今回のお題は潜水艦。この分野も御多分に漏れず、昔は「潜望鏡」「ソナー」「レーダー」といったセンサー群がバラバラに開発され、バラバラに搭載されていた。それが統合化されるようになった経緯は、水上艦や戦闘機と似ている。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

情報がバラバラだと何が面倒か

まず、統合化がなされていない潜水艦で、襲撃がどのように行われるかについて考えてみる。

パッシブ・ソナーで探索

アクティブ・ソナーを使えば、探知目標の方位と距離が一発で分かるが、探知目標が何者なのかは分からない。分かるのは、「ソナー音波を反射する誰かさんがいる」ことだけである。それに、アクティブ・ソナーを作動させれば、自艦の存在を暴露してしまう。

だから、基本的にはパッシブ・ソナーで聞き耳を立てることになる。こちらは相手が出す音波の内容を基にして、探知目標が何者なのかを識別できる可能性がある。音源の方位に加えて、周波数ごとの音の強弱分布や、スクリューが発する音に基づく回転数の推定とかいった情報を得られる。

潜望鏡で観測

潜望鏡を海面に突き出せば観測が可能になるし、距離の測定もできる。しかし、それを見られるのは艦長だけ。だから艦長は、潜望鏡を突き出して何かを見つけたら、「方位○○、距離△△ヤードのところに敵フリゲートが1隻」といった具合に、口頭で情報を伝えなければならない。

ただし最近は非貫通型潜望鏡の導入事例が増えており、これは艦内のディスプレイに映像を表示する。だから、同時に複数名で確認できる利点がある。

まれに、レーダーを海面に突き出して捜索することもあるだろうが、そこで何か探知したときにも、レーダー員が口頭で探知目標の距離と方位を読み上げなければならない。

  • コネティカット州グロトンで記念館として展示されている、攻撃原潜ノーティラスのセイル。右端の2本が潜望鏡、その左が対水上レーダー 撮影:井上孝司

海図に艦位を記入

そして、発令所の片隅にある海図台では、航海科員が常に艦位を海図に記入している必要がある。艦位が分かっていなければ、そもそも探知報告を上げることができない。それに、深度変換の際に海図の情報は欠かせない。水深が150mしかないところで「深度170m」と指示を出せば、艦が海底と意図せざる接触をする。

こんな調子だから、さまざまなセンサーから入ってくる情報に基づき、艦長は頭の中で情況を組み立てなければならない。そして、探知目標が敵艦であることを確認して、かつ、それの針路や速力も判明したら、ようやく交戦が可能になる。すると、探知目標に関するデータを発射管制システムに入力して、魚雷を撃つためのプロセスを走らせることになる。

それぞれのセンサーについている担当者は、何かを探知したら、その情報を口頭で読み上げるところまでがお仕事となる。ところが、その口頭による報告を受けて、頭の中で情況を組み立てる艦長は大変だ。そこで判断ミスをすれば、任務達成は覚束なくなるし、艦長と部下の生命にも関わる。

ロサンゼルス級のAN/BSY-1は中央集権型の部分が残る

潜水艦の戦闘システムを統合化した事例としては、米海軍のロサンゼルス級攻撃原潜が途中から取り入れたAN/BSY-1 SubACS(Submarine Advanced Combat System)がある。

  • 横須賀に寄港していたロサンゼルス級攻撃原潜。セイルに潜舵が付いていないから、AN/BSY-1を装備する後期型だと分かる 撮影:井上孝司

このシステムの何が “Advanced” なのかというと、各種のデータをすべて連接して、中央コンピュータに取り込んでしまうところにある。具体的にいうと、以下のサブシステムがAN/UYK-43コンピュータにつながっている。

  • 艦首球形ソナー・アレイ(アクティブ/パッシブ兼用)
  • TB-16D(V)曳航ソナー(パッシブ専用)
  • TB-23BA曳航ソナー(パッシブ専用)
  • 武器管制システム
  • トマホーク用射撃指揮システム
  • 武器発射システム(魚雷発射管×4門とトマホーク用の垂直発射筒×12基)
  • AN/WSN-3慣性航法システム(INS : Inertial Navigation System)

なお、曳航ソナーはAN/USY-1シグナル・プロセッサを介して中央コンピュータと接続する形になっている。

ともあれ、艦位の情報もソナー探知の情報も、みんな中央コンピュータに集約されるので、「個々のセンサーで得られる情報はバラバラ」という問題を解決できる。そして、探知情報に基づいて戦術情況を組み立てて把握する。

それを受けて艦長が交戦の意思決定をしたら、今度は探知情報に関するデータがAN/UYK-43から武器管制システムに送り込まれる。そして武器の調定を行い、発射の対象として選んだ武器が収まっている垂直発射筒あるいは魚雷発射管(に装填されている兵装)に対して、データを送り込んでから発射の指令を出す。

これを実現するには、どの発射管や発射筒にどんな武器が収まっているかを把握していなければならない。だから、魚雷発射管やミサイル発射筒は、管制用のAN/UYK-44コンピュータを介して、中央コンピュータのAN/UYK-43とつながっている。

と、これがAN/BSY-1の大雑把な概要だが、中央にAN/UYK-43が陣取っていることでお分かりの通り、まだ中央集権型のところがある。中央コンピュータは情報の処理に専念して、個々のセンサーなどが持つ機能は外部に切り出している。そんな形になる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。