今、あらゆる企業で人材育成が求められています。中でも、営業担当者(セールス)の育成は企業の行く末を左右する大きなテーマです。“強い営業組織”を実現するため、「セールスイネーブルメント」に着目する企業も多いのではないでしょうか。

セールスイネーブルメントとは、セールスという行為を科学し、自社で継続的に活躍できるセールスパーソンを育成する取り組みです。専任の担当者や組織を設け、戦略的に臨むことで大きな効果が期待できます。

本連載では、セールスイネーブルメント組織を立ち上げ、運営していく上で重要なポイントについて、筆者の経験を交えて解説していきます。

第1回となる今回は、セールス育成を社内で行う必要性と、実際にセールスイネーブルメント組織の立ち上げからスタートした弊社の現状の成果についてお伝えします。

なぜ社内で育成する必要があるのか

日本は今、大きな変化の中にあります。人的資本経営が注目されるようになり、転職も身近になったのはその一つです。そうした渦中において、企業が生き残っていくには「人材を惹きつける会社でい続ける」ことが何より重要になっています。

さらに、コロナ禍を経て消費者の価値観も大きく変わりました。この変化に対応していくには、売る側の意識もアップデートしていかなければなりません。これからの時代は、セールス育成に投資し、強い組織を作れるかどうかに企業の命運がかかっているといっても過言ではないのです。

「セールス育成」と言うと、これまでは外部研修やコンサルティング会社を活用する企業が多かったと思います。しかし今後、育成は外注ではなく、内部で実施することが必須になっていくでしょう。

なぜなら、社外の方に自社のサービス・商品や顧客をゼロから現場と同じレベルまで理解してもらうのは非常に時間がかかり、育成に取り組むのが遅くなってしまうからです。自社で活躍できる「実践的スキル」を持つセールスを育成したいなら、自社の商品や顧客の特徴、競合他社と比べた際の強み・弱み、活用できる社内リソースを知り尽くしたメンバーが育成を担うのが断然効果的です。

売上93%アップ、離職率19%ダウンを達成

では実際、社内でセールスイネーブルメントに取り組むにはどうしたらよいのでしょうか。

現在、弊社のセールスイネーブルメント組織は、営業戦略部門の中にあり、並列で「セールスアクセラレート」というチームがあります。セールスイネーブルメントはBtoCのフィールドセールス育成を担っており、中途入社者が早期に現場で成果を出せるようサポートします。

一方、セールスアクセラレートは新卒などインサイドセールスの育成が目的です。インサイドセールスとして成果を出せるようになると、セールスイネーブルメントがフィールドセールスとして育成するという流れです。

  • セールスイネーブルメント

    セールスイネーブルメントの組織体制の例

セールスイネーブルメントが目指すのは、「自社でフィールドセールスとして活躍するための再現可能なスキルを特定して型化し、浸透させること」です。これは、自社のセールスプロセスを理解し、必要なスキルを身に付ければ、取り扱う商品が多少変わってもセールスとして成果を出せるという確信と実績があるためです。

また、継続して成果を出せるようになれば、成長実感を得られるだけでなく、会社で求められる存在になるため、離職率も下がります。事実、弊社でセールスイネーブルメントの仕組みが整った2022年度は、2021年度に比べてセールス1人当たりの売上は93%アップ、離職率は19%ダウンしました。

ゼロスタートから、成果を出せるようになるまで

とはいえ、自社に合ったセールスイネーブルメント組織を立ち上げるのは一朝一夕にはいきません。ここで筆者がたどった道のりを簡単にご紹介します。

筆者がGAテクノロジーズに新卒入社したのは2014年。当時、創業からまだ1年のスタートアップだったので、人材育成などという発想はゼロに等しい状態でした。入社日に、営業に関する本をたった1冊手渡され、戸惑ったものです。そこで先輩の電話商談を聞き、トークスクリプトを作成。先輩にロールプレイングを依頼し、フィードバックをもらい、面談同席も自ら希望。新しく入社した人は自ら試行錯誤し、もがきながら成長するしかなかったため、離職率が高かったのは事実です。当然、自社の方針に合う人材要件など、言語化できていませんでした。

転機が訪れたのは2018年。東証マザーズ(現グロース)に上場したことに伴い、採用活動が加速しました。そこでセールスの育成ニーズが高まり、筆者が社内で初めてのセールス育成担当者に選ばれたというわけです。

まずは「中途入社者の早期立ち上がり」を目指し、入社後1カ月間のインプット研修と、合格基準を設けたロールプレイング試験を企画し、1人で運営していました。しかし、立ち上がりは早くなったものの、配属後に安定して成果を出すことがなかなかできませんでした。1カ月の研修と試験では、限界があったのです。

その後、専任メンバーを2名増員し、3名体制になったことで、できることが広がりました。そこでインプット研修に加え、商談に同席してサポートする3カ月間のOJTを実施。新人も実践経験を積んでから現場に配属されることで、成果が出しやすくなりました。

同時に、セールスアクセラレートを営業戦略部門に据え、中立的な立場でセールスを育成する体制を整備しました。これらの変更により、入社3カ月後の成績がアップするなど確かな手応えを得られています。

現在の体制と育成コンテンツに至るまでは、既存メンバーの育成に挑戦したり、サポート期間を入社後3カ月から6カ月間に延長したりと、試行錯誤を重ねました。セールスイネーブルメントに「完璧」はないため、今後も改善を繰り返していきますし、それがあるべき姿だと考えています。

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今回は、セールス育成を社内で行うメリットと、実際にセールスイネーブルメントに取り組んだ成果についてご紹介しました。次回からは、自社でセールスイネーブルメント組織を立ち上げるために、「まず何をすべきか」「避けるべきポイントは何か」についてお伝えしていきます。