3.カーソルと自動測定
(1)カーソル登場前
オシロスコープの画面は垂直軸と水平軸を持ち、一目盛当たりの単位が明示されています。目盛いくつ分の大きさだと目で読み取って、それを一目盛当たりの単位で換算することによって、初めて波形の大きさを知った訳です。つまり、一目盛1Vと明示された画面において、5目盛分の大きさで描かれた波形は5Vの大きさを持つことになります。ところが、実波形がちょうど切りのいい大きさではない時(例えば、6.2目盛)は換算も楽ではありませんし、観測者によっては、6.1目盛と読み取るかもしれませんし、6.3目盛と読み取るかも知れません。
(2)カーソル
そこでカーソルが登場しました。カーソルは波形の要素(パラメータという振幅や周期など)を数値化するために使われます。まさに波形に定規を当てるように、2本の線("カーソル"と呼ばれる)を測定したいポイントに移動するだけで、その点のパラメータ(電圧や時間)を数値化し画面に表示してくれます。カーソルを使えば、目で読み取らなければならない「ストレス」と頭で換算するときの「計算ミス」から開放されます。波形の大きさや距離を、目で見て、頭で換算するしかなかったオシロスコープに、カーソル機能が、強力な「測定力」を加えました。
カーソルには波形データのみをなぞることのできる「波形モード」と画面のどの部分でもなぞることのできる「スクリーン・モード」があります。
カーソル:波形モード
波形モードのカーソルは縦2本の直線で構成されます。波形データとこれらの直線は必ず交差しますので、交差した点が2つ発生します。これらの点と点の間を縦に測れば、電圧、横に測れば、時間を測ることができます。これらの点は必ず測定対象の波形データ上を動くことになりますので、新たな測定点を定めるときも、横の移動量のみに注力すればOKです。縦方向の移動量を気にする必要がありません。確実に素早く波形を測定することができます。
カーソル:スクリーン・モード
スクリーン・モードのカーソルは縦2本、横2本の合計4本の直線で構成されます。縦の直線と横の直線が交差する点は4カ所生じますが、この内、対角の2点を使います。これらの点と点の間を縦に測れば、「電圧」、横に測れば、「時間」を測ることができます。これらの点は波形に関わらず、画面上のどこにでも移動できますので、自由度の高い測定が可能です。例えば、画面上から消え入ろうとしている残光部分(残光部分とは、かつて波形データにより一度描かれた波形が、画面に表示データとして残っているだけで、すでに波形データはない)でも対象にすることができます。
(3)自動測定
自動測定機能を使えば、カーソル機能よりさらに簡単に波形パラメータを測定することができます。よく使われる何種類ものパラメータがオシロスコープ内にあらかじめ準備されており、ユーザはそれを選択するだけで、波形のパラメータが自動的に計算され、画面に表示されます。ユーザは「ストレス」と「計算ミス」から開放されるばかりではなく、波形にカーソルを当てることからさえ開放されます。自動測定機能がオシロスコープの「測定力」をさらに強力なものと変えました
ノイズが多い場合、ノイズに関してヒストグラムをとり頻度の一番多い点を自動的に測定対象とすることもできますので、人の勘に頼る必要もありません。ノイズで膨れた波形に「この辺かな…」とカーソルを当てるよりずっと正確な測定ができます。測定対象となる波形の「ここからここまで」と測定対象範囲まで、指定することができます。
しかし、これら超便利な機能は諸刃の剣であることを忘れてはなりません。測定の基本を知らなくても、それらしい結果が得られます。パラメータの定義も理解せず、垂直軸・時間軸を不適切に設定したままでは、行った測定は間違いだらけの結果となります。例えば、「ピークツーピーク」自動測定と「振幅」自動測定は定義が違いますし、立上り時間測定にも10%-90%定義と20%-80%定義があります。これら便利な自動測定機能は測定の基本を身に着けた、パラメータの定義を理解したエンジニアのための機能です。初心者レベルのエンジニアは、けしてご乱用無きようご注意ください。
著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長