「意図的」と「意図的でない」の区別はつけられないし、何とも厄介な話である。それで騒ぎが大きくなって、最悪の場合、勤務先の情報をつけて新聞ダネにでもされたら最悪である。そんな事例が実際にあったかどうかは知らないが……。

逆に女性利用者の視点からすれば、女性専用車の設定を事前に把握しておいて、意識的に女性専用車に乗るようにするという手もあるかもしれない。「意識的に女性専用車に乗る」という人がどれくらいいるかはともかく。

ともあれ、この手の話は、可能であれば事前に調べておくしかなさそうだ。各社局のWebサイトを調べてみれば、女性専用車の設定に関する情報ぐらいは掲載されているだろうし、掲載されていなければ、それはそれで困ったものである。

と書いたところで神戸市営地下鉄のWebサイトを調べてみたら、女性専用車の設定に関する情報が見つからないのである。神戸市Webサイトには「地下鉄」に関する情報を掲載したWebページがあるが、そこからだと見つけることができず、検索エンジンで調べてみたら出てきた、という体たらくである。これはよそ者にとっては不親切だ。改善を希望するところである。

神戸市:女性専用車両のお知らせ

筋論から言えば、「駅のホームで電車に乗る前に、まずはひと呼吸置いて掲示を確認する」ととなるのだが、急いで電車で移動している場面でそんな余裕があるとは限らない。事前に確認しておければ、そのほうがよいだろう。女性専用車の話に限ったことではなく、なじみが薄い土地の電車に乗る際のは意外といろいろなところで約束事が違うものだから。