これからの未来に向けて、ただのポーズ取りではなく、人類が本気で取り組まなければならないSDGs(持続可能な開発目標)。本連載では、国内における起業家やスタートアップを中心にビジネスの話に加え、今後の企業における事業展開にも重要性が帯びてくるSDGsに関する考え方を紹介します。→「SDGsビジネスに挑む起業家たち」の過去回はこちらを参照。
「サステナブルリテール」で事業展開するオイシックス・ラ・大地
企業理念を「これからの食卓、これからの畑」と定め、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決し、持続可能な社会の実現を目指すオイシックス・ラ・大地。独自基準に基づいて厳選した安心・安全な食品を全国約50万世帯の顧客に届けるサブスクリプション型食品ECを主要事業として営む。
同社は社名からも伝わるように「オイシックス」と「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」が経営統合してできた会社だ(それぞれ2017年10月、2018年10月)。さらに2019年5月にはヴィーガンミールキットブランド「Purple Carrot」を展開する、米国Three Limesを子会社化し、米国での事業も開始した。
オイシックス・ラ・大地は企業理念に基づく「食のこれからをつくり、ひろげていく」との考え方を大事にしながら、生産者と顧客を直接つなぐ役割を担い、サプライチェーン全体を持続可能にする「サステナブルリテール」の関係を築きながら事業活動を進めてきた。
本稿ではオイシックス・ラ・大地の直近の取り組み事例をいくつか紹介するとともに、同社 取締役 執行役員の松本 浩平さんにインタビューした内容をもとに、同社の現在とこれからの取り組みについてお届けする。
0.2%の食品廃棄率をさらに下げていく取り組み
最近の大きな動きとして、2023年5月に発表された、都内で「旬八青果店」を6店舗運営するアグリゲートとの業務提携契約締結が挙げられる。同社は契約生産者や全国の市場とのリレーションを持ち、ストーリーのある農産品を数多く開発・販売している。
食の課題をビジネスの手法で解決することを企業理念とするオイシックス・ラ・大地は、前出のように、安心安全にこだわった食材を取り扱う食品宅配サービスを展開する。事業活動領域が共通することから親和性も高く、共に事業領域を拡大すること、安定した商品流通を行うこと、余剰青果を有効活用することなどの実現を目指し、業務提携契約締結に至った。
「弊社の食品廃棄率は、約0.2%(一般食品小売では約5~10%)と極めて低水準を実現しています。サブスクリプションサービスのため需要予測をしやすいこと、生産者から種を撒く前に買付け量を決める契約栽培を行い、産地から直接調達することなどが大きな特徴です。それにより需給をマッチングして、川上(畑、産地)・川中(流通)・川下(食卓)とサプライチェーン全体において、廃棄をできる限り減らす体制を構築しています」(松本さん、以下同)
川中(流通過程)では過剰発注の抑制、未活用だった食材をアップサイクルし、地球と身体にやさしい新しい食を作るブランド「Upcycle by Oisix」などを通じた加工品への利用により、廃棄を削減する工夫をしている。
2022年春、神奈川県海老名市に新設したフードロス削減に特化する「フードレスキューセンター」もその一助となっている。食材の非可食部分に対し、食感・保存をコントロールする技術を用いて、産地や流通過程で生まれていたフードロス削減のほか、アップサイクル加工などを行う施設だ。
また、川下(食卓)においても同社主力商品のミールキット「Kit Oisix」が家庭での食品廃棄を約1/3に減らしていることが独自の調査で明らかになっている。
「それでも、ECだとリードタイムがあって販売できないものもあり、どうしても廃棄は一定量出てしまう」と松本さんは補足する。旬八青果店とのコラボにより、物流センターから店舗へ送って販売したり、弁当の具材として加工したりといった取り組みをスタートすることで、さらなる廃棄減へ期待をしているという。
食領域特化のファンドで食の社会課題解決を
2023年3月には、同社が運営する投資子会社Future Food Fundが、フードイノベーション領域に特化したCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)ファンド「Future Food Fund 2号投資事業有限責任組合」(以下、FFF2号ファンド)を組成し、同4月よりスタートアップへの投資活動を行っていくことを発表した。
さらに、2023年5月には、日本政策金融公庫とコメダホールディングスから同4月までに出資を受けたことを伝えている。なお、コメダホールディングスはFFF1号ファンドへも出資し、2022年7月には業界初となるプラントベースの食材のみを使用した喫茶店「KOMEDA is □」を東銀座にオープンするなど、新しい食領域へと果敢に挑戦していることが伺える。
FFF2号ファンドは2023年12月のクローズまでに、FFF1号ファンド(2020年に組成完了)と合わせて総額70億円規模のファンドを目指し、国内外の食分野の社会課題を解決しようとしている多様なスタートアップを投資対象とする。
「例えば、植物肉の会社に出資すれば、そこで作られた植物肉をOisixなどのサービスを通じてお客さまにお届けすることができます。このほか、食品加工に活用するロボットの会社など、労働人口減少など今後課題になってくるような領域をカバーすると考えられるスタートアップに対し、積極的に出資をしていきます」
Future Food Fundは食領域に特化したファンドとしては日本国内で初の設立でありながらも、FFF1号ファンドではLPとして参加した事業会社は14社にも及ぶ。彼らの物流や生産、商品開発、マーケティングノウハウなどを活用し、投資先スタートアップへの実行支援を引き続き行っていく。
自社の仕組みを用いて社会貢献活動も
事業ではないが、RCF、ココネット(セイノーホールディングスグループ)と連携して運営するプラットフォーム「WeSupport」が実施する、ひとり親世帯を中心とした子どものいる困窮家庭に向けた食品支援のプロジェクト「WeSupport Family」(2021年12月より開始)の活動にも触れておきたい。
WeSupport Familyの仕組みは食品の寄付に協力するサポート企業と、支援先の各団体とをマッチングし、各団体が運営するフードパントリーなどを通じて食品支援が行われるというもの。
2023年2月には、1万5,045世帯(2023年1月末時点、1都3県が中心)への支援を実施し、企業からの食品寄付数が昨年対比で約3.9倍(2022年12月~2023年2月と、2021年12月~2022年2月との食品寄付数量の比較)になった。また、食品寄付をするサポート企業は、51社(2023年2月20日時点)と過去最多を記録。
WeSupport Familyの活動の責任者を務める同社コーポレートコミュニケーション部 部長 大熊拓夢さんは「活動の最大の特徴は、食品の寄付にご協力いただいているサポート企業さまに支えてもらいながら行っていることにあります」と語る。
「取り組みたい社会課題のある企業、担当者の方は多くいますが、自社で物流の仕組みを整えたり、支援先と調整したりといったことを一から行うのはとても大変です。私たちはプラットフォームとしての機能を持っているので、食品を送っていただければその先の支援はお任せいただけます」(大熊さん)
昨今の物価高は、ひとり親世帯の家計にも影響を及ぼしていることは明らかだ。オイシックス・ラ・大地の思想に共感する企業からの食品寄付が増加していくことは、支援内容の充実や支援の継続につながっていき、食卓で笑顔になる人々を増やすことだろう。
給食市場でB2Cサブスクの知見を生かす
最後に業績やこれからのことにも着目したい。2023年3月期の業績サマリによると、売上高は1,151億7,000万円で昨年より微増。良好な経営環境の下、今期から本格的に取り組もうとしているのがB2Bサブスクだ。具体的には「給食市場」への挑戦を一層強化するが、オイシックス・ラ・大地では早くも2015年から保育園給食関連事業を行ってきた。
「弊社では保育園への食材卸事業『すくすくOisix(※)』のノウハウ、取引のある約750園の保育園ネットワークを活用し、2022年6月より保育園給食向けの業務用ミールキット事業を展開してきました。
保育園でも調理師さんの人数が足りていないなど、人材不足をはじめとする課題が出てきているので、その声にお応えしています。保育園給食の場合、食材費に調理担当者の人件費が加わりますが、弊社のミールキットを使うと約2割ものコストカットが可能との結果も出ています。
食材費は上がりますが、人件費は下がることから、トータルでのコストダウンを実現しています。多様な課題を抱えている保育園に本サービスを広げていく中で、弊社の関連会社となったシダックスとも積極的に協業していくことを考えています」(松本さん)
※旧らでぃっしゅぼーや(2018年に経営統合)の事業として2015年7月にスタートした、安心・安全な食材を保育施設で利用してもらうサービス。2023年5月末時点で700の保育施設で導入。食材の調達や商品の配送に加え、栄養士による献立作成や栄養相談、食育コンテンツの提供など、保育施設の業務負荷軽減ができるサービスを提供。
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給食市場の規模は約4.5兆円と非常に大きく、幼稚園・保育園や高齢者施設、病院給食、弁当給食、事業所対面給食などの分類がある。最も伸びているのが高齢者施設である一方、縮小しているところもあるが、共通の課題となっているのは労働力不足だという。
そこで一助となるのが、オイシックス・ラ・大地がB2Cサブスク領域で構築してきた強みである。同社が保有するプラットフォームや作り上げた仕組み、蓄積した知見などのすべてはB2Bサブスク領域で展開可能なものだ。
上質な商品を大量に調達してきた生産者とのつながりを生かして食材を調達し、B2Cで長く扱ってきたミールキットを業務用として製造。幼稚園・保育園・学校給食向けのミールキットであれば、自社のノウハウをもとに子どもが好むメニュー向けのものを製造できる。調理の負担を軽くできるミールキットを取り入れることで、人手不足の解消に寄与できると見込んでいる。
給食事業を中心に展開するシダックスとの協業も、B2Bサブスク領域で活発化する。シダックスが委任調理を請け負った新規の保育施設では、2023年4月よりテストマーケティングを開始。2025年3期以降での病院や高齢者施設などでの事業展開も視野に入れているという。挑戦を続ける同社の動きから目が離せない。