前回は、3月10日に都内で行われたBAEシステムズの記者説明会の席で取り上げられた、さまざまな自律システムに関する取り組みを紹介した。
「某国はこんなにドローンを開発している、我が国も、もっと開発・配備するべきだ」と主張する人がいる。しかし実のところ、単にモノを並べるだけでは意味がない。配備したモノをいかにして有効に活用するか。それこそが最大の問題である。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
さまざまな自律システムを組み合わせて最適活用することの必要性
BAEシステムズに限らず、さまざまな国、さまざまなメーカーで、陸・海・空のさまざまな分野を対象として、自律システムの実現に向けた取り組みが進められている。
ただし、実験の段階を脱して実用段階に至り、実際にさまざまな分野で自律システムが実用装備として使われるようになってくると、今度はそれをどう活用していくか、という課題が出てくる。それに実際の運用現場では、有人の資産と無人の資産を併用することになる点も無視できない。
例えば、味方の地上軍が敵軍と交戦している場面を考える。すると「火力支援のためにレーザー誘導ロケット弾を撃ち込みたいので、無人ヘリコプターLongreach 70で目標を指示して欲しい」なんていう話が出てくるだろう。しかし、実際にエフェクター(武器)を撃ち込むのは有人の戦闘機やヘリコプターである。
あるいは、「敵軍に囲まれて孤立した友軍のところに、無人ヘリで弾薬や医薬品を届ける」「通信を確保するためにPHASA-35を飛ばして通信中継をやらせる」「敵の歩兵陣地を抜くために無人装甲車を送り込む」といった場面も考えられる。これらはみんな、有人・無人の各種資産が混在する。
そして、こうしたさまざまなシナリオは単独で完結するわけではなく、みんな「戦闘に勝利を収める任務を達成する」という目的のために存在している。シナリオとシナリオを連携させて、勝利条件を生み出す流れを作っていかなければならない。
すると、有人・無人の各種資産を組み合わせて、最適な場所に最適な資産を投入して戦わせる、という課題が出てくる。それには、有人・無人を問わず、使用するすべての資産をネットワーク化して一元的な指揮管制の下に置く必要がある。
これはまだ発展途上、今後に成長していく市場であり、継続的に進化させていく必要がある。それに、いきなり最初から大風呂敷を広げると、その分だけ大コケするリスクも増える。
だから、最初は小さく作って、小さく試すところから始める。迅速に成果を得られるシンプルなユースケースから始めて、そこから発展させていく。そうやって実績を積み上げながら、段階的に成長させていく必要がある。
領域横断的な状況把握と指揮管制
ただし、最初から大きな全体像を見据えておかなければならない部分もある。それがアーキテクチャやインタフェースの策定。先を見据えた協同オペレーョンを考えて、アーキテクチャを構築する取り組みが求められる。
それと並行して、リアルタイムで複数の戦闘空間(ドメイン)を一元管理できるソフトウェアやネットワークを作り、基盤を構築しなければならない。あとは、その基盤の上に何を載せるか、という話になる。
そうしたシステムの集合体(System of Systems)はオープン・アーキテクチャ化して、他社製品も含めたさまざまな装備が参入できるものでなければならない。ネットワークへの加入や退出も自由に行えなければならない。
なぜかといえば、特定のメーカーの製品だけですべてを固めることは現実的ではないからだ。それに加えて、陳腐化した装備を退場させたり、新しい装備を加えたりする場面も出てくる。すると、自社ですべて取り仕切って完結させるのではなく、他社との協業経験を積み重ねている方が有利であろう。
そういう話になると、これもBAEシステムズのプロダクトであるBMIS(BMIS:Battlespace Management and Intelligence System)が重要になるのではないか。これは、戦域の状況を把握するとともに、最適な場所に最適な資産を割り当てるプロセスを支援するためのシステムである。
そこでBMISは、必要とされる情報や知見を拾い出す機能や、実際の戦域について知るために不可欠となる地理空間情報(GEOINT : Geospatial Intelligence)の提供、計画立案支援、コラボレーション支援、といった機能を提供する。
つまり、「戦域」というパズルの中に、それぞれ最適な場所とタイミングで、有人・無人のさまざまな資産の中から最適なものを選んで填め込んでいかなければならない。それを情報・意思決定支援の面から支援する仕組みが不可欠ということ。
訓練された通りに戦え
また、さまざまな訓練シナリオを展開できるシミュレーション・プラットフォーム「Project OdySSEy」は、本番の前に訓練で磨きをかける場面で重要になってくる。
シミュレーション訓練なら、失敗しても自分の生命を失わずに済むから、そこで教訓を学び取る助けになる。訓練で汗を流すことが、本番で血を流さずに済むことにつながる。それに、装備を開発する側にとってみれば、現場のニーズを汲み取ることにもなる。
これまでにない、新手の装備体系が出てきたときには、どういう場面で、どの装備をどういう風に使うのが最善なのかを検証するプロセスは不可欠だ。つまりミッション・エンジニアリングの領域である。
それをいちいち実地で試すのでは大変だから、まずはシミュレーションで試す。そして有力な選択肢を拾い出して、演習の場で実地に試してみる。それをどんどんやる必要がある。
無人で動作する自律システムは、まだ歴史が浅く発展途上の分野。ゆえに、それをどう使いこなすのが最善なのかを、積極的に追及していかなければならない。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。
