米国株に興味がある方は昨年あたりから聞こえるようになった「M7(マグニフィセント7)」という呼び名を聞いたことがあるかもしれない。
3-4年前までGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれた米テック株を牽引する代表的企業は、一昨年頃からMicrosoftを加えGAFAMと呼ばれるようになり、昨年ごろから、これにNVIDIAとTeslaを加えた“マグニフィセント7(M7)”という呼称が現れた。すべて、各社の頭文字をとった語呂合わせだが、これらの巨大グローバル企業の動向は世界に大きく影響を与える米国経済の原動力となっている。
世界のテック経済に大きな影響を与えるM7
株価150-500ドルという超高値を続けるM7は全て技術主導のテック企業であるが、常に変化する市場環境で株価が乱高下するので、投資家にとっては非常に魅力的である。
かつては各企業が独自のビジネス領域を持っていて、そのカテゴリーで巨大化するというパターンだったのが、現在ではこれらの企業はさらなる成長を求めてお互いの領域を侵食しつつある。SNS・検索エンジン、電子機器、自動運転、AIなどの先進分野で世界中にユーザーベースを保有する各社は、その膨大なデータベースを駆使して新たな技術とビジネスモデルを次々と繰り出す。
昨年からこの企業群に加わったNVIDIAの登場は強烈であった。昨年一年間で総売り上げが2倍になり、時価総額が3倍になるという信じられないスピード出世であった。生成AI市場の急拡大の波に乗ったNVIDIAは現在では500ドルをつける株価でM7の中でもダントツの存在となった。今年も、M7企業はテック各分野で大きな変革を起こしていく。
マグニフィセント7(M7)と「荒野の7人」
オールドファンの方々は「荒野の7人」という1960年代の米国のアクション西部劇をご存じの方も多いかもしれない。日本でも人気が出て再公開が何度もされている。実はこの映画の英語の原題は「Magnificent 7(マグニフィセント7)」である。「偉大な7人」とでも訳されるのであろうが、米国株取引の現場でこんな古い映画のタイトルが使われているのは興味深い。
1960年公開のジョン・スタージェス監督のこの映画は、主演がユル・ブリンナーとスティーブ・マックイーンで、若いころのチャールズ・ブロンソンや、ジェームズ・コバーンらが登場する。舞台はメキシコの寒村で、盗賊による略奪に喘ぐ貧しい農民たちが、テキサスの凄腕ガンマン達を雇って盗賊一味を撃退するという単純なストーリーである。拳銃・ライフル銃の凄腕ガンマン、ナイフ投げの名手、賞金稼ぎなど個性豊かな登場人物が壮絶な戦いの末に多勢で攻め寄せる盗賊団から村を守るという展開で、息詰まるシーンの連続は今見ても大変に面白く、続編が作られるなど興行成績でもかなりの実績を上げた。
「荒野の7人」と「七人の侍」
さらにオールドファンは「七人の侍」という黒澤明監督の代表作を観た方もいるだろう。
実は、「荒野の7人」はこの黒沢監督の名作を西部開拓時代に翻案したリメーク版である。
1954年発表のこの映画は、白黒映画ながら上映時間207分の大作である。映画館での公開では休憩時間を挟んで前編と後編に分けて上映される。
こちらは日本の戦国時代が舞台になっていて、百戦錬磨の武士、居合抜きの名人、槍や弓の名手などといった個性豊かな侍たちが登場するが、200分を超える長編でありながら時代背景の細かい描写や、米国の西部劇の撮影手法を参考にしたという当時としては斬新な複数カメラ、望遠レンズの効果などを取り入れた迫真のリアリズムに徹した映像は、CGの多用による視覚効果を駆使した現在の映画と比較しても全く遜色ない迫力がある。
前編は、戦いに明け暮れる戦国時代下で虐げられる農民の過酷な状況と、村を守るために凄腕の侍をリクルートする過程が描かれ、後編は、多勢で村を略奪する盗賊団と侍/農民の壮絶な戦いが粒子の荒い白黒映像でリアルに描かれる。たった七人の個性豊かな侍の集団が、どのような戦術で多勢の盗賊団を撃退するかの過程は手に汗握る展開で、観る側を思わず特定の登場人物に感情移入させてしまうストーリーの展開手法は、この手のアクション映画ではその後も何度も採用されている。
現在でも歴代映画の人気投票で常に上位にランクされる名作中の名作で、お時間がある方には是非お勧めしたい作品である。ただし、古い映画なので、音声が聞き取りにくい部分が多くあるので、ビデオでご覧になるときには字幕を参考にした方がいいかもしれない。
1954年という年は世界に冠たる映画が多数日本から発表された年で、この年にはもう1つの不朽の名作「ゴジラ」が制作されたことも付け加えておきたい。
さて「荒野の7人」と「七人の侍」の結末は、盗賊撃退のために農民に雇われた7人の戦士は壮絶な戦いの末に3人となってしまう。その後、七人の侍では、死んでいった侍の墓を背景に生き残ったリーダーとその女房役が村を去るシーンで、農作業に精を出す農民たちを見ながら交わす二人の次のような象徴的な会話で終わる。
リーダー役:「今度もまた、負け戦だったな」
女房役:「は?」
リーダー役:「いや、勝ったのはあの百姓たちだ。わしたちではない」
M7各社はビジネス拡大のために熾烈な競争を繰り広げていて、結末はまだ想像することは到底できないが、結果的に我々ユーザーが勝者となるものになってほしいものだ。