航空自衛隊がしばらく前に、次期練習機としてテクストロンT-6テキサンIIの採用を決めている。そして、そのテクストロンが2025年12月22日に、「日本向けT-6JPのうち、第一陣の納入に関する合意をまとめた」と発表した。合意の内訳とは、機体を2機と、パイロットや整備要員の訓練に使用する機材というものだ。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 航空自衛隊が採用を決めたT-6テキサンII練習機 Photo:USAF

    航空自衛隊が採用を決めたT-6テキサンII練習機 Photo:USAF

戦闘機パイロット養成は段階式

練習機はその名の通り、「飛行機の操縦を習うための機材」というのが一般的な理解であるし、事実、その通りである。ただし軍用機の場合、飛行機の操縦だけ習っても、話は半分しか終わらない。

軍民を問わず、最初はシンプルで低速なプロペラ機から初めて、段階的に、高性能の機体に移行していくのが一般的。まず「飛行機の基本」を身につけてから、高性能・高度・複雑な機体に移行するようにしないと、手に余る。

それに、性能が上がって飛行速度が高くなれば、その分だけ迅速な状況把握と判断が求められる。新人に、いきなりそれを要求するのは無理があるというものだろう。

ところが、軍用機、とりわけ戦闘機の搭乗員を養成する際には、飛行機を操縦する能力だけでなく、飛行機が備えるウェポン・システムを使いこなす能力も身につけさせなければならない。

現在はそういう話になっているが、CCA(Collaborative Combat Aircraft)の利用が一般化すれば、さらに「随伴する無人機にも目配りして、任務を指示する能力」まで求められることになる。

  • 米海軍が使用している高等練習機は、BAEシステムズのホークを改設計したT-45ゴスホーク。最大の変化は、空母への発着艦を可能にしたことだが、T-45の後継機は陸上専用になるようだ 出典:US Navy

    米海軍が使用している高等練習機は、BAEシステムズのホークを改設計したT-45ゴスホーク。最大の変化は、空母への発着艦を可能にしたことだが、T-45の後継機は陸上専用になるようだ 出典:US Navy

戦闘機の入口となるLIFT(Lead-In Fighter Trainer)

例えば航空自衛隊の場合、T-7から課程を始めて、次はジェット練習機のT-4、そしてF-2とステップアップする。その先は、F-15、F-2、F-35といった実用機に進む。そしてウェポン・システムを扱う話が入ってくるのは、F-2から先になる。

ただ、F-2やF-15みたいな実用機で訓練するとなれば、機体を調達する際の経費も、維持管理・運用するための経費も、けっこう高いものにつく。もっと安価に訓練できないか、という話が出てくるのはもっともなことである。

そのためか、機体そのものは練習機だが、ウェポン・システムの訓練もできる能力を備えた機体を用意してはどうか、という発想が出てきた。それがいわゆるLIFT(Lead-In Fighter-Trainer)と呼ばれるカテゴリー。ここでいう “Lead-In” は「導入」と訳せば意味が通るだろう。要は「戦闘機に乗るための入口となる練習機」である。

そこで鍵を握るのが、実はシミュレーション技術。ウェポン・システムの扱いを身につけるのに、本物の射撃管制レーダーや本物のミサイルを撃つ必然性があるのか、シミュレーションでも訓練はできるんじゃないか、という話である。

それなら、そこそこ高性能の練習機に、実用機と同様のウェポン・システム、すなわちレーダー射撃管制システムをはじめとするセンサー機器の操作や、機関砲あるいはミサイル発射といった機能の操作について学ぶためのシミュレータ機能を載せればいい。それを具現化したのがLIFTと呼ばれる機体。

シミュレーション機能はコンピュータとディスプレイ装置があればいいので、LIFTのために機体から新規設計しなければならないとは限らない。現に、LIFTとして販売されている機体の多くは、既存の高等ジェット練習機に所要のアビオニクスを追加して、ウェポン・システムの扱いを訓練する機能を追加する形で作られている。

  • LIFTといってもジェット機とは限らない。写真のピラタスPC-21はターボプロップ単発だが、ちゃんとLIFTとして通用する 撮影:井上孝司

    LIFTといってもジェット機とは限らない。写真のピラタスPC-21はターボプロップ単発だが、ちゃんとLIFTとして通用する 撮影:井上孝司

戦闘機訓練を変えるグラスコックピット

ただ、追加するといってもコックピットのスペースには限りがある。飛行のために必要な計器類に加えて、ウェポン・システムの訓練に使用する計器や操作系を追加するスペースがあるのか。ウェポン・システムが進化・高度化したときに、それらをすげ替えなければならないのか。

ディスプレイや計器やスイッチといったハードウェアを専用に用意して作り付けるのであれば、そういう問題が出るのは当然のこと。しかし、グラスコックピットを活用すれば事情が変わる。

ウェポン・システムの訓練を行うときは画面を切り替えて、飛行計器は必要最小限のものを出しておき、センサーや兵装の操作に関わる画面をドーンと表示させる。ウェポン・システムの内容や機能が変わったときには、それに合わせてソフトウェアを改修することで、画面に表示する内容もアップデートする。

つまり、いまどきのLIFT機では、機上に搭載するウェポン・システムのシミュレーション訓練機能だけでなく、それのマン・マシン・インタフェースとなるグラスコックピットも不可欠のものとなる。

それも、小さな画面をいくつも並べるのでは表示の柔軟性を欠くから、F-35やグリペンEみたいに大画面のディスプレイを据え付ける方が良い、という話になる。

もしもの話、将来、F-35に乗るパイロットを養成するということなら、F-35と似たマン・マシン・インタフェースを表示するようにすれば、習得の負担を軽減できる……そんな考え方もあり得よう。

今後、戦闘機のパイロットは「戦闘機を操って戦う能力」もさることながら、「状況を正しく認識した上で、自機あるいは他機の搭載システムを駆使して交戦する、システム・オペレーターとしての能力」の比重が相対的に高まってくる。その能力を育成するためのLIFT機であり、機上シミュレーション訓練機能である。

練習「機」という、飛行機としてのハードウェアの部分ばかり気にしていると、そういう視点が抜け落ちてしまうことになるのではないか。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。