2024年10月16日~19日にかけて、東京ビッグサイトで「2024国際航空宇宙展」(以下、JA2024)が開催された。ホットな時事ネタであるから、しばらく、そこで拾ってきた話を取り上げてみたい。ただ、メーカーごと、製品ごとという形ではなく、特定のテーマの下、あちこちで仕入れた話を組み合わせてみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

ミッション・エンジニアリングとMBSE

本連載では、第556回第557回で、ミッション・エンジニアリングや、モデルベースのシステム工学(MBSE : Model-Based Systems Engineering)に関する話題を取り上げたことがある。その関係で、実物を作ったり、動かしたりする代わりに、コンピュータ上でモデリングとシミュレーションを行う話についても取り上げた。

ただ、ミッション・エンジニアリングはどちらかというと「手持ちの資産をどう活用しながら目的を達成するか」という話であり、MBSEは「System of Systemsの構築を、どうやって円滑に進めるか」という話。基本的には異なる領域の話である。ときどき、この両者をごっちゃにする人がいるらしいのだが(困ったことである)。

そこでリンゴは一口ずつかじることにして。

レーダーをどう配置しましょうか

RTXのレイセオン部門がJA2024に合わせて、自社の製品に関する記者説明会を開いた。そこで取り上げた製品の一つが、米陸軍のパトリオット地対空ミサイル向けに開発を進めている新型レーダー、LTAMDS(Lower Tier Air and Missile Defense Sensor)。

従来のパトリオット用レーダーは1面のフェーズド・アレイだから、カバーできる範囲は限定される。しかしLTAMDSでは、真正面と左右の斜め後方、合計3面のアレイを用意して、全周をカバーする能力を持たせる。ただし、真正面向きのメイン・アレイと、左右の斜め後方向きのサブ・アレイはサイズが異なる。

  • これがLTAMDS。メイン・アレイとサブ・アレイでサイズが異なる様子が分かる (Photo : US Army

すると、(具体的な数字は当然ながら明らかにされていないが)メイン・アレイとサブ・アレイの間には、何かしらの能力差があっても不思議はない。フェーズド・アレイ・レーダーの性能は基本的に、アレイの大きさ… 正確には、アレイを構成する送受信モジュールの多寡によって影響される。

これにより、「主たる脅威の方角にメイン・アレイを向けて設置する」という解決策が考えられる。ただ、予想した通りの方向から脅威が飛来すればいいが、果たして常にそうなるか。

また、敵の攻撃によってレーダーやミサイル発射器が破壊されたときのことも考えなければならない。破壊された結果として監視・交戦ができない “穴” が空けば、護りが危うくなる。

ここで、本連載で何度も(第386回第488回)取り上げている、ノースロップ・グラマンの指揮統制システム・IBCS(Integrated Battle Command System)を中核とするネットワーク化、という話が出てくる。

つまり、パトリオットの発射器とレーダーと指揮システムをワンセットとして、そのセットごとに個別に動かすのではない。それらの構成要素をみんな個別に切り離して、ただし同じネットワークにつなぐ。あるレーダーが破壊されたり故障したりしても、同じネットワークにつながっている別のレーダーが機能を肩代わりする。

と書くだけなら簡単だが、肩代わりするには肩代わりできる場所にいなければならない。レーダーだけでなく、発射器も事情は同じだ。つまり、「レーダーや発射器をどこに配置するか、LTAMDSならメイン・アレイをどっちに向けるのがいいか」といったことを考えなければならない。

しかも、地形や建物など、レーダーの動作を邪魔して探知不可能領域を作る外的要因がある。だから、場所に関係なく機械的に「こことここに、こちらに向けて配置」と決められたものではない。

任務を達成するために、何をどう配置してどう使うか

それなら、「これこれのエリアを経空脅威から護るために、レーダーや発射器などといった各種防空資産を、どこにどう配置してどこをカバーさせれば最善か」を、モデリングとシミュレーションを駆使して検討できないだろうか?

それをやるには、対象エリアの地理空間情報が必要になるし、もちろん、配備する各種資産の能力(レーダーの探知可能距離とか、ミサイルの回避不能領域とか)に関するデータも要る。

そうしたあれやこれやを、みんなコンピュータにぶち込んで、数や配置や指向する方向などを、さらに地対空ミサイル・システムで使用するミサイルの種類や配分もいろいろ変える。そして、脅威の様態についてもいろいろ変えて、シミュレーションを回しまくる。

そうすることで最適解を導き出すことができれば、結果として任務の達成につながり、部隊やインフラや国土を護る役に立つのではないか。キモは、多種多様なパラメータを迅速に試すことにあり、それをやるにはコンピュータ・シミュレーションの力を借りるしかない。

たまたま取材の席でLTAMDSの話が出たのでお題にしてみたが、他の装備でも同じように、「所望結果を引き出すために、手持ちの資産をどう使うか」を考えなければならない事情は変わらない。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。