オーストラリア海軍の次期汎用フリゲート・11隻を調達するGPF(General Purpose Frigate)計画(別名Project Sea 3000)で、ドイツのTKMS(旧ティッセンクルップ・マリン・システムズ)が提案していたMEKO A200派生型が選に漏れて、日本の三菱重工が提案したFFM発展型が優先候補に選ばれた。今回も、この件に関連する話を取り上げることにする。連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
“combat system”という用語の意味
優先候補の決定に際してオーストラリア国防省が実施した記者会見でのやりとりで、“combat system” に言及するくだりがあった。パット・コンロイ国防産業相(国防相とは別にこういうポストがある)が、こんな発言をしている。
it is an indigenous Japanese radar system and the combat system is actually a Lockheed Martin product. So, it's a US product that Japan acquired for the construction of the Mogami-class. So, it's got a lot in common with other combat systems used by us and the United States.
日本語にすると、「日本の国産レーダー・システムと、ロッキード・マーティン製の “combat system” の組み合わせ。後者は “もがみ” 型の建造に際して日本がアメリカから調達したもので、米海軍や豪海軍でも多数が使われている」となる。
Press Conference, Canberra
https://www.minister.defence.gov.au/transcripts/2025-08-05/press-conference-canberra
FFMが搭載するロッキード・マーティンの製品といえば、Mk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)に他ならない。1~6番艦では「後日装備」とされ、設置スペースだけ確保してがらんどうになっていたが、7番艦「によど」からは、新造時に搭載された。その数は2モジュール・16セル分。
ところが、リチャード・マールズ国防副大臣の発言では、こうなっている。
They operate the Mogami-class vessel. It is a next-generation vessel. It is stealthy, it has 32 vertical launch cells capable of launching long-range missiles
「(海上自衛隊は)「もがみ」型護衛艦を運用している。次世代の水上戦闘艦で、ステルス性を備えており、長射程ミサイルを発射できる32セルのVLSを備える」となるが、セル数が合わない。
実は、DSEI Japanで模型を御覧になった方なら御存じの通り、FFM発展型ではVLSのセル数を倍増させて32セルとする。だから、国防副大臣の発言は、現行FFMに関しては数字が合わないが、FFM発展型に関しては正しい。
発射機だけではミサイルは撃てない
問題は、コンロイ国防産業相の、この発言。
The new stealth frigates will also have the ability to fire SM-2 and SM-6 missiles, the most advanced air and missile defence weapons in the world.
日本語にすると、「新形のステルス・フリゲートは、世界最先端かつミサイル防衛用の、SM-2ミサイルとSM-6ミサイルを発射できる」となる。さらにこんな発言もある。
The Mogami-class frigate will also have the ability to fire Tomahawk cruise missiles,
日本語にすると、「“もがみ” 型フリゲートはトマホークの発射能力を備えることになろう」となる。
確かに、Mk.41のうち最も深さがあるストライク・レングスのモデルなら、SM-2もSM-6もトマホークも搭載できる。ただしそれはあくまで物理的な領域の話。
実際にミサイルを撃つには、ミサイルが発射機に収まるだけでは不十分で、射撃指揮システムも必要になる。現行FFMはVLSに対潜用のASROC(Anti Submarine Rocket)を搭載するだけで艦対空ミサイルは搭載しないし、いわんやトマホークを載せる話もない。
トマホークを発射するには、ロッキード・マーティン製の管制システム、AN/SWG-5(V)6 TTWCS(Tactical Tomahawk Weapons Control System)が必要になる。これはFFMやその発展型に限らず、イージス艦でも同じこと。
イージス戦闘システムの中では、TTWCSは独立したサブシステムになっており、それをイージス武器システム(AWS : Aegis Weapon System)と接続することでイージス戦闘システムの一員としている。
実際、アーレイ・バーク級駆逐艦のCIC(Combat Information Center)で見たところ、トマホーク発射管制用のコンソールは、AWSが使用するCDS(Common Display System)とは違うタイプのコンソールだった。
ともあれ、オーストラリアがFFM発展型にトマホークを搭載したいと考えた場合、日本製の指揮管制システムにTTWCSを接続できるかどうかが問題になる可能性が高い。もっとも、件の発言が単に「Mk.41にはSM-2やSM-6やトマホークも収容できる」という以上の意味を持たないのであれば、ここまで書いてきたことの意味はなくなってしまうが。
“combat system” という言葉が何を指すかが問題
この辺の話の解釈を巡った日本の好事家の間で議論になっている一因は、“combat system”という言葉の解釈にある。
イージス・システムの中核として対空戦を司るAWSをはじめとする、艦の頭脳となって戦闘指揮を司る指揮管制システムは一般的に、CMS(Combat Management System)という。
一方、“combat system” というと、指揮管制システムだけでなく、武器やセンサーなども対象に入る。あるいは、それら一式をひっくるめて “combat system” ということもある。イージス艦でも、対空戦闘の部分は “Aegis Weapon System” だが、そこに前述のTTWCSや、対空戦以外の分野に関わるあれこれを加えた全体のことをACS(Aegis Combat System)と呼ぶ。
CMSは海軍用語で、陸軍や空軍ではBMS(Battle Management System)と呼ぶことが多いようだ。ただし、艦上のCMSは自艦の武器やセンサーによる「交戦」を司るだけだが、陸・空のBMSは個々の部隊・車両・機体を動かす「指揮統制」の要素も入ってくる。
こうした、さまざまな言葉が意味するところ、指している対象を勘違いすると、ピント外れの議論で口角泡を飛ばすことになってしまうから難しい。もっとも、オーストラリア国防省の会見でも、訊く側も答える側も、その辺の用語の使い分けに曖昧さがあったように思える。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。

