企業のITインフラやさまざまなITサービスを実現するうえで「サーバ」は欠かせない存在で、企業が求めるIT人材として知っておきたい必須知識の1つでもあります。

本連載では、「サーバとはいったいどのようなものか?」に始まり、利用方法や種類などの基礎的な知識とともに、セキュリティ対策や仮想化、サーバレスなど効率的にサーバを利用・管理するうえでのポイントといった、情報システム担当者の実務に役立つ話題を紹介していきます。

連載第3回は、デル・テクノロジーズの岡野家和さんに、サーバのパフォーマンスを支えるCPU・GPU・HDDについて解説してもらいます。

オンプレミスで普及しているアーキテクチャ「x86」

前回、「サーバOSの種類」で紹介されたWindows ServerやLinuxは、「x86」と呼ばれるアーキテクチャを採用した、インテルやAMDのCPUを搭載したサーバで稼働させることが一般的です。

x86を採用したCPU搭載のサーバは「x86サーバ」と呼ばれるか、または1980年代にx86アーキテクチャを採用したIBM PC/ATとその互換機が世に広まった背景から「PCサーバ」と呼ばれます。あるいは、それまでのメインフレームなどの汎用機と対比させ「オープン系サーバ」という呼称もあります。

PCで普及していた「x86」の採用により、サーバで豊富な商用アプリケーションの利用が可能になり、同時にハードウェアコンポーネントのコストも抑制されました。一方、PCよりも耐久性の高いCPUやメモリの利用に始まり、電源や冷却ファンといった主要コンポーネントの二重化、そしてデータバックアップやサーバそのものの二重化の仕組みなど、さまざまな工夫で、サーバとしての信頼性も実現されたことから、x86は今日のオンプレミス環境のサーバにおける、主流のCPUとなっています。

  • 2Uラック型サーバに搭載されているCPU(AMD製)、出所:デル・テクノロジーズ

CPUのトレンド - クロック周波数よりコア数で性能向上、消費電力は増加傾向

2022年3月時点のx86サーバ用CPUの最新モデルは、「インテル Xeon スケーラブル・プロセッサー」と「AMD EPYC」の第 3 世代です。2社ともに、近年はクロック周波数の向上よりもコア数の増加で性能を向上しています。x86サーバ市場の9割を占める2CPUおよび1CPUのサーバで振り返ると、クロック周波数は、過去15年間横ばいです。逆にコア数は20倍以上増えています。

ただ、最適なCPUコア数の選定に際しては、経済性も考慮する必要があります。例えば、主要な商用データベースは、ライセンスがコア数で課金されるため、サーバ導入に際してはコア数とソフトウェア費用のバランスが重要です。選定にあたっては、各メーカーが公開するアプリケーション、サーバ、CPUのベンチマークデータや検証済み構成が参考になるでしょう。

一方、業界を代表するサーバ仮想化の基本ソフトウェアは、CPU単位でライセンスが販売されており、また1ライセンスの利用可能コア数が32に制限されています。したがって、この分野では32コアまたは64コアのCPUが、ソフトウェア投資効率を最大化できるCPUと言えます。

最新世代のCPUの最上位モデルは、TDP(設計上のCPU単体の最大法熱量)が270Wや280Wというスペックを持ちます。2世代前、2014年頃のサーバは、最上位のCPUでもTDPは145Wでした。近年のサーバの消費電力が、いかに増加傾向にあるかがわかります。サーバの消費電力が大きくなると、発生する熱の対処が課題になりますが、発熱とその冷却については、連載第4回で詳細に解説します。

並列処理性能の高さからGPUがサーバで活用される

GPU(Graphics Processing Unit)は元々、画像処理に特化した半導体として、ワークステーションやハイエンドPCで普及しました。当初、サーバでのGPUの活用は、一部の用途に限られていましたが、2008年頃から画像処理以外の汎用コンピューティングにGPUを使う、「GPGPU(General Purpose GPU)」という手法が認知され始めました。

CPUのコア数が1桁台だった当時、すでに数百コアを持っていたGPUは、大量の並列計算に強く、この点がHPCコミュニティ(ハイパフォーマンスコンピューティングの開発者や研究者、利用者など)で注目を集めました。またこの頃、NVIDIAがソフトウェア開発者に向けて、GPUコンピューティング用の統合開発環境「CUDA」を公開しました。こうしたエコシステムの充実も、GPGPUの普及を後押ししました。

2010年には、スーパーコンピューターの高性能ランキング「TOP500」の上位に、GPUスパコンが初めて入り大きな話題となりました。

今日のAIブームをけん引している機械学習、特にその手法の1つである深層学習(ディープラーニング)の普及は、サーバでのGPU活用をさらに拡大させています。人の脳神経を模したニューラルネットワークという数理モデルを使う深層学習では、元々GPUの得意としてきた超並列型の演算が大量に行われるためです。現在この分野では、コア数7000超のハイエンドGPUが人気を博しています。

同クラスのGPUは消費電力も高く、単体の最大消費電力が300Wや400Wに上ります。そうしたGPUを複数搭載する深層学習用のサーバには、排熱と冷却が十分に考慮された設計が求められます。GPU搭載に特化した専用のサーバが、汎用サーバとは別に、各社からリリースされている背景にはこうしたニーズがあります。

  • マシンルームで作業するIT担当者の様子。用途が多様化する中で、サーバの稼働に影響を与えない環境構築が求められている、出所:デル・テクノロジーズ

用途特化型のサーバの台頭は、AI以外の分野でも顕著です。現在注目を浴びている「エッジコンピューティング」では、データの発生場所の近くにサーバを置いてデータ処理を行うため、データセンターやオフィス以外での稼働を前提としたサーバが必要です。

このため、各メーカーが販売するエッジ用サーバには、使用環境がサーバの作動に悪影響を与えないための特長を有しています。過酷な温度環境、埃や振動に対する耐久性、小型な筐体などです。

なお、通信キャリア向けには、上記の特長に加え、通信機器用の安全性ガイドラインへの準拠も行われてきました。また、最新の取り組みとして、5G(第5世代移動通信システム)の基地局基盤に求められる、通信業界固有のアクセラレーターをx86サーバに搭載する需要があり、そうした新しい世代の用途特化型サーバ活用に向け、サーバメーカー各社が競争を続けています。

HDDからSSDへ、フラッシュストレージはスタンダードな選択肢に

一時的なデータ保存先として、また小規模なシステム構成においてはストレージの代替として、従来、サーバにはHDDが搭載されてきましたが、不揮発性の半導体メモリ(フラッシュメモリ)で構成されたSSDの活用も一般的な選択肢となってきています。サーバでのデータ保存先としてSSDを選択する理由としては、性能の優位性と近年の容量単価の下落に加え、故障率の低さも挙げられるでしょう。

現在、PCI Expressをインターフェースに持つ「NVMe(エヌブイエムエー、不揮発性メモリ・エクスプレス)」と呼ばれる SSDが、普及期に入りつつあります。NVMe SSDの価格は低下傾向にはあるものの、相対的にはまだ高単価です。ただ、抜群の性能により、サーバでの採用はもちろん、企業用ストレージ市場での「オールフラッシュ」製品の成長も促しています。

岡野家和
デル・テクノロジーズ データセンター ソリューションズ事業統括 製品本部シニアプロダクトマネージャー

IT業界で過去15年に渡り、x86サーバの製品部門にて、プロダクトマーケティングおよび新規ビジネス開発を経験。2019年からDell Technologiesの日本法人でサーバ製品のテクニカルマーケティング、社外エバンジェリスト活動および社内トレーニングなど、全方位的に従事。