敵の経空脅威に対処するための防空装備は、陸海を問わず必要なもの。ただ、艦艇というプラットフォームに一式を積み込んで動き回る艦載防空システムと異なり、陸上の防空システムはスタンドアロン交戦を主体とする時代が長く続いた。しかしそれでは対処できなくなっている、というのが前回のお話。今回はその続きとなる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

統合的なSHORADシステムの登場

いうまでもないことだが、システム化という観点からすると艦載システムの方が先行していた。それに倣ってというべきだろうか、近年、近距離防空(SHORAD : Short Range Air Defence)分野のシステム化を図る動きがいろいろ出てきている。

サーブのMSHORAD

例えば、サーブは2022年4月に、MSHORAD(Mobile Short Range Air Defence)ソリューションを発表した。頭に“Mobile”と付くぐらいだから車載式で機動が可能だが、1両にすべての機能を詰め込むわけではない。

エフェクターは同社のRBS70地対空ミサイルで、それの発射機を車載化したMFU(Mobile Firing Unit)に載せる。一方、レーダーは同社のジラフ1Xを使い、これも車載化してMRU(Mobile Radar Unit)とする。さらに、これらを同社の指揮管制システムGBAD C2システムの管制下に置く。なお、GBADとはGround-Based Air Defenceの略、すなわち地上配備防空[武器]の意。

これらの機材を載せる車両は4×4の「MARS-S330」で、HMMWV(High Mobility Multi-Purpose Wheeled Vehicle)や高機動車と同じぐらいの規模だ。つまり、そんなに大きくない。ジラフ1Xレーダーは一式で150kg、トップサイド(つまりアンテナ)だけだと100kg程度と小型だから、小型の4×4車両でも載せられる。

  • MSHORADを搭載したサーブの「MARS-S330」 写真:サーブ

    MSHORADを搭載したサーブの「MARS-S330」 写真:サーブ

キモはGBAD C2システムの存在。ジラフ1Xレーダーで脅威を捕捉して、指揮下にあるMFUに目標を割り当てて交戦させる。ジラフ1Xの探知可能距離は75kmとされており、これなら広い範囲で全体状況を見渡せる。すると、撃ち漏らしや二重撃ちを避けながら適切な武器割当を行える、との期待を持てる。

もしも脅威の数とMFUの数が釣り合わないときには、優先順を付けて、脅威度が高いものから順に交戦させる必要がある。それもGBAD C2システムがあれば実現可能となる。

このMSHORADシステムは、2024年7月にリトアニアから13億クローネ(1億2,300万ドル)で受注を得ている。2025年から納入を始める予定となっている。

MBDAのCAMMを用いたPGZの防空システム

ポーランドでも2022年に、PGZ(Polska Grupa Zbrojeniowa)に対して、同種のシステムを発注している。エフェクターにはMBDA製のCAMM(Common Anti-air Modular Missile)を使い、車載式発射機を3両、それとミサイル輸送/装填車両、Sola 3Dレーダーで構成する。国産の8×8車両を使うというから、サーブの製品よりも大がかりなシステムになるようだ。

CAMMは、もともと英海軍のシー・セプター個艦防空システム向けに開発されたミサイルで、アクティブ・レーダー誘導だから撃ち離しが可能という強みを持つ。撃ち離しができるということは、ミサイル誘導用のイルミネータを持ち歩かなくても良いということである。

  • これがCAMMの実大模型。IMDEX Asia 2025展示会にて 撮影:井上孝司

    これがCAMMの実大模型。IMDEX Asia 2025展示会にて 撮影:井上孝司

タレスのVSHORAD

また、タレスも「フォースシールド」という防空システムを開発した。これはいわゆるVSHORAD(Very Short Range Air Defence、超短射程防空)に分類されるシステムで、タレス製のグラウンドマスター200(GM200)対空捜索レーダーを “眼” とする。そこに、可搬式の武器割当端末と、防空指揮管制システム「コントロールビュー」を接続する。

交戦に使用するエフェクターは、タレス製のLMM(Lightweight Multirole Missile)地対空ミサイルと、スターストリーク地対空ミサイルの2本立て。LMMは重量13kgで射程8km、誘導方式はセミアクティブ・レーザー、レーザー・ビームライド、赤外線の組み合わせ。スターストリークは重量14kgで射程7kmのレーザー誘導、炸薬弾頭の代わりに3本のダートで直撃破壊を行う点が特徴。

この2種類のミサイルの仕様を見る限り、射程の長短で使い分けるというよりも、誘導方式や破壊の方式の違いで使い分ける考え方に見える。

システム化した野戦防空を構築するということ

使用するアイテムは違っても、どのシステムでも基本的な考え方は同じといえよう。商売の観点からすれば当然のことだが、自社製品同士を組み合わせてシステムを構成することが多い。手元に都合のいい装備がなければ、PGZがMBDAのミサイルを組み合わせたように、他社製品を組み合わせることになるのだが。

なんにしても、構成要素がレーダー、指揮管制、ミサイル発射機や機関砲といった具合に複数に分かれて、それぞれを別個の車両に載せることになる。そのため、ケーブルをつないで「店開き」する手間は増えるが、それで効率的な防空を実現できれば結果オーライということだ。

ただし、スタンドアロンなら単独のシステムで済むものが、こういう統合型のシステムになるとシステムの集合体、すなわちSystem of Systemsになる。その分だけお値段は上がるし、開発にかかる手間や経費やリスクも増大する。しかし、そこまでやらなければ当節の経空脅威に対抗しきれないのも、また事実である。

ところが、System of Systemを構成するには当然ながら、個々の構成要素同士をつなぐところのインタフェースという問題が出てくる。物理的・電気的なところでも、あるいは上位のデータ・フォーマットみたいなところでも、相互接続性がなければ話が終わってしまう。

すると、ここでも毎度のオープン・アーキテクチャの必要性という話につながってくる。自社製品で固めるのが難しい、あるいはそれだと販路が限られそう、という場面では、オープン・アーキテクチャ化を考える必要があるだろう。 といったところで次回の話に続く。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。