1年前に2.99ドルだったの商品が3ドル台になったと思ったら、いつの間にか3.50ドルに近づいている。食料品店の価格を見て嘆息をもらすも、人手不足、もの不足、そしてエネルギー価格が高止まりしているご時世である。小売りもコスト上昇に耐えているのだろうと思いきや……、食品大手やグローサリー大手が大きく利益を伸ばした好業績を連発している。

食肉大手Tyson Foodsが昨年、牛肉、鶏肉、豚肉の大幅値上げに踏み切った。いずれも二桁台、値上げ幅の大きい製品は30%を超える。値上げの際にCEOは、輸送や飼料などコスト上昇への理解を消費者に訴えていた。その結果、同社の2021年10〜12月期の純利益は11億2600万ドル、前年同期比48%増だった。

そんな状況にエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)が怒りを爆発させた。「巨大食料品チェーンは、インフレを隠れ蓑にして消費者価格を吊り上げ、利益を肥大化させている」。

「国民に価格負担を負わせる米トップ企業の利益急増」というThe Gardianのレポートによると、米国100社の利益上昇の中央値は49%増。Albertsons(生鮮食品・グローサリー)の利益の伸びは671%増、Amazon(リテール)は333%増、Chevron(石油)は144%増。これでは「必要以上の値上げ」と非難されても仕方がない。

しかし、非難はもっともだが、値上げしても売れるから価格上昇が続いている側面もある。なぜ消費が衰えないのだろうか? これまで米国の物価上昇はコロナ禍の人手不足に起因する賃金の上昇が大きな要因と見なされてきたが、今年に入って賃金上昇に鈍化の兆候が見え始めている。それでも物価は高止まりしたままである。

その原因として、コロナ禍を通じてEコマースが再構築された影響が指摘されている。インフレがピークを過ぎたと言われる現状においても、"オンライン・インフレーション"と呼ばれるEコマースでの価格上昇が継続しており、オンラインの個人消費の回転によってインフレが粘着性のあるものになっている。

Adobeが3月に公表した米国のデジタル経済指数によると、経済正常化とともに巣ごもり需要は減少し始めているもののオンライン支出に陰りは見えない。今年の1月と2月のオンライン支出は2カ月で1380億ドル(前年同期比13.8%増)。そのうち38億ドルは物価の上昇によるものであり、消費者はオンライン価格が高いことに気づいているが、価格上昇が「需要の妨げにはなっていない」という。このペースが維持されると2022年の年間オンライン支出は1兆ドルを超え、インフレの影響による支払いの増加が約270億ドルになる可能性がある。

  • 米国の年間オンライン支出はコロナ禍の巣ごもり需要で2020年に前年比41%増の大幅増になり、2021年は同8.9%増の8850億ドル。2021年に家電、アパレル、グローサリーの3大カテゴリーがEコマース全体の41.8%を占めた(Adobe Digital Economy Index)

    米国の年間オンライン支出はコロナ禍の巣ごもり需要で2020年に前年比41%増の大幅増になり、2021年は同8.9%増の8850億ドル。2021年に家電、アパレル、グローサリーの3大カテゴリーがEコマース全体の41.8%を占めた(Adobe Digital Economy Index)

Adobeのパトリック・ブラウン氏(グロースマーケティング/インサイツ担当バイスプレジデント)によると、過去2年でグローサリー(一般食品・日用雑貨)が家電やアパレルに並ぶ大きなカテゴリーに成長したことがオンライン・インフレーションの主因になっている。

コロナ禍以前の2大カテゴリーである家電やアパレルでは、様々な業者の価格を比べて最安値を選べるから消費者はオンラインストアを利用していた。対して、近くに実店舗がいくつもあって価格競争も激しいグローサリーでは「オンラインでより安く」は期待できない。人々がグローサリーをオンラインで買い物するのは配達や、レジに並ばずに買い物できる店頭受け取りといったサービスが目的であり、価格は二の次。高くても、より便利で安全なサービスにお金を払う。そうしたコロナ禍の巣ごもり需要や、買い物に使う時間や労力を減らしたいというニーズに応えているグローサリー大手が業績を伸ばしている。「(インフレでも減退しない)強い需要は、特にグローサリーのような成長カテゴリーにおいて、消費者がオンラインショッピングの利便性を受け入れていることを示す」とブラウン氏。

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オンライン・グローサリーは2020年に前年比103%の737億ドルに急増。2021年も792億ドル(前年比7.2%増)で、Eコマース全体の約9%に成長した。現在の1カ月のオンライン支出平均は約67億ドル、この成長ペースが続くと2022年は850億ドルを超えるとAdobeは予想している。

コロナ禍をきっかけにグローサリーをオンラインストアで購入する生活スタイルに切り替えた消費者の増加によって、低価格競争でずっと低空飛行が続いていたオンライン価格が初めて上昇傾向に転じ、2020年6月から途切れることのない"オンライン・インフレーション"が続いている。他のカテゴリーでも利便性やサービスで勝負する業者が増え始めており、Adobeのデジタル経済指数で3月にオンライン価格が最も上昇したのは「ペット」(前年同月比7%アップ)、そして「ツール/ホームインプルーブメント」も同8.5%アップだった。一方、全18カテゴリーのうち「家電」「コンピュータ」「ジュエリー」「玩具」の4カテゴリーは価格が下がった。

Eコマースに軸足を置き始めたグローサリー大手は、E Inkを用いた電子値札を実店舗に導入するなど、実店舗の改革にも積極的だ。オンラインストアと同じように、販売と利益を最大限化するように価格を常に変動させ、同じ商品でも店舗の場所、時間による買い物客層の違いなどで柔軟に価格を変更する。そうした実店舗のデジタル化も、現状において価格を高止まりさせる原因の1つになっている。オンライン・インフレーションの波が実店舗にも及んでいる。