ここまで、「艦艇と電測兵装」というテーマでいろいろ書いてきている。では、搭載する電測兵装の種類が多種多様で設置数も多い艦というと、どんな艦種が思い浮かぶだろうか。さまざまな兵装を搭載する駆逐艦やフリゲート、艦隊の中枢で、かつ多数の航空機を効率良く運用しなければならない空母。この辺は分かりやすいが、意外なところに伏兵がいる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

強襲揚陸艦とは

それが強襲揚陸艦、とりわけ空母型の強襲揚陸艦。

強襲揚陸艦という名称はまことに勇ましいが、一般的には「ヘリコプターやティルトローター機を用いる空からの上陸作戦」と「揚陸艇や水陸両用装甲車を用いる海からの上陸作戦」の両方を、1隻で遂行できる艦を指す。この手の揚陸艦の嚆矢は、米海軍のタラワ級である。

  • 米海軍のタラワ級強襲揚陸艦「ペリリュー」(LHA-5)。空母のそれよりは大きいが、それでもあまりスペースがあるとはいえないアイランド(島型艦橋)に、多数の電測兵装が取り付いている様子が分かる 写真: US Navy

空からの上陸作戦を仕掛けるためには、飛行甲板をできるだけ広くとりたい。同時に多数のヘリコプターやティルトローター機を発着させたいからだ。そうしないと上陸波が五月雨式になって、各個撃破されかねない。ある程度、まとまった数を一気に送り込みたい。

一方、揚陸艇や水陸両用装甲車を用いて海からの上陸作戦を仕掛けるためには、艦尾に組み込んだウェル・ドックを使う。平素は乾いた状態になっているが、艦尾のバラスト・タンクに注水して艦尾を下げてから扉を開くと、ドックに海水が入り、浮上航行による出入りができる。

陸・海・空ににまたがる上陸作戦で求められる通信

さて。上陸作戦とは、揚陸艦に載せて運んできた兵員や装備を陸地に送り込んで、陸地を奪取する作戦である。つまり「海」と「陸」という2つの領域にまたがる作戦行動である。だから、作戦に従事する艦艇同士だけでなく、そこから発進する揚陸艇や水陸両用装甲車、上陸する地上軍との間でも通信を行えないと仕事にならない。

実際、1943年11月に行われた米軍のギルバート諸島攻略作戦では、通信の不備が問題になった。そしてこのことが、その後の通信機の改善や通信能力の充実、艦側の指揮統制機能の充実、といった話につながっていった。

海から上陸するだけでも大変な話だが、ヘリコプターやティルトローター機を用いて空から上陸を仕掛けると、さらに「空」という領域が加わる。すると通信を行う相手が増えるだけでなく、航空管制用のレーダーや、搭載機を迷子にしないためのTACAN(Tactical Air Navigation)といった機材が欲しくなる。

それに、単に上陸用の機体が艦に発着するだけの話ではない。上陸部隊を空から支援するための戦闘機や攻撃ヘリコプターも不可欠なものだ。するとそれらも、通信の対象に加わる。艦と航空機の間で効率的に戦術情報を共有しようとすれば、データリンク機器も必要になる。

そして、敵地に接近して上陸作戦を仕掛けるわけだから、当然ながら敵軍による反撃を想定しなければならない。すると、我が身を護るための道具立ても必要になる。対空捜索レーダーや、個艦防禦用の艦対空ミサイル、近接防御システム(CIWS : Close-In Weapon System)といったあたりになろうか。すると、搭載兵装のために射撃指揮システムが要る。

加えて、後方の上級司令部や本国との間でやりとりする必要もあるので、遠距離通信用の短波(HF)通信機や衛星通信システムも欲しい。

強襲揚陸艦はC4I能力の精華

つまり、強襲揚陸艦は陸・海・空にまたがる複雑な作戦行動を遂行するために、通信網を駆使して情報を集めたり命令を下達したりする能力が必要。さらに、航空機の運用や自艦防御のためにレーダーを用いた対空捜索と交戦の機能も必要。いずれも電測兵装を必要とする話だから、強襲揚陸艦の艦上は電測兵装だらけとなる。

例えば、米海軍のワスプ級を見ると、対空捜索レーダーは遠距離用二次元レーダーのAN/SPS-49(V)と三次元レーダーのAN/SPS-48シリーズの二本立て、さらにAN/SPN-43航空管制レーダーも載せている。みんな空母との共通装備である。さらに、個艦防空用にシースパロー艦対空ミサイルを載せているから、それの誘導レーダーが必要。もちろんVHF/UHF通信のアンテナや衛星通信アンテナも必要、となる。

おまけに、多数のヘリコプターやティルトローター機を同時に発着させようとして艦型を空母型にすると、第424回で紹介したように、電測兵装の設置場所が限られてしまう。結果として、アイランドの上は電測兵装が櫛比することになるし、そこに納まらなかったアンテナが舷側に据え付けられていることもある。

  • ワスプ級強襲揚陸艦の2番艦「エセックス」(LHD-2)を、洋上補給のために近接した補給艦から撮影。アイランドに多数の電測兵装が櫛比している様子が分かる 引用:US Navy

そして、陸・海・空にまたがる状況認識と指揮統制を行うためには、そのための人員とコンピュータ・システムが必要であり、それらを設置して扱うための区画も必要。つまり艦内に設置する電気製品の数が膨大になる。

水上戦闘艦や空母と比較すると注目されにくいが、強襲揚陸艦とは、実は「眼」も「耳」も「頭脳」も優れた軍艦であるし、そうあらねばならない。

すると、ときには「それなら指揮統制機能を独立した艦にまとめた方がいい」ということになり、米海軍のブルーリッジ級みたいな艦ができる。このクラス、もともとは揚陸指揮艦と呼ばれていたが、その能力の高さから、より汎用性を持たせる流れとなり、今は指揮統制艦と呼ばれている。艦種記号はLCCのままだが。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。