ここのところ、ニコニコ動画における実演動画や、電子工作関連の雑誌や書籍が増えてきて書店にコーナーが設けられているなど、電子工作が静かなブームだ。インターネットの普及も一因ではないかと考えている。インターネットでデータシートが手に入れられたり、個人がホームページやブログでノウハウを共有するだけではなく、企業が一個人に対して様々なサービスを提供する場を作ったのも電子工作ブームに貢献しているのではないかと思う。

筆者は職業で電子回路設計を行ってはいるものの趣味で回路設計や製作を行ってくることはあまりなかったのだが、周りに電子工作を始める人間が出てきたこともあって手を出し始めたところだ。今はまだ既存のマイコン基板を使ったりブレッドボード上で回路を作って遊んでいるだけだが、いずれはプリント基板を起こすところまでやってみたいと思っていた。そんなわけでプリント基板を初めて作製する模様をお伝えしよう、というのが本連載の趣向である。

初めてプリント基板を作る回路として適当なものとして何があるかと考えたところ、ヘッドフォンアンプ回路を思いついた。これなら部品点数も少なくミスする可能性も低い上に完成後は実用になるのでちょうどいい。ヘッドフォンアンプなら持ち歩いて使いたいのとなにかしら制限があった方が作りやすいので、今回は電池駆動とケースに入る物という2つを条件とすることにした。

ケースとして使おうと考えているのは、入手性の高い無印良品のPPピル・ピアスケースを使おうと考えている。

ポリプロピレン製なので加工も楽なのもいい点だ。これに電源として積層乾電池 006P(四角くてなめるとビリッとする電池)を使うことにする。電圧が高い分あまり容量がない電池だが、ヘッドフォンアンプは消費電力が大きくないので十分使い物になるはずだ。

無印良品のPPピル・ピアスケース(ここに製作したプリント基板と電池を入れる)

簡単で高音質なヘッドフォンアンプとして有名なChu Moy氏の回路を参考に、抵抗とコンデンサのパラメータを調整して作ってみた。

とりあえずブレッドボード上で問題なく動作することは確認できているので、これを上記ケースに入れられるサイズの基板にするのが今回の目的ということになる。

ブレッドボード上で動作を確認。問題なく動いている

インターネット上で基板作製を請け負ってくれる会社はいくつかあるが、今回の連載ではP板.comを選んだ。

選んだ理由はいくつかある。

  • 老舗であること
  • CADツールの無償提供を行っていること
  • ツールだけでなくライブラリの提供も行っていること
  • 低価格であること
  • 個人からの依頼も受け入れてくれること

などだ。

ということで、P板.comを運営しているインフローにおじゃまし、同社の代表取締役である田坂正樹氏に話を伺った。

P板.comの運営を行っているインフローの代表取締役 田坂正樹氏

――まずはP板.comを興された経緯から教えていただけますか。

田坂:私は、以前ある金型メーカーに在籍していました。その会社でB2Bの部品販売も行っていたのですが、業績が伸びなかったので数年後にその部署が閉鎖になってしまいました。部品販売の後には、プリント基板の販売と調査をしていたので、新たに会社を興して事業を始めることにしたのです。

――実際に事業を始めるからには勝算があると考えたからでしょうが、どのような点を長所と考えたのですか。

田坂:勝算はいくつかありました。製品としてプリント基板が扱いやすかったからです。その理由は

  • リピート性があること
  • 法人が主なので嗜好や流行の変遷が少ないこと
  • 受注生産なので在庫を持つ必要がないこと

などがあります。また当時は国内外の基板製作費用に大きな差があったのも理由の1つです。

――現在も国外工場のみで基板を作っているのでしょうか。

田坂:いえ、現在は早い納期を求めるお客様のために国内工場も使っています。品質管理が厳しくなって工場を視察させてほしいという要望もあるので、それにも対応できるようにしています。

――現在の売り上げ構成はどのようになっているのでしょうか。

田坂:プリント基板製造が8割、1割が設計委託、1割が実装といったところです。基板製造の大まかな内訳は大手企業の研究開発試作、中小企業の小数量産、理工系学校の実験用が主ですね。

基板製造と実装がもう少し揃うかと思っていたのですが、思ったより実装の依頼が少ないので今後は伸ばして行きたいと考えています。

――それは具体的にはどのようなことをして伸ばすのでしょうか。

田坂:現在、チップ抵抗とチップコンデンサの一般的な物は無料で提供しているのですが、これを増やしていくことで伸ばしていきたいと思っています。

――設計を依頼するのはどのような顧客ですか。

田坂:主に法人や学校ですね。個人の方はやはり自分で設計される方がほとんどです。

――製造依頼される基板の内訳はどうなっていますか。

田坂:多いのは2層か4層で、注文の7~8割に上ります。残りは片面か6~8層。顧客にヒアリングしたところによると、多層板は価格よりも信頼性を重視して従来から使っている基板業者を利用することが多いようです。

――では、P板.comの売りはどこでしょうか。

田坂:Webサイトに必要とする仕様を入力するだけで見積もりができることが1つ。さらに回路図CAD、基板CADを無償提供しているのでまったくツールを持っていないお客様でも利用できるところですね。

現在はいくつかネット上でプリント基板製造を請け負っているところもありますが、当社が他社と違うのはネット通販専門だというところです。

――CADソフトを無償提供していますが、他のCADソフトを使ってのデータ作成は可能なのでしょうか。

田坂:まったく問題ありません。ぜひご利用ください。当社がCADソフトを提供しているのはCADソフトを持たない方でも気軽に利用してもらえるようにということですので、他のCADソフトをすでに利用していてそれに慣れているお客様はそちらを使っていただければと思います。

――今後の事業展開として考えていることはどのようなことですか。

田坂:P板.comの売りは低価格で高品質なところですが、現在ほどの品質はなくても良いのでもっと安いものを希望するお客様がおられます。特に個人のお客様では価格を見て躊躇される方もいらっしゃると思うので、従来のコースとは別にローエンドコースを新たに作ろうと計画しています。

――具体的にはいつ頃提供されるのでしょうか。

田坂:今期中には提供できるように動いています。

――他に計画していることはありますか。

田坂:DRC(デザインルールチェック)の自動化システムを構築中です。完成すれば受注サーバ上でそのシステムを動作させ、お客様のデータを自動でチェックできるようになります。これによりユーザーサポートの手間の削減を期待しています。

また、先ほど話したローエンドコースも含め、今後は海外からも受注していこうと考えています。海外で生産した基板をそのまま海外工場に送ってほしいという依頼も受けるので、それを実現するためでもあります。

――なるほど。本日はありがとうございました。

田坂:こちらこそありがとうございました。

次回はP板.comへの無料ユーザー登録とCADソフトのダウンロード、インストールを行うことにする。

プリント基板を作るのにはユーザー登録が必要になるのだが、ユーザー登録すればパターン設計CADのライブラリ7000点がダウンロードできるのは見逃せない。そんな話も含め、次回から実際の作業に入っていくことにする。