チーム・コミュニケーションを円滑にするビジネスのサポートツール「Slack(スラック)」。コロナ禍におけるリモートワーク文化が進んだことも相まり、近年は多くの企業が導入を始めている。では、Slackはどのように企業のコミュニケーションを円滑にしているのだろうか。今回は2022年1月からSlackを全社導入したLIFULL(ライフル)の事例を紹介する。→過去の「Slackで始める新しいオフィス様式」の回はこちらを参照。
スレッド機能で業務効率化を図ることが目的だった
住宅・不動産ポータルサイトである「LIFULL HOME'S」などを企画・運営するライフルは、現在Slackのビジネスプラスプランを全社導入し、約1200人もの従業員に対してアカウントを付与している。
以前は別のコミュニケーションツールを利用していたというライフル。社内ツールを移行した経緯について、Slack全社導入の舵をとった籔田綾一氏は次のように語る。
「Slack導入前に全社導入していたツールはタスク管理もしやすく、UIもシンプルで便利ではあったんです。ただ、社内でコロナ禍に関係なく、リモートで仕事ができる環境をつくるための『デジタルワークスペース構想』という計画が進んでいまして。構想を実現するためには、従来のツールがやや機能不足でした」(籔田氏)
「承認フローを自動化し、業務効率化が図れるツールを検討していた」という籔田氏。当時、一部の技術部門で独自導入されていたSlackが目に留まり、全社導入の検討を始める。Slackを選ぶ決め手の1つとなったのは、メッセージに対して個別に返信ができる「スレッド機能」だった。
「実は、導入以前のツールは『以前相談した件だけど……』と連絡を受けた際、『どの件だっけ』とやりとりをさかのぼのが少々大変でした。Slackは話題ごとにスレッドを立て、時系列順に進捗状況を確認できることが一番の魅力。なおかつ他のコミュニケーションツールよりもアプリ連携のハードルが低く、業務効率化をスムーズに推進できると思いました」(籔田氏)
全社導入をするための唯一のネックは「価格帯」だったという籔田氏。導入自体に真っ向から反対する社員はいなかったものの、従来のツールよりもコストがかかる、社内稟議を通すうえでの関門だった。籔田氏はどのように社内交渉を行ったのだろうか。
「Slackを導入し、全社員が1日1分以上の業務効率化ができればペイできる、という試算でした。しかし私個人の経験から、過去の情報を追うためだけに10分以上ロスしてしまうこともあったので(笑)。スレッド機能を活用するだけで『1日1分』という目標は容易にクリアできると判断したんです。経営陣にもその旨を伝え、決裁に至りました」(籔田氏)
アプリ連携を行い、業務管理をSlackに集約する
2021年9月~12月の3カ月間は従来のツールと併用してSlackを運用し、2022年1月からSlackへの完全移行を果たしたライフル。
従来のツールにあったタスク機能が利用できなくなることを惜しむ声もあった。だが、個々の社員がもともとコミュニケーションツールの利用に慣れていたこともあり、業務の起点としてSlackが機能することに時間はかからなかった。
籔田氏をはじめとする運用サイドでは、情報漏洩リスクを取るためのルールを厳密に決めているという。
「徐々にルールを開放していき、縛りはなくしていくつもりではあります。ただ現状は統制を図るためにも、Slack上でどこまでやりとりしていいか、というルールをしっかり定めています。基本的に機密情報の共有は禁止。外部とやりとりができるSlackコネクトの利用についても申請制を取っています。誰と、どういうやりとりをするかを事前に共有してもらい、情シスで都度承認しているんです」(籔田氏)
広報をはじめとする全社的なチャンネルのほか、情報システム周りの相談チャンネルなども運用しているライフル。情報をストックする価値があるチャンネルはパブリックで開放し、細かな案件のやりとりなどはプライベートチャンネルで各自コミュニケーションを取っているという。
また、Google Workspaceなどのツールとアプリ連携し、通知をSlackに飛ばせるような工夫を行うことで、社員がメールを見落とさないような工夫も施している。
「例えばGoogle Workspaceのアンケートフォームを社員が入力すると、メッセージが通知されたり、システムにエラーログが出力された時にメンションを飛ばしてくれたりするような仕組みを作っています。社員もコミュニケーションツールの利用歴が長いこともあって、メールでのやりとりがもともと少ないです。だからこそ、通知がメールで届いてしまうと見過ごしてしまうリスクが高い。Slackにそれらの通知を集約することで、より社員が迅速な対応を取れるような環境整備を意識しています」(籔田氏)
また、社内で発生したIT関連の疑問を解決するための「ITサポートセンター」は、あえて問い合わせをプライベートチャンネルで対応しているという。
「全社的にオープンなチャンネルでコンタクトを取ってもらうことも可能ですが、別途問い合わせフォームも用意しています。フォーム経由で問い合わせを行った社員に対し、担当者が手動でプライベートチャンネルを作成し、詳細を個別でやり取りしてもらっています。プライベートチャンネルでのやりとりに切り替えた結果、『問い合わせがしやすくなった』と社内からも好評でした。毎日数十件ほどの問い合わせが来るので、個人的には『プライベートチャンネルの作成も自動化できればいいのでは』とも思ったのですが、担当者も現状はあまり苦ではないようです」(籔田氏)
Salesforce連携を進め営業サイドの満足度をアップさせたい
Slackの全社導入を開始してから半年以上が経過した2022年9月、ライフルでは社員を対象に、Slack導入にまつわるアンケートを行った。
アンケート結果によると、全社のうち約半数がSlackを「やや満足」「満足」と回答。技術部門の約40%以上の社員が「1日に10分以上効率化した」と回答したという。
その一方、営業部門は技術部門と比べると活用はこれからだ。籔田氏は「営業部門が使いやすくなるような仕組みづくりが今後の課題です」と述べている。
「そもそも、弊社では町の不動産と商談する機会が多く、電話営業やFAXでのやりとりがまだまだ主流で、メールすら使っていないクライアントさんも多くいらっしゃる。Slackを導入しているクライアントさんも数える程度なんです。社内コミュニケーションでも直接的な会話を好む社員が多く、Slackの利用頻度を底上げすることが必要です」(籔田氏)
社内アンケートの結果から、よりSlackの活用促進を行うべく試行錯誤するライフル。では、営業サイドの利用満足度を高めるべく、どういったアップデートを検討しているのだろうか。籔田氏は「営業管理システムであるSalesforceとSlackの連携を早急に進めていきたい」と今後の展望を語る。
「ライフルではSalesforceが業務の基幹に組み込まれており、特に営業にとってSales Cloudは必要不可欠なツールです。ただ、以前は承認をはじめとするToDo通知がメールに届くことから、営業部門ではSlackとメールを常に両方チェックしなければいけない状況下にありました。現在は、Slackを介してリマインドや承認通知を受信できるようにしたことで、クイックな対応ができるようになってきています。受注関連のお知らせも、Slackでメンションが届くようになったので、それだけですぐアクションが取れます。営業サイドに『Slackがないと困る』と思ってもらえるためには、いかにSlackとSales Cloudを紐づけるかが鍵を握っていると感じます」(籔田氏)
「現時点でもSlackは十分に浸透している」と念を押す籔田氏。最後に、今後Slackの導入を検討する企業に対し、次のようにアドバイスを述べる。
「従来ならSlackをSales Cloudと連携するためには、エンジニアリングが必要でした。しかし、直近のアップデートで、コードを書かずに連携できるようになったんです。我々もずっと『早く連携しなきゃ』と思いながらなかなか踏み込めなかったのですが、アップデートを受け、やっと前に進めるようになりました。SlackとSales Cloudを連携することで、冒頭に述べた費用対効果もクリアでき、効率も確実に上がります。セッティングに時間をかけず、営業サイドの生産性を上げるコミュニケーションツールであることは間違いないので、Salesforceを導入している会社はSlack一択だと思います」(籔田氏)