有人機と無人機がチームを組んで任務を遂行する、いわゆるMUM-T(Manned and Unmanned Teaming。有人機と無人機のチーム化)という言葉や概念が出てきて、しばらく経つ。すでに米陸軍ではAH-64Eアパッチ・ガーディアン攻撃ヘリとMQ-1Cグレイ・イーグル無人機などの組み合わせにより、MUM-Tを具現化している。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • AH-64Eアパッチ・ガーディアン。単なる武装ヘリではなく、MQ-1Cグレイ・イーグル無人機の管制も可能。機首には電子光学センサー、ローターマスト上にはレーダーを備える 写真:US Army

MUM-Tをどう使うか

これまで、MUM-Tについては「有人機を突っ込ませるには危険な場所に、墜とされても人命の損失が発生せず、有人機と比べればまだしも諦めがつきやすい無人機を突っ込ませる」という文脈で語られることが多かった。筆者自身も、そういう趣旨のことをあちこちで書いている。

この考え方が間違っているとは思っていないが、生憎と実戦で証明するには至っていないので、コンバット・プルーブン(戦闘で実績が証明されている)とはいいづらい。それはそれとして、「危険な領域を無人機にやらせる」というだけの使い方でいいんだろうか、という考えも浮かんできている。

無人機を戦列に加えることは、利用できるプラットフォームの数が増えることを意味する。しかも、無人であれば人員所要はプラットフォームの数と比べて少なくて済む可能性がある。有人機なら1機ごとに操縦士1名が必須だが、無人機なら一人で複数機の面倒をみられるかもしれない。

ただしそれが本当の話になるには、一つの管制ステーションで複数の無人機を同時に管制できるようにするだけでなく、無人機の自律性を高めてオペレーターの負担を軽減する話が不可欠になる。

陸で有人機と無人機を併用してみると

ともあれ、有人機に無人機を加えることでプラットフォームの数が増えて、それらをすべて同じネットワークの下で統合的に運用すると、第470回で取り上げた米海軍の分散海洋作戦(DMO : Distributed Maritime Operations)と似たようなことをできるのではないか。

MUM-Tの利用が先行しているのは陸の上だから、まずそちらで考えてみる。例えば、先に挙げたAH-64EとMQ-1Cの組み合わせ。AH-64EもMQ-1Cも、センサーとして電子光学/赤外線(EO/IR : Electro-Optical/Infrared)センサーとレーザー目標指示機を備えているし、対地攻撃用の兵装を運用する能力もある。

AH-64Eはさらに、ローターマストにAN/APG-78ロングボウFCR(Fire Control Radar)を搭載できるから、昼夜・天候を問わない捜索能力の面で有利になる。

これらの資産を組み合わせれば、広い範囲に展開させたAH-64EやMQ-1Cから敵情に関するデータを集めて、ネットワークを通じて収集・融合することで、一元的な状況把握につなげられるとの期待が持てる。

交戦に際しても、AH-64EやMQ-1Cのいずれも武装が可能だから、攻撃に使用する資産を広い範囲に展開させることができる。

  • MQ-1Cグレイ・イーグル。名称と外見でお分かりのようにMQ-1プレデターの派生型。左右の翼下にヘルファイア・ミサイルを2発ずつ搭載しているが、この数はベースモデルの2倍 写真:US Army

分散しつつ、同時着弾

ウクライナ軍が、渡河を企てたロシア軍に対して、分散配置した砲兵隊から同時着弾砲撃(TOT : Time on Target)を仕掛けて大打撃を与えた、との話が伝えられている。

自軍の火砲を「隊」としてひとまとめにして、一つところに集中配置していたら、対砲兵レーダーによって位置を突き止められて、対砲兵射撃を食らう可能性がある。ところが分散配置していれば、対砲兵射撃を食らった時のダメージは少なくできると期待できる。その一方で、分散した火砲が同じ目標に対して、タイミングを合わせて砲撃を仕掛ける。これは、米海軍が掲げるDMOの考え方を陸の上でやったものだといえる。

この場合は火砲が「シューター」の役割を果たしたわけだが、AH-64EとMQ-1Cの組み合わせでも、同じことができないか?

それぞれの機体がどんな兵装を搭載しているかが分かっていれば、個々の機体からターゲットまでの距離により、兵装を発射してから着弾するまでの時間は計算できる。

すると、個々の機体の位置に合わせて発射のタイミングを割り出し、四方八方から特定のターゲットに対して同時かつ集中的に着弾するように、ミサイルなどを撃ち込む使い方が可能になる理屈。ターゲットまでの距離が遠い機体ほど、発射のタイミングが早くなるわけだ。

これを実現するには、戦闘加入するすべての機体を同じネットワークで結び、一元的な指揮統制を行い、最適な場所にいる機体に最適なターゲットを割り当てる。そういう考え方が必要になる。

その中で、より危険度が高いエリアには「墜とされても諦めがつくだけでなく、遺族にお悔やみの手紙を書く必要がない」無人機を配置することで、戦闘に際してのコストを抑える。それをやるには、俯瞰的な敵情把握と最適な機体の配置が必要であり、すべての機体を同じネットワークにつないで俯瞰的・一元的に状況を見なければ実現できない。

一介の素人が思いつくぐらいだから、米陸軍が同じことを、あるいはさらに進んだことを考えていても、何の不思議もない。さて、実際にはどのようなことになっているだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。