オーストラリア海軍では、汎用フリゲート・11隻を総額70~110億豪ドルで調達する、GPF(General Purpose Frigate)計画、別名Project Sea 3000を進めている。この件で、日本の三菱重工が提案しているFFM発展型と、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)が提案しているMEKO A200派生型が候補に残った。そして2025年8月5日に、三菱案が優先候補に選ばれた。

Mogami-class frigate selected for the Navy’s new general purpose frigates

もっとも、まだ「優先候補に選ばれた」段階であり、これから詳細を詰めて2026年に契約を締結するまでは「確定」ではない点には留意する必要があろう。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • Project Sea 3000は、豪海軍のANZAC級フリゲートを置き換えるのが目的。写真はANZAC級の2番艦「アランタ」 撮影:井上孝司

迅速な納入を求める豪海軍

もともと、オーストラリア海軍では現用中のANZAC級フリゲート・8隻の代艦として、イギリス海軍の26型(GCS : Global Combat Ship)をベースとするハンター級を9隻、建造することとしていた。ところが、重量超過の問題を指摘する声が上がったり、艦のコストが高かったりと、いろいろ問題が出てきた。

そこで2024年2月になって方針を変更。いわば「高級品」のハンター級は9隻から6隻に減らすことにした。これと、すでに全艦が出揃っているイージス駆逐艦ホバート級・3隻が“Tier 1”となる。

その下の“Tier 2”として話が出てきたのが、問題の汎用フリゲート調達計画Project Sea 3000となる。それに加えて、有人・無人両用のLOSV(Large Optionally Crewed Surface Vessel)を6隻、建造・配備するとしている。ただしLOSVは本稿の本題から外れるので、言及は割愛する。

そうこうしている間にもANZAC級フリゲートの老朽化は進んでいるため、Project Sea 3000では、コストとともに迅速さが求められた。なにしろ「2029年から納入を始めたい」といっている。あと4年しかない。

日本から提案しているのはFFMの発展型で、これはまだ現物はない。しかしベースとなるFFMは次々に建造が進んでいる。

  • これはFFMの1番艦「もがみ」。オーストラリアに提案したのは、これをスケールアップした発展型 撮影:井上孝司

一方のMEKO A200も、すでに複数の国で導入した実績がある。おそらくは、そうしたところで他の候補と比べて「リスクが少ない」と判断されて、候補に残ったのであろう。

産業基盤の維持はどうする

なにもオーストラリアに限らず我が国でも同じだが、防衛装備品の調達では「自国の産業基盤の維持」が問題になりやすい。海外から吊るしの既製品を買って来れば話はシンプルだが、それでは自国のメーカーにおカネが落ちない。

だからProject Sea 3000では、11隻のうち最初の3隻は日本で建造して完成品輸入するものの、残る8隻は西オーストラリアのヘンダーソンで建造することになっている。そこでヘンダーソンの造船インフラについても調べてみたのだが、これはさすがに「軍事とIT」の話題から大きく逸脱するので、ここでは割愛させていただく。

Strategic shipbuilding agreement secures continuous pipeline of shipbuilding work for WA

もっとも、産業基盤の維持はフネそのものの建造だけの話ではなく、搭載する武器システムも関わる。近年のオーストラリアの場合、ハンター級の計画を進める際に、自国のメーカーをいろいろ関与させている。

具体的にいうと。指揮管制システムはロッキード・マーティン製のイージス・システムを使うが、レーダーはオーストラリアのCEAテクノロジーズが手掛けるCEAFAR2を使うことにした。

CEAテクノロジーズのレーダー製品については、第345回で取り上げたことがある。多機能レーダーのCEAFARと射撃指揮レーダーのCEAMOUNTがあり、いずれもアクティブ・フェーズド・アレイ型。これはすでにANZAC級フリゲートに後付けしている。

  • ANZAC級が後付けしたレーダー・マスト。最上段にある大きな菱形のアンテナがLバンド・レーダーのCEAFAR2で、その下にある菱形のアンテナがSバンド・レーダーのCEAFAR。その横にある、縦長の四角いアンテナがXバンド射撃指揮レーダーのCEAMOUNT 撮影:井上孝司

“translate”という言葉の意味

ところが、DSEI Japanの席上で三菱の方に訊ねてみたところ、同社がオーストラリアにFFM発展型の提案を実施した際には、CEAのレーダーを搭載する提案ではなく、海上自衛隊向けと同一仕様だったという。それは「先方から、そうして欲しいと求められたため」との説明であった。

詳しくは次回に取り上げるが、仕様の変更が増えれば増えるほどに追加の作業が発生して、それは結果としてコストや納期に跳ね返る。迅速さを重視すれば、既存の海上自衛隊向けと同一仕様にするのが最善である。その代わり、船体もレーダーも指揮管制装置も日本製ということになると、オーストラリアのメーカーにおカネが落ちない。

これについて、オーストラリア国防省が行った記者会見でのやりとりが公開されている。

Press Conference, Canberra

そこで、話題になっているらしい一節を見ると、こうある。

I’d also like to stress that there will be no changes to the Mogami-class frigate design other than the translation of the combat management system and regulatory changes required under Australian law.

日本語にすると、「戦闘指揮システムの翻訳(translation)と、オーストラリアの法規への対応に関わる部分以外では、“もがみ”型からの変更はない、と念押ししたい」となる。三菱の方に伺った話とも整合している。

常識的に考えて、別のシステムに置き換えることを“translation”とはいわないのではないか。

海上自衛隊で使用している指揮管制システムの画面が何語で書かれているか、現物を見たことはないが、日本語か英語のいずれかであろう。英語ならオーストラリアに持って行ってもそのまま使えるが、たぶんそれは“米語”である。

日米でいうCIC(Combat Information Center)は、イギリスの艦だと“Control Room”という。すると、部屋の入口の看板は英国式に書き換えねばなるまい。と、これは冗談半分、本気半分だが。

いくら仕様の変更がないといっても、指揮管制システムに限らず艦内のあらゆる部分で、日本語で書かれているものはイギリス式の英語に書き換える必要があろう。すると、まず日英の対義語をまとめたグロッサリーを作らなければならない。

似たような話は他国でもある。イタリア海軍の多用途哨戒艦「フランチェスコ・モロスィーニ」の艦橋を見たら、速力通信機や操艦用コンソールの標記が、みんなイタリア語で書かれていた。

イタリア海軍向けならそれでいいが、イタリア海軍向けに建造した艦のうち2隻はインドネシア向けに転用・売却されている。すると、イタリア語のままでは具合が悪い。英語かインドネシア語への変更が必要になったのではないか。

実際には提案しなかったが、もしもカナダ向けに日本の潜水艦を提案して採用されることになっていたら、艦内の標記類はすべて英語とフランス語の併記にしなければならなかったところだ。

与太はこれぐらいにして、本題の戦闘システムの話は次回に取り上げる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。