2017年もあとわずかで終わろうとしている。皆さまを取り巻くビジネスの環境はどうだったろうか? 今年のキーワードは「忖度」と「インスタ映え」だそうだが、今年の半導体業界を一言で言ったら「超怒涛の年」というのが大半の皆様の実感なのではないかと思っている。そこで、私の独断と偏見で3つの分野での急激な変化についてコラムを前後編で書くことで今年の総括とすることにした。

1. 好況に沸く半導体業界と急速に進む再編成

今や、半導体は空前の活況に沸いている。サプライチェーンの川上から川下まで需要が供給を大きく上回る状況が続いている。この状況は少なくとも来年の前半までは継続されるだろうというのが大方の見方であるらしい。モノが確保できないで大変な思いをしている方々のご苦労は理解するとして、モノ余りで業界全体が沈滞している状況よりははるかにいいことは確かだ。今年の半導体業界の動きで私の関心を大きく引いたのは次の点である。

超大型合併による業界再編

ソフトバンクがArmを買収する。Freescale SemiconductorをNXP Semiconductorsが飲み込んだと思ったら、その後、Qualcommがそっくり買収を仕掛けている。その買収交渉が進んでいる最中にBroadcomがQualcommに買収を仕掛ける。業界再編は私がAMDに勤務していた時も日常茶飯事であった。しかし、昨今の再編劇でなんと言っても私の関心を引いたのはその途方もない買収金額である。

買収話が発表されると必ず繰り返される枕詞となっている「過去最大規模のM&A」は私の時代の何千億円のレベルから何兆円の時代に一気に加速した。報道によるとBroadcomのQualcommへの提示額は15兆円だという。世界第三位の経済国である日本の一般会計予算が約100兆円であるからその額の巨大さが計り知れるであろう。今や、巨大半導体メーカーは中程度の国をそっくり買ってしまうほどの財力を持っているということだ。超大型買収による業界再編は半導体の業界内だけで起こるとは限らない。異業種間での再編が加速するであろうことはすでにコラムにしたとおりである

Intelが首位陥落、Samsungに首位に

20年以上半導体業界のキングとして君臨した常勝Intelが売り上げベースでSamsung Electronicsに首位の座を明け渡したことも大きなニュースであった。プラットフォームがPCからスマートフォンに移行したのが大きな原因だと思われるが、フラッシュメモリの需要を大きく伸ばした原因の1つであるデータセンターのサーバ用CPUはまだまだIntelが独占している。かつてOpteronで15%以上のシェアを奪った我が愛するAMDも次世代高性能CPUを発表し、気を吐いている。利益率の高いサーバ市場の再度の切り崩しにかかるだろう。低消費電力でスマートフォンのCPU市場を掌握したArmがこの市場に食い込んでくることも報道されている。どうするIntel?!

ITプラットフォーマによる自前半導体開発の動向

Appleが自前のデザインによるCPUを使用していることはかなり前から明らかであったが、もう1つ今年になって顕著になったトレンドはアプリ、サービスなどを主たるビジネス母体として急成長したGoogle、Amazonなどの巨大ITプラットフォーマーが、自前の半導体、端末などを開発し、市場への投入を開始したことだ。このトレンドはすでに大きな市場を作り出し、スマート・スピーカーの市場(スピーカーと呼ばれているが、私にはどうしても集音器にしか思えない…)では、この両者がエンドユーザーの囲い込みを狙ってGoogleとAmazonが直接ぶつかる事態にまで発展している。

半導体業界の再編は行き着くところまで行ってしまったという観測もあるようであるが、私はそうは思わない。異業種間の再編はこれからも継続されることが予想されるし、なんと言っても電子機器のビルディング・ブロックである半導体はすべてのハードウェア技術の土台であり、さらなるイノベーションに必要な資金はさらに増加するのだから、再編のトレンドはまだまだ続く。来年はエレクトロニクス技術を国家プロジェクトとして据える中国(その後はインド)系の資金があからさまに活発化すると予想される。

(次回は12月25日に掲載します)

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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