現在のハードウェア設計における懸案事項

テレマティクス環境では、OEMとティア1企業ごとに独自のハードウェアのバリエーションがあり、非常に多くのTCUの開発方法があります。ただし、確実なことが1つあります。すべてのOEMとティア1企業は同じようなハードウェア設計の問題に直面しています。バックアップ・バッテリ、電力の供給、オーディオ、プロセッサの設計のいずれの場合も、テレマティクス・システムにおける設計には数多くの共通の問題があります。これは、システムが車両のどの場所に配置されるかによって異なります。

TCUの設計時に考慮する点について見ていきましょう。

以下の図は、緊急通報機能を備えたTCUです。

  • 緊急通報機能を統合した最新のTCU

    図2:緊急通報機能を統合した最新のTCU

eCallシステムが統合されているTCUの一般的な必要条件

必要条件は(ある場合は)地域によって異なります。EUにおける指令では、eCallシステムは以下の条件を満たすことを求められています。

  • 衝突時および衝突後も、自動車のバッテリを使用せずに自動的に動作する。
  • -20℃や-40℃といった極端な温度にも耐えられる
  • 10年の製品寿命期間にわたって8分から10分の通話ができる
  • セルラー・ネットワークで緊急サービスのコールバックに60分間対応できる
  • 国際標準化機構(ISO)26262 Automotive Safety Integrity Level(ASIL:自動車安全性要求レベル)の基準Aに適合している

バックアップ・バッテリ

バックアップ・バッテリは、TCUの設計で最初に行うべきものです。EUの必要条件に基づき、バックアップ・バッテリは6Wから20Wの間の任意の電力のオーディオ電源と、GSM(Global System for Mobile Communications:モバイル通信用グローバルシステム)モジュールからの約2A(名目値350mA)の最大電流をサポートしている必要があります。

バックアップ・バッテリを選択すると、バッテリの科学的構造(一般的なタイプとして、リチウムイオン、リン酸鉄リチウムイオン、ニッケル水素があります)、セルの数や電流供給能力に応じてシステムの他の部分が決まります。また、電力供給経路でバッテリを配置する場所によって、使用する充電器や低損失レギュレータの種類のほか、ブースト・レギュレータの必要性も決まります。

以下の2つの図は、異なる充電の構成に基づく、2つの電力供給経路のバリエーションを示しています。それぞれのバリエーションは同じコンポーネント数で同じ働きをしますが、バックアップ・バッテリの選択とバッテリ・チャージャーの能力に基づいて構成が異なっています。

バリエーション1(図3)は、低コストでシンプルな設計ですが、複数のブースト・レギュレータを使用しており、サイズと冗長性のトレードオフを余儀なくされています。バリエーション2(図4)は、より多くの保護が必要なリチウムイオン・バッテリを使用しますが、セル数は少なくできます。どちらも実現可能な選択肢です。コスト、サイズ、信頼性のすべてが、どちらかを選ぶ場合の要因になります。

  • TCUの電力供給経路のバリエーション1

    図3:TCUの電力供給経路のバリエーション1

  • TCUの電力供給経路のバリエーション2

    図4:TCUの電力供給経路のバリエーション2

(次回は9月28日に掲載します)

著者プロフィール

Hope Bovenz
Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)
オートモーティブ・インフォテインメント・システム部門システム・エンジニア