実は筆者はこの歳になるまでTシャツやポロシャツの類を自分で買ったことがない。長年、外資系半導体メーカーに勤めたおかげで、会社から無料で配られた自社ノベルティーTシャツ・ポロシャツ類が山ほどあって、中にはまだ袖を通していないものもある始末だ。カミさんからは「かさばる」と大変に評判がよろしくないが、それぞれに思い出があるので余程ぼろぼろにならない限り捨てることがない。
やたらとTシャツを作りたがる外資系半導体メーカー
私は普段AMDのTシャツを着ている時が多く、よく「いつも同じロゴマークの入ったシャツを着ていますね」、とか「AMDって何ですか?」、などと聞かれることがある。それにしてもAMDでは大変に多くのTシャツを手に入れた。未だにAMDに勤務している人が、ご厚意で送ってくれたりもするので、Tシャツは増えることはあっても減ることはない。他の外資系半導体企業でもTシャツは結構配られるというのは聞いたことがあるが、その中でもAMDの場合、特に多かったのではと感じる。その経緯には次のようなものがあると思う。
- 半導体の新製品の開発から市場投入までには実に多くのチームが関わる。製品コンセプト策定、基本設計、回路設計、製造プロセス開発、前工程、後工程、出荷試験、マーケティングプラン、営業等々実に多くのチームが一つの方向に向かって突き進む事が成功の秘訣だ。そのためにはチームメンバーと各チーム間の連帯感が必須条件となる。特に外資系の場合には言葉や文化を異にするメンバーが共通目標をもって結束するには何か目に見える、肌で感じられるものが手っ取り早い。そこで、各チームでは最初のミーティングで「まずはTシャツを作ろう」、という自然の流れができる。
- そういうことであればTシャツというのは非常に有効な方法だ。低コストで制作できて、大抵の人はタダであればもらって悪い気はしない。また簡潔なデザインとパンチの利いたスローガンを印刷することで強いメッセージ性を持たせることができる。
- シリコンバレーが位置するカリフォルニア州は気候が温暖で、一年中昼間はTシャツで過ごす人もいるくらいなのでTシャツはいくらあってもかまわない。
こんなわけで、私は24年間のAMDでの勤務で支給されたシャツ類のおかげで、自身この種の衣類を買ったことがない。
Am386からEPYCまで、歴代のAMDプロセッサーTシャツのコレクション
山ほどあるTシャツの中で私が一番気に入っているのは、AMDの歴代マイクロプロセッサーをデザインしたものである。AMDがプロセッサーブランドとして初めて市場に認識された「Am386(Intel80386互換製品)」から、最新のサーバープロセッサー「EPYC」まで全てが揃っている。同じブランドでもアップグレードが行われる度にTシャツが配られるので、その数は非常に多い。その中のいくつかを写真に撮ったのでご紹介する。
プロセッサーブランドばかりでなく、いくつかの企業買収、合弁企業設立を経験した時の思い出の品もある。ここに掲載されているのはAMDが富士通とNOR型フラッシュメモリーの合弁会社「FASL(Fujitsu AMD Semiconductor Ltd.)」を設立した時に設立に関わったAMDと富士通の関係者に配られたポロシャツである。FASLはその後Spansionというブランドに生まれ変わったが、そのSpansion社もCypress社に買収され、そのCypressは現在はInfineon社の一部となっている。実際FASL時代を憶えている人は限られていて、今では相当な歳になってしまっていると思う。ましてやこのポロシャツは合弁会社創立のごく初期に少数の関係者に配られたもので超レア品であると言える。ボロボロになっても捨てられない理由だ。
この他にもFerrariなど他分野の有名ブランドとのコラボ系のノベルティシャツもある。多額なマーケティング資金を投下してのFerrariとのコラボ品は、自社ノベルティのレベルではなく、コアファンにとっては貴重なコレクターアイテムとなるものであろう(もっとも私自身はF1にはあまり興味がなく、色も派手すぎるので着たことはないが)。
他にも実にたくさんご紹介したいシャツ類があるが、きりがないのでこの辺にしておこう。
益々身近になる半導体
最近、編集部から面白いサイトを紹介された。米国のとある大手オンラインデザインショップで、「半導体 Tシャツ」で検索すると私のような半導体オタクが見ているだけで楽しくなるようなデザインが施されたTシャツがずらりとでてくる。有名半導体メーカーブランドを前面に出したものや、「私は優秀な半導体設計エンジニアです」というメッセージをあしらったもの、トランジスタの基本ロジック構造、初期のアナログ回路の拡大図等々、すでに引き出し一杯のAMD関連のシャツがある私でも注文したくなってしまう楽しいデザインばかりだ。日本でもユニクロがオリジナルデザインのTシャツを作れる「UTme!」というサービスを提供していて、半導体業界関係者がデザインしたTシャツを買うこともできる。
近年、半導体が一般人にも身近なものになってきていて、それが何かはよく知らないけれど「半導体」という言葉の響きが「何かクールなモノ」として一部の人々にブームになっているのかもしれない。生成AIの利用者の拡大によって、今後半導体がますます一般人に近しい存在となるのは確かなようだ。