これまでの連載では個人・法人の四輪と二輪のBaaS事業モデルを解説したが、これから2回に分けてBaaS事業とのシナジー効果が大きい「バッテリーライフサイクル事業」と「蓄電池システム事業」を紹介したい。

連載5回目の今回はバッテリーライフサイクル事業とBaaSの親和性、両者を1つの事業として検討することによる事業性向上について解説する。

バッテリーライフサイクルとは

車載電池は年数経過と共に劣化していく特徴があり、車載電池は電気自動車に搭載・使用し始めてから、電池容量(充電できる最大容量)が80%以下になると電池交換することが推奨されている。電池容量が80%以下になると電池性能が急激に落ちる恐れがあり、走行中の危険性が高いためだ。

電池交換のタイミングは電気自動車の使用頻度により異なる。タクシーのような商用車では新品の電池搭載・使用開始から3~4年後、個人では8年後程度と言われている。

下記図のように、電池の種類によって、交換された電池の処理は若干異なるが、一般的にはリビルド、リユース、リサイクルという3段階を経て、電池利用が循環する仕組みとなっている。

  • 車載電池のライフサイクルマネジメントの全体像

    車載電池のライフサイクルマネジメントの全体像

リビルド

電池性能を再生して、電池容量を再び100%近くに復旧し、一般車両の車載電池として使用する。ただし、電池性能が再生できる電池は限られている。ニッケル電池を搭載するトヨタのプリウスはリビルドを利活用している典型的な例である。

リユース

電池容量がまだ80%程度は残っているため、電池再利用可能な領域がいくつかある。上記図のように特定敷地内の低速車の車載電池としての使用や、あるいは業務用のバックアップ電源から再エネ用の蓄電池システムまで幅広く利活用可能になる。

リサイクル

最終的に電池容量が20%以下になると、再利用の経済効果がなくなるため、解体リサイクルによりレアメタルの抽出を行い、再び電池材料として新規電池の製造へ循環していく。

車載電池のバッテリーライフサイクルの3段階においては、再利用先の幅が広いことから、リユースが最も経済効果が大きいと言われている。

これまでの車載電池リユースの課題

一方、車載電池のリユースに関しては、大きく3つの課題がある。

1つ目は「電池規格が統一されていない」という点だ。 車載電池のリユースには、同じ規格(サイズ、形状や容量など)の製品を、再加工・再パッケージ化することで、低コスト化を実行しやすくなるのだが、電池規格が異なると再加工のコスト増加や、そもそも再加工できないケースがほとんどだ。

リユース事業者にとっては規格が統一された車載電池を回収し、再加工することが理想的である。しかしながら、下記図のように、現在は車載電池の標準規格がなく、サイズ、形状と容量、場合により電圧・電流にも違いがある。特に電池メーカーが乱立している中国では、車載電池の種類が非常に多く、同じ規格のリユース電池の回収が難航している。

  • 電動二輪の電池種類(1例)

    電動二輪の電池種類(1例)

2つ目の課題は「電池性能のバラつきが大きい」という点だ。 ある程度同一性能の電池を揃え再パッケージする必要があるため、バラつきの大きい電池の選別作業が必要となる。電池を1枚ずつ性能評価するのは時間もコストもかかり、規模感を求める車載電池リユース事業にとっての高い障壁になる。

3つ目の課題は「リユース電池の数量不足」だ。 リユース電池不足問題は、これから特に日本で発生すると予想している。日本は日産リーフを中心に、個人消費者向けの電気自動車販売がメインであり、普及台数がまだ少ない。さらに、個人が車載電池の廃棄・交換するタイミングは予測が難しく、一定量を揃えることが困難だ。

例えば、日産リーフの車載電池は24kWh、36kWhと42kWhの3パターンが存在している。MWh単位の電池容量が必要となる蓄電池システムの場合は、同時に日産リーフ数十台分の車載電池が必要となる計算だ。車載電池リユースを事業として本格的に展開する際には、安定的なリユース電池供給が事業成立のための条件の1つとなるため、日本にとっては大きな課題である。

バッテリーライフサイクル事業はBaaSモデルとの相性が良い

車載電池のリユースに関しては上記のような課題がある一方で、BaaSモデルはバッテリーライフサイクル事業と相性が良い。

第1回「電池観点から見たEV普及の壁とBaaSモデルの出現」にもBaaSモデルの特徴を記載したが、BaaSを採用する四輪と二輪の電池交換ステーションでは、数台~数十台分の車載電池が1か所で集中管理されるため、まず統一規格の電池を使用することが大前提となる。加えて、BaaSシステムを通じて電池性能や電池の劣化状況・寿命についてもモニタリングできるため、上記3つの課題解決に向けた1つのソリューションとして考えられる。

また、第4回「アジアにおける電動二輪のBaaS普及加速の背景」にて中国鉄塔のBaaS事業を紹介した。電動二輪の電池を5G基地局バックアップ用電源としてリユースすることが、彼らがBaaS事業に取り組む狙いの1つだ。電動二輪の車載電池は、48V仕様、重さ10キロ程度で5Gの小型基地局用に非常に適している。電池性能の担保や、数量や回収タイミングの予測もできるため、“BaaS+バッテリーライフサイクル”におけるベストプラクティスと言える。

日本でも車載電池のリユース事業に挑戦しているプレイヤーがいる。日産自動車と住友商事によって2010年に設立されたフォーアールエナジーは、日産リーフの車載電池を再加工・製造し、家庭用蓄電池システムなどの定置型蓄電池に再利用している。

リーフの電池のみを対象とするため、電池規格の問題はないが、回収された電池の性能状況をしっかり評価した上で安全性が担保できる製品作りが必須のため、電池性能評価にかかる時間とコストをいかに低減するかが重要課題の1つであると思われる。

そこで、例えば“BaaS+バッテリーライフサイクル”という切り口で事業構築の可能性を検討する価値は十分にあると筆者は考えている。BaaSモデルによって、EV購入時の価格が大きく低減することで、日産リーフのさらなる拡販にも繋がり、バッテリーライフサイクル事業を含め、グローバル展開など総合的な事業構築ができるようになるだろう。

また、蓄電池システムのユーザーである電力企業、エネルギー企業や蓄電関連事業者にとっても“BaaS+バッテリーライフサイクル”の検討価値は十分にあると感じる。

日本の法人車両領域はモビリティ電動化のブルーオーシャンと言って良い市場であり、中国の事例からも分かるように法人車両の電動化はBaaSモデルと非常に相性が良く、普及もしやすい特徴がある。

このような市場に“BaaS+バッテリーライフサイクル”という切り口で、今まで電池を活用する側にあった電力企業、エネルギー企業が電池ビジネスにも参画でき、車載電池のライフサイクルに応じたトータルな事業構造が考えられるようになるのだ。

【著者】

胡原浩(こはらひろ)
株式会社クニエ
パートナー、グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主にM&A、会社/事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、イノベーション関連などのプロジェクトを担当。 中華圏を含めグローバルにおけるEV/モビリティ、蓄電池、エネルギーとハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)

王延暉(わんいぇんふぇい)
株式会社クニエ
クニエのグローバルストラテジー&ビジネスイノベーショングループに所属。モビリティ分野及び中国市場関連を中心に、クライアントの海外進出支援や新規事業確立の支援等を担当。 特に車載蓄電池分野において、技術開発の実務経験を持ち、新規事業立案から実行支援までのプロジェクト経験がある。 大阪大学大学院卒業