前回は航法用電子機器について取り上げた。今回は「識別」に話を移して、敵味方識別のために不可欠のツールである、敵味方識別装置(IFF : Identification Friend or Foe)について解説しよう。

IFFで何ができるか

ミリタリーの分野における「識別」には、2つの意味がある。1つは敵味方の識別で、これをちゃんとやらなかったり、あるいは誤ったりすると、友軍相撃(同士撃ち)が発生する。もう1つは対象物の識別で、航空機や各種車両の機種、艦艇のクラスや個艦、といったものを割り出す作業になる。

この両者、関係がないようでいて、実は関係がある。例えば、レーダーでも光学センサーでもMk.1アイボール(人間の目玉)でもいいが、とにかく何らかの航空機探知があったとする。そこで相手の機種が分かれば、それは敵味方の別を判断する材料になる。分かりやすい例を挙げると「探知目標はF-22ラプターである」と分かれば、それは米空軍機以外にあり得ない。

さて。レーダーが何かを探知したとする。しかし、レーダーは電波の反射があるかどうかで探知を成立させる機器だから、「電波を反射する誰かさんがいる」という以上のことは分からない。そこで登場するのが、IFF。民間には二次レーダー(SSR : Secondary Surveillance Radar)と呼ばれる機器があるが、それと同じ動作をする。そして、動作モードは以下の5種類がある。

  • モード1 : Security Identity(軍用だが識別には用いない)
  • モード2 : Personal Identity(機体の個体識別用)
  • モード3 : Traffic Identity(民間と共用する航空管制用)
  • モード4 : Classified(軍用の敵味方識別機能)
  • モードC : Altitude Interrogation(高度応答のみ)

つまり、IFFは敵味方識別だけでなく、高度に関する問い合わせもできる。しかし今回の本題は「識別」だから、そちらの話に的を絞ることにする。

  • レーダー探知だけでは、スコープ上では単なるブリップ(輝点)にしかならないが、敵味方識別や個体識別の情報があれば、もっと詳しい状況が分かる。写真では、探知目標によってシンボルが違うが、これは「友軍・正体不明・敵性」と「航空機・水上艦・潜水艦」の区別を示している 撮影:井上孝司

IFFの動作内容

IFFは、電波による誰何によって識別を実現する。誰何する側の機器はレーダーとワンセットになっていて、IFFインテロゲーターという。一方、探知される側の航空機や艦艇にはIFFトランスポンダーと呼ばれる応答機が載っている。

まず、IFFインテロゲーターが1,030MHz帯の電波で質問用の信号を送信する。それを受信したIFFトランスポンダーは、1,090MHz帯の電波で応答信号を返す。問題は、その応答信号の内容である。IFFを使用する双方の当事者が敵味方識別を行う際は、事前に定めた識別番号を使う。

識別番号が正しくセットされていれば、「打ち合わせ通りの応答が返ってきたから味方だ」となるが、正しくセットされていなければ「打ち合わせと違う応答が返ってきたから、味方ではない」となる。

では、トランスポンダーのスイッチを切っているとどうなるか。インテロゲーターが誰何しても応答が返ってこないことになるので、これをインテロゲーターの側から見ると「正体不明の名無しさん」となる。平時にその状態で他国に接近すればスクランブルをかけられるし、戦時なら撃ち落とされても文句はいえない。しかし、電波の発信を抑える等の理由から、戦時に敵地に侵入する場面で意図的にIFFのスイッチを切る事例もあるようだ。

そこで、手元にある戦闘機のフライトマニュアルをいくつか調べてみた。普通はコックピットにIFFの設定パネルがあり、モード1では2桁で32パターン、モード4では4桁でそれぞれ0~7(つまり8^4=4,096パターン)の設定が可能。また、セットしてある識別コードの情報を消去する機能もある。これは、装置が敵手に落ちた場合への備えだ。なお、モードCは高度の情報を返すだけだから、問い合わせに応じるかどうかの設定のみ。

もちろん、共同作戦・連合作戦を実施する可能性がある国同士では、IFFの相互運用性を実現しておかないと困ったことになる。最近、NATO加盟国を初めとする「いわゆる西側諸国」において、モード5と呼ばれる新しいIFFの導入が進んでいるが、これは当然ながら日本にも波及する。米軍がIFFモード5に対応するインテロゲーターで誰何してきたら、自衛隊機もIFFモード5に対応するトランスポンダーで応答しないといけない。そこで日本でも、IFFの更新が進められている。

IFFのアンテナいろいろ

IFFは、前述したように電波の送受信によって誰何を行うから、そこのところで通信機器との共通性がある。実際のところ、レーダーによる捜索とワンセットになって機能するのがIFFだから、IFFの送受信アンテナはレーダーのアンテナとワンセットになっていることが多い。レーダー用のアンテナとIFF用のアンテナを同じ向きにして一緒に動くようにすれば、探知した目標に対して誰何するプロセスが円滑に進む。

  • 回転式アンテナを使用するレーダーでは、IFF用のアンテナを併設して一緒に回すことが多い。写真はBAEシステムズ製のARTISANレーダーで、上にある細い棒がIFFアンテナ 撮影:井上孝司

ところが艦載レーダーの場合、最近は3~4面の固定式フェーズド・アレイ・レーダーが増えている。レーダーのアンテナが固定されているのに、IFFのアンテナだけ回転式にするのでは、両者の連携がうまくいかない。だから、固定式フェーズド・アレイ・レーダーを搭載する艦では、IFFのアンテナも従来とは違ったものになっている。日米の艦だとたいてい、多数の送受信エレメントをリング型に並べたIFFアンテナをマストの上部に載せている。

  • 海上自衛隊の “もがみ” 型護衛艦。対空多機能レーダーOPY-2は4面固定式で、その上にある、イボイボが並んだリング状の物体がIFFのアンテナ 撮影:井上孝司

面白いのは、F-16や日本のF-2などが搭載しているIFFアンテナ。4枚の細長いブレード・アンテナを、コックピット直前の胴体上面に並べてある。もしもそこに鳥がぶつかったらスライスされてしまうのではないか、という意味で「バードスライサー」という渾名がある。

これを書くために、手元にあるF-111のフライトマニュアルを調べてみたところ、IFFにアンテナ選択の機能があるのが目を引いた。「AUTO」に加えて「LOWER」、つまり胴体下面のアンテナだけを使用する選択肢がある。不必要に電波をばらまかないための配慮だろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。