今回も前回に引き続き、「2024国際航空宇宙展」(以下JA2024)で拾ってきた話題を取り上げてみる。BAEシステムズのHMD付きヘルメット、サフラン・グループ、RTXの展示を紹介しよう。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • BAEシステムズのHMD付きヘルメットを被って試しているところ

BAEシステムズのHMD付きヘルメット

BAEシステムズというと「航空機」が真っ先に頭に浮かぶが、防衛電子機器の分野でも強い。例えば、GPS(Global Positioning System)受信機や電子戦機材がそれである。また、コリンズ・アエロスペースと組んでDLS(Data Link Solutions)という合弁会社を設立、Link 16データリンクの端末機器も製造している。

そのBAEシステムズが出展していたのが、HMD(Helmet Mounted Display)付きのヘルメット。今回、出展していたヘルメットでは、飛行諸元や目標情報のシンボルだけでなく、映像の表示も行えた。

実際にヘルメットを被っていろいろな映像を出していただいたが、その中には「いまマンハッタンの上空を飛んでいて、飛行諸元も一緒に見える」なんていう場面も。また、F-35のEO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)みたいに「床を素通しにして下方が見える」デモンストレーションもあった。

目視できる範囲の外にいる彼我の機体についても情報を表示するのだが、向きは矢印、おおまかな距離は矢じりの数、敵味方の別は矢印の先端に表示するシンボルの形と色で識別する仕組み。

また、バイザーにターゲットを示すシンボルが現れたときに、そちらに向けて首を振ってレチクル(照準)をターゲットに合わせる、なんていう経験もできた。「なるほど、HMDを使ったミサイルの目標指示はこうやるのか」と体感で理解できた。格闘戦用の赤外線誘導式空対空ミサイルでは一般的になっている手法である。

ただ、頭を動かしてヘルメットの位置がずれると、バイザーに投影されているはずの映像やシンボルが見えなくなってしまう。展示会のデモ用だから仕方ないのだが、実際に使用する場面ではパイロット一人一人に合わせたカスタマイズが必要になる。

といってもヘルメットを作り直すわけにはいかないので、その内側に入れるライナーを、頭のサイズや形に合わせて作り、ズレないようにする仕組み。ただ、戦闘機のパイロットが被るものである。激しい機動で大きな荷重がかかったり、頭が動いたりしてもズレてはいけないのだから、口でいうほど簡単な仕事ではなさそうだ。

なお、BAEシステムズはHUD(Head Up Display)の「Lite HUD」も出展していたが、これは以前からの常連。昔のHUDと比べると本体が薄く、軽量にまとまっているところに進化がある。

  • 「Lite HUD」の表示例。機体を右に傾けて(ロールさせて)旋回中、という状況設定のようだ 撮影:井上孝司

センサー機器いろいろ

続いて、サフラン・グループとRTXのセンサー機器を紹介しよう。

サフラン・グループ

サフラン・グループは、陸戦用の赤外線センサー装置などをいろいろ出展していた。その中には、双眼式のマルチスペクトラル・センサー「JIM Compact」、単眼式のマルチスペクトラル・センサー「MOSKITO TI」があった。

「JIM Compact」は、可視光線、高感度光学センサー、赤外線センサー、レーザー測遠機を内蔵しており、昼夜を問わずに目視による監視が可能。発見したターゲットまでの距離をレーザーで測る機能があるほか、GPS受信機を組み込むことで緯度・経度の座標も得られる。

ただしあくまで監視・位置標定用で、レーザー誘導の爆弾やミサイルを誘導するための照射機能はないとの話であった。

「MOSKITO TI」も同様の機能を備えるが、こちらは単眼式。だから「JIM Compact」が2kg近くあるのに対して、1.3~1.4kg程度に軽量化されている。面白いのは用途として、軍用の「偵察・監視」だけでなく、「自然災害調査」「野生生物の生態調査」なんていうものが挙げられていること。

なお、赤外線センサーといっても一種類ではない。波長の違いにより、短波長・中波長・長波長といった分類があり、煙や霧などを透過する能力に違いがある。だから、その場の状況に合わせて赤外線の波長を切り替える必要があるわけだ。

「JIM Compact」と「MOSKITO TI」のいずれも赤外線センサーが作動している状態で試してみることができたが、過去に試したことがある製品と比べて、映像の品質が向上していると実感した。

  • これは単眼式の「MOSKITO TI」。双眼式の「JIM Compact」よりも小型軽量にまとまっている 撮影:井上孝司

RTX

これらは個人携行用の製品だが、RTXがさりげなく展示していたのはマルチスペクトラルセンサー・ターレットの「RAIVEN」。同社は以前から、MTS(Multi-spectral Targeting System)と呼ばれるセンサー・ターレット製品としてAN/AAS-44(V)やAN/DAS-4を手掛けているが、それの最新型との話。

こちらも可視光線や赤外線など、異なる種類のセンサーを内蔵しているが、MTSと同カテゴリーならレーザー目標指示機能も備えると思われる。

  • RTXの新型センサー・ターレット「RAIVEN」。詳細な仕様は不明だが、MTSの後継として同様の機能を、より高いレベルで実現するものと思われる 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。