6月にクリエイターや利用者からの不満が次々に表面化し、YouTubeに対する信頼が揺らいでいる。個人情報流用問題に直面するFacebookに比べると、それぞれは目立ったものではない。だが、YouTubeが抱える共通の課題が根にあり、その部分で対策が講じられなければ、より深刻な問題に発展するかもしれない。逆に、ここでYouTubeがしっかりと対応することができたら、YouTubeの新たな展開が期待できる。
トラブルその1。LGBT Pride月間だった6月、23〜24日を中心に米国の様々な都市でPrideパレードが行われ、ネットでも様々な取り組みが見られた。YouTubeは昨年のPride月間に、同サービスのコンテンツ自動フィルタリング機能が、LBGTQに関するビデオを制限コンテンツの対象にするトラブルを起こした。教育目的のビデオや、内容的に問題のないカミングアウトであっても、「trans」や「transgender」という語句から制限フラグが付けられてしまったのだ。YouTubeは、アンチLBGTQや意図的な制限ではなく、コンテンツ・フィルタリングの動作の問題が原因だったとして謝罪、改善を約束した。ところが、今年も同じ問題が繰り返されてしまった。しかも、LBGTQコンテンツに、アンチLBGTの広告が配信されたという報告まで。YouTubeは再び、LGBT Pride月間の最後に公式Twitterを通じて謝罪、マネタイゼーション・ポリシーの見直しを約束した。
トラブルその2。ガジェットYouTuberとして世界的に人気の高いMarques Brownlee氏が、6月29日に「Dear YouTube!」というビデオを公開した。一部のYouTubeコンテンツで、クリエイターが作成したカスタム・サムネイルを、YouTubeが自動生成したサムネイルにクリエイターの承諾なく変更しており、「それはいかがなものか?」という内容。YouTubeによると、自動生成サムネイルへの差し替えは実験的な試みであり、全体の0.3%で自動生成サムネイルを採用した。0.3%は小さな数字だが、YouTubeには19億人もの月間アクティブユーザーがいる。その0.3%だと相当な数になる。
トラブルその3。SEOコンサルタントであり、ポッドキャスターのDan Shure氏が、YouTubeビデオに差し込まれる広告数が急増していると指摘した。ある17分のビデオでは、再生開始前に2つ、そして途中2カ所で2つずつ、合計6つの広告が配信された。同氏がYouTubeに問い合わせたところ、オークションや広告主の需要によって配信される広告数は変動する、という回答。広告配信の最大数の変更についての言及はなかったという。しかし、Shure氏がTwitterで情報を集めたところ、その約1週間に同様の変化に気づいたというコメントがいくつも現れた。
これらの問題に共通するYouTubeの課題とは「透明性」である。
昨年春に、YouTubeでテロリズムや人種差別をあおる動画に大手企業の広告が表示されているとして、企業のYouTubeからの広告徹底が相次いだ。広告主は、広告を表示するビデオのターゲティングはできても、どのビデオに掲載するかはYouTubeまかせだ。そうした問題を経て、YouTubeは広告主、ユーザーと広告主を結ぶクリエイターからの信頼を取り戻すために「オープンネス」と「透明性」の改善に取り組んできた。しかしながら、今も広告主からは、よりシンプルで透明性の高いコントロールの提供を求める声が上がっている。
LBGTQをサポートするクリエイター達は、YouTubeをアンチLBGTQな企業と見なしてるわけではない。また、広告主も自分たちが広告配信を完全にコントロールできるのが最善策と考えているわけではない。毎日大量のビデオがアップロードされるYouTubeで、自動化のメリットが活かされているから、広告主も、クリエイターも大きなビジネスチャンスの恩恵を受けている。それを否定することは、潜在的なリーチ減少につながる。しかし、これまでYouTubeのプラットフォームの成長に偏り過ぎていたのも否めない。その歪みが今、顕在化し始めている。
Brownlee氏も、自動生成サムネイルを否定しているわけではない。カスタムサムネイルにこだわらないユーザーには便利な機能になるだろう。しかし、クリエイターが時間を費やして作り込んだサムネイルを、勝手に差し替えられるのは酷な話だ。だから、自動生成サムネイルを試すなら、そうした試みを行うことをはっきりとクリエイターに伝え、クリエイターに選択のオプションを与える透明性の実現をBrownlee氏は提案している。
最後のYouTube広告については、YouTubeを広告フリーで視聴できるようにする有料サービス (月額11.99ドル)の「YouTube Premium」との差を明確にするためと見られている。私は「YouTube Red」だった頃から「YouTube Premium」を使っているが、とても満足している。それは無料サービスの広告がうっとうしかったからではない。英語圏ではとても質の高いコンテンツが提供されているからだ。日本でYouTubeコンテンツというと個人YouTuberを思い浮かべるかもしれないが、英語コンテンツなら映像の質、構成・演出がTV向けコンテンツと遜色ないチャンネルがたくさんある。若い世代がそうであるように、我が家もここ数年でTV放送よりもYouTubeやNetflixに費やす時間がほとんどになった。より快適に視聴するために、YouTube Premiumに月額11.99ドルの価値は十分にあると感じている。
だから、有料のYouTube Premiumに誘導するように広告を増やすのは悪手に思えるのだ。無料サービスが広告だらけになったら、視聴体験が蝕まれ、YouTube離れが進むマイナス循環だ。無料でも快適に視聴できるバランスを保ってこそ、広告主にも、クリエイターにもビジネスチャンスが広がり、良質なコンテンツが増えるほどYouTube Premiumにアップグレードするユーザーが増える。今回の広告増加が実験的な試みなのかどうかは分からないが、YouTubeが広告売上を最大限化しようとするのは当然だと思う。でも、そうした試みもちゃんと利用者に伝えないと、不要な失望を生むことになる。
先週、Googleが「AdWords」を「Google Ads」にリブランドした。広告主が最も関心を持っているのは今も検索広告だが、テレビなど他のディスプレイ、ビデオ、アプリといった製品が存在感を増している。そうした変化を将来の成長につなげるように「Google Ads」に変更した。YouTube CEOのWojcicki氏によると、YouTubeは今もモバイルで最も視聴されているが、ここ1〜2年でテレビでの視聴が急増している。テレビ放送からネットへの視聴シフトを経て、ふたたびテレビに視聴者が戻ってきた。そこにGoogleおよびYouTubeの新たな広告機会がふくらんでいる。
GoogleやYouTubeは、これから静かに「AdWords」から「Google Ads」への広告シフトに挑むことになる。広告ブロッカーが普及したようなWeb広告の体験作りの失敗は、テレビやアプリでは通用しない。優れた閲覧/視聴/使用の体験と、効果的な広告チャンスの両立が肝であり、だからこそ、これから1〜2年でバランスの良い透明性を実現できるかが重要になる。