第543回や第615回で、地対艦ミサイルを主な武器とする地対艦交戦の話について書いた。今回はそれらの続きとして、地対艦の交戦手段と、それに関連する最近の話題をまとめてみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

今でも沿岸砲台を残しているフィンランド

地対艦交戦は、国土が海に面した国の専売特許。昔はそのために沿岸砲台を設置するのが通例で、前々回にも少し触れたように、ノルウェーでは1980年代に至っても沿岸防備用の砲台を維持していた。

それで終わりかと思ったら、フィンランドでは今も沿岸防備用の砲台があるという。フィンランドは冷戦期に、旧ソ連製の152mm砲ML-20を、1970年第半ばからは130mm砲M-46を沿岸防備用として配備しており、なんと後者は、今でも固定砲台設置型として現役だそうだ。

ただ、152mmとか130mmとかいう口径の砲はNATO諸国のスタンダードから外れているし、そもそも1970年代の配備ではモノが古い。そこで後継として、自走榴弾砲を配備する構想が進んでいる。

そこで候補として、BAEシステムズのアーチャー、エルビット・システムズのAtmos、KNDS(クラウス・マッファイ・ヴェクマンとネクスターの合弁会社)のCAESAR(Camion Equipé de Système d’Artillerie)、KONS TRUKTA-DefenceのZUZANA 2といった製品の名前が挙がっているという。

自走砲なら「撃ったら移動」ができるから、不動産の沿岸砲台よりも生残性が高いと期待できる。また、必要なときに必要とされる場所に展開させることもできる。ただ、誘導砲弾を使用するのでもない限り、移動する目標をいかにして精確に狙うかという課題は残る。

そんな事情もあってか、対艦巡航ミサイルが主役になった。ミサイルは自前の誘導能力を備えているし、低空を這って飛ぶから見つかりにくい。ただし以前にも書いた通り、ターゲティングをどうするかという問題は解決しなければならないが。

米陸軍の対艦弾道弾計画

米陸軍では、MRC(Mid-Range Capability)ことタイフォン・システムに、RIM-174 SM-6艦対空ミサイルとともに、RGM-109トマホーク巡航ミサイルを搭載する。MRCの車載式発射器は以前にも書いたように、Mk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)と同じキャニスターを共用する。

  • 米陸軍のMRCで使用する移動式発射機。要は車載式Mk.41である 写真:US Army

    米陸軍のMRCで使用する移動式発射機。要は車載式Mk.41である 写真:US Army

それとは別に、弾道ミサイルの計画もある。米陸軍では車載式の地対地ミサイルとしてMGM-140 ATACMS(Army Tactical Missile System)を配備・運用してきた。その後継について、ATACMSを改良する代わりにブラン・ニューの新形を送り出すことになり、ロッキード・マーティンが開発を進めている。

それがPrSM(Precision Strike Missile)。公称射程は499kmと、えらく細かく刻んだ数字だが、これはおそらく軍縮条約との絡みでそういっているだけ。実際、昨今では射程を500km以上に延伸する改良型の話も出てきている。

そのPrSMは、段階的に開発・配備を進めることになっている。一番手は現時点で開発中のPrSMインクリメント1で、地対地交戦専用。ターゲットは固定目標となる。

次がPrSMインクリメント2、別名LBASM(Land-Based Anti-Ship Missile、ロバズムと読む)。主な眼目は、シーカーを変更して、艦艇などの移動目標との交戦を可能とすること。

PrSMインクリメント2すなわちLBASMの射程は、PrSMインクリメント1と同程度になるようだが、それでも499kmという数字は一般的な対艦巡航ミサイルより長い。しかも飛翔速度が速いから、亜音速で飛翔する巡航ミサイルみたいな「飛んでいる間に目標が移動してしまう」問題は軽減できよう。

対艦弾道弾というと、以前から中国が熱心で、東風26(DF-26)の存在が知られている。その射程は3,000~4,000km程度といわれている。その前に登場した東風21D(DF-21D)は射程1,500km程度といわれていたから、DF-26の射程は2倍ないしはそれ以上に延びたことになる。

中国の対艦弾道ミサイルは、アクセス拒否・地域拒否(A2AD : Anti-Access Area Denial)手段の代名詞みたいにいわれることがある。また、「空母キラー」としての側面が強調されがちだ。射程が長くなればターゲティングの困難、あるいは誘導の困難は増すと思われるが、その話を書くと繰り返しになってしまうので措いておくとして。

実際に北京が「空母キラー」運用をどこまで真剣に考えているかはともかく。そういう話が流布されること自体、「物理的なA2AD」以前に「対艦弾道弾の存在を怖れて米空母が中国の近海に近寄らなくなる」効果を期待する、いわば「心理的なA2AD」という意味合いもあるのだろう。

誘導弾だけではなくシステムとして考える

つまり、巡航ミサイルにしろ弾道ミサイルにしろ、射程が長く、水平線のはるか向こう側にいる敵艦と交戦することを考えれば、単に「長射程のミサイル」という長い槍を配備すればそれで完了、とはならない。

敵艦の捜索やターゲティングを行うためのセンサー資産が別途、必要になることは論を待たない。また、そこから得たデータを迅速に伝達して交戦する、つまりキル・チェーンを迅速に回す仕組みを整える必要もある。

それは地対地交戦とも共通する話であり、以前に書いた「F-35Aから目標データを地対地ロケットに送る」と同種の仕掛けが求められるということでもある。それらも含めた「システム」を整備して、かつ、適切に使いこなせなければ、任務の達成はおぼつかない。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。