水中戦のエース格(?)といえば、魚雷と機雷である。魚雷については前回取り上げたので、今度は機雷の話に移ることにしよう。まず最初に、機雷の側のお話から。

機雷の種類いろいろ

「機雷」と聞いて、読者の皆さんはどういったものを思い浮かべるだろうか。よくありそうなのは、昔の戦争映画なんかで登場する、「球形の缶体の周囲に角がいっぱい生えていて、それにフネがぶつかると起爆する」というものだろうか。

確かに、そういうクラシックなタイプの機雷は今でも現役だ。というか正確にいうと、過去に造られた機雷の在庫がまだある、という話だろうか。しかし、これだけが機雷だなどと思うなかれ。実際にはもっと多種多様である。

機雷を眺めるときには、設置形態と起爆形態と、二種類の視点から見る必要がある。

まず設置形態だが、もっとも連想されやすいのが海面にプカプカ浮いている浮遊機雷だろう。これなら目視で存在を確認できる可能性がある。しかし、固定しないで海面にプカプカ浮いていたのでは、流されてどこかに行ってしまい、狙ったフネを仕留められなくなったり、狙っていないフネを勝手に沈めてしまったりするリスクがあって使いづらい。

そこで係維機雷が登場する。海底に錘のようなものを沈めて、そこからケーブルで機雷の缶体をつなぐ。機雷自体は浮力があるが、下からケーブルでつながれているので海面には出ない。ほどほどの深度になるように、海底までの深さに応じてケーブルの長さを調整する必要がある。

起爆方法の観点から見ると、浮遊機雷も係維機雷も、基本的にはフネがぶつかると起爆する。これを触発機雷という。メカ的には単純で、ITも何もあったものではない。昔からある伝統的な機雷である。

では、浮遊機雷や係維機雷以外にも何か設置形態があるのかというと、それがある。海底に設置する沈低機雷である。その名の通り、(海面や海中ではなく)海底に沈める形で設置する。

沈低機雷の場合、原理的に触発機雷にはなり得ない。フネは座礁を避けるために、吃水と比べて充分に水深がある場所にしか寄りつかないのが普通だ。それでは、海底に陣取った機雷に接触することは期待できない。

そこで起爆方法の観点から見ると、沈低機雷は触発以外の方法で起爆させる必要がある。

いまどきの機雷は賢い

沈低機雷は、直接的な接触以外の方法でフネの接近を検出して起爆装置を作動させる。だから、これを感応機雷という。理屈の上では係維機雷でも感応機雷にできそうなものだが、そんな事例があるかどうかは寡聞にして知らない。

船体が接触すると起爆して土手っ腹に穴を開けるのが係維機雷である。対して沈低機雷の場合、機雷は船体のすぐそばで爆発するわけではない。では威力が落ちるのかというとトンでもない話で、実際にはフネの真下で起爆させると船体が真っ二つになることもある。

実は機雷だけでなく魚雷も同じで、わざと船体の土手っ腹ではなく下を通過するぐらいの深度に調定・駛走させて、船体の真下を通過したときに起爆させるものがある。そちらの方が、土手っ腹にぶつけるよりも威力が大きいのだ。

では、「非接触式で」「フネがちょうど真上を通ったときに起爆する」仕掛けを実現するにはどうするか。そこでいろいろな手が考え出された。

まず、磁気。フネは巨大な鉄の塊だから、磁気を帯びる。その磁気を探知して起爆するものだ。魚雷を船体の真下で起爆させるときにもこの手を使う。

そこで、軍艦は磁気起爆式の機雷や魚雷の作動を妨げるために船体の消磁を行う。その作業を行う消磁所という施設があるが、海自の消磁所なら横須賀軍港めぐりのフネに乗ると見ることができる。おっと、閑話休題。

次に、水圧。巨大なフネが航行すれば水圧の変化が発生するので、それを探知して起爆するものだ。ゆっくり航行しているときよりも高速で航行しているときの方が危ない。

そして音響。エンジンやスクリューから発する音を聴知して起爆するものだ。もちろん、賑やかなフネの方が危ない。

複合感応機雷とカウンター

さらに始末が悪いことに、これらの感知手段のうちひとつではなく、複数の手段を併用するものがある。たとえば磁気水圧機雷がそれだ。複数の感応手段が作動要件を満たすと初めて作動する複合感応機雷は、騙して起爆させようとしても難易度が高い(その辺の話は次回に)。

また、探知すると一発で起爆するのではなく、事前にカウンターに仕掛けた回数だけ待ってから起爆するものもある。たとえば、1回目に通過したときには何も起こらず、5回目になっていきなりドカンというわけである。

もちろん、機雷によってカウンターの設定値を変えることができるので、必ず5回目にドカンとは限らない。3回目かも知れないし、23回目かも知れないし、256回目かも知れない。仕掛けた当事者しか真相を知らない。

この手のメカニズムを機械的に作り込もうとすると大変だが、コンピュータ技術が発達したおかげで実現が容易になったし、作動の確実性も向上した。と、ここのところが「軍事とIT」らしい話題である。実は機雷もハイテク化の恩恵を受けているのだ。

その代わり、マイクロプロセッサを作動させる電池が消耗したら、機雷も作動しなくなる。しかし、いつになったら電池切れになるかは機雷を製作・敷設した当事者しか知らないのだから、機雷を処分する側からすると、機雷がそこに存在する限り、それは作動する可能性があるものとして扱わなければならない。

そもそも機雷というのは、そこにそれが存在する可能性があるというだけで敵対勢力の行動を制約する、まことに心理的要素の強い兵器である。その点では地雷と似ているが、目で見て探して掘り返すわけに行かない分だけ、機雷の方が嫌らしい。「地雷女」という言葉はあるが「機雷女」という言葉がないのは不思議だ(なんのこっちゃ)。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。