サポートに電話がつながるまでの待ち時間が以前の3倍、レストランでメニューが出てくるまで長く待たされる……米国で今、接客やカスタマーサービスの劣化が大きな問題の1つになっている。
今年に入って主要47産業を対象とした顧客満足度のスコアが、過去20年間で最低に落ち込んでいる。複合的な要因によるものだが、中でも大きな原因が人手不足である。人手不足が賃金を押し上げ、より良い条件を求めた転職が繰り返される。労働者が定着しないから、その仕事のスキルを高める労働者が減少するばかり。人手不足でトレーニングの時間を十分に確保できず、人手不足で働く働き手の負担増も重なって、結果カスタマーサービスや接客が悪くなっている。実際のところ、これはカスタマーサービスや接客だけの問題ではなく、非農業部門全体の労働生産性が今年に入って急速に低下しているのだ。
Zoom会議でまとめて数分で解雇
さて、深刻な人手不足とは対照的に、リセッション入り懸念の強い逆風を受けるテック産業では採用の凍結や人員削減の発表が続いている。11月もわずか10日の間に、Amazonがしばらく採用を凍結すると明らかにし、Stripeが約1,100人の削減を発表。イーロン・マスク氏が買収したTwitterが社員を半分に削減し、そしてMetaが11,000人以上を削減する大規模リストラを発表した。
テック企業だからといって人員削減が珍しいわけではなく、経済環境の変化の影響を受けてきた。問題はそのやり方である。高度ではない業務なら必要な時にいつでも労働力を集められるという感覚なのかどうかは分からないが、とにかくドライで雑なのだ。これまでそれほど注目されていなかったものの、買収のいざこざから続く一連のイーロン・マスク劇場で、副産物的にテック企業の"リストラ下手"が浮き彫りになっている。
少し前にさかのぼると、コロナ禍でまだ多くが在宅ワークだった頃、「Zoom解雇」が話題になった。例えば、2020年の春に電動スクーター・シェアリングのBirdがZoomウェビナーで数百人の従業員にまとめて解雇を告げた。Zoomを伝えるのも方法の1つではあるが、Birdの場合、経営者でも人事担当者でもない女性が声だけで簡潔に解雇を告げるわずか数分の通告だった。
2021年末のデジタル住宅ローン融資会社Better.comの人員削減の時はさらに多く、Zoom会議で約900人を一斉解雇した。こちらはCEOが直接言い渡したが、「この会議に呼ばれているキミたちは解雇される不運なグループだ」「解雇対象の少なくとも250人は、1日に2時間しか働かず会社から金を盗んでいた」といった恨み節を連発した。
BuzzFeedがHuffPostを買収した後、HuffPostの損失を食い止めるためのレイオフを実施、オンライン会議で知らせた。通告に問題はなかったものの、対象者が通告を受ける会議に入るためのパスワードが「spring!ngisH3r3」、受け取った人がすぐに「spring is here」だと分かる無神経なものだった。
今回のTwitterのレイオフは、大規模削減の報道に対してそれを否定するようなコメントがあった直後に実施された。報道によると、雇用に影響がない場合は社員のTwitterの電子メールに通知が届き、雇用に影響がある場合は解雇通告にアクセスする情報を記したメールが個人のメールに届く。削減の実施からメール送信までしばらく時間があったため、解雇対象者の中には会社のSlackやメールから遮断されて解雇を知り、そのまま会社を去ったケースが報じられている。解雇通告も解雇対象であることとFAQおよびサポートのメールアドレスを知らせる簡素な内容で、あまりにビジネスライクなプロセスに不満の声が上がっている。
そうした中、解雇通告で評価を上げたテック企業もある。決算処理プラットフォームのStripeだ。人員削減を通知する社員向けのメッセージの中で、創業者のパトリック・コリソン氏(CEO)が、削減に至るまでの経緯を丁寧に説明し、社員を責めるのではなく、「私たちの見解では、私たちは非常に重大な2つの間違いを犯しました...」と自らの責任にまず言及している。そして退職金について明確に説明し、アフターフォローや転職支援、就労ビザを持つ従業員などテック産業ならではの問題でもサポートを約束している。リーダーとして言い訳をせず、会社中心ではなく社員の状況に寄り添って、困難な状況への理解を求めている。
解雇は景気減速時に行われることが多く、場合によっては採用以上に社員の人生に大きな影響を与えるため、その対応によってリーダーの実力と企業のカルチャーが試される。残された人に与える影響も大きく、社員の反感を買うレイオフは残された社員の生産性やモラルの低下につながる可能性がある。顧客にも「顧客を軽んじる」という警戒感を与え、ブランドの評判が下がることになりかねない。
今テック産業の低迷がリセッションの前ぶれであるように、いずれ経済環境が好転する時もその兆しはテック産業の回復にいち早く現れるだろう。だから、景気の過熱を冷やすソフトランディングを難しくし、困難な状況を自ら深めるようなテック産業にはびこるドライな解雇が懸念されているのだ。
ちなみに、9日にMetaが11,000人以上の削減を発表した際に同社が公開した「Message to Meta Employees」というマーク・ザッカバーグ氏から社員への通知は、Stripeに劣らない素晴らしい内容だった。レイオフのやり方の影響を認識し熟考したのだろう。再成長を目指した第1歩としては"A"評価である。