本連載では日本ヒューレット・パッカード(HPE)のさまざまな社員の「こぼれ話」を綴ります。→過去の「マシンルームとブランケット」の回はこちらを参照。

外資系ITベンダーの国内価格の決め方

日本の製品担当者である、カテゴリーマネージャーの大きな仕事の1つに日本円での価格決めがあります。米国本社で新製品の発表準備が整うと同時に、米国でのドルベースでの定価情報が伝達されます。

また、その製品を製造するためのコスト(販管費も含む)情報も届き始め、それらの情報をもとに、日本の市場を見据えた製品の日本円定価を決定します。

  • マシンルームとブランケット 第21回

一昔前は、絶対的な価格の高低よりも、いかに値引き「率」を確保できるか、という不思議な値付けをした時期もありました。特に高額な製品ではこういった文化が存在し、例えば一度80%の値引きで提供してしまうと、その後も80%値引きを求められることが多いことから、「80%の値引きができるように値付けを行おう」という、不思議な値付けです。

なぜ、このような値付けが求められたかというと、例えばお客さま側の情報システム部のAさんという担当者が、80%引きで製品を購入できたとすると、その後任のBさんという担当者が、いかに安くていいものを見つけても、値引き率が前任者よりも低いというだけで評価されづらいということもあったようです。日本のサラリーマンは辛いですよね。

ただ、現在は製品やソリューションの多様化により、このような「値引き率」をベースとした不思議な値付けは少なくなり、ドルベースの定価に、その時の為替レートを掛け算したものを価格とすることがほとんどです。

しかし、ご存じの通り、ドルと日本円の為替は毎日のニュースで取り上げられるほど、かなり変動が大きいものです。一度、日本円を決めてしまうと、その後変更することは困難であるため、ある程度長期を見据えて価格を決める必要があります。

例えば、1$=120円であるとき、米国では$1,000と値付けがされたハードディスクが発表されたとします。機械的に値段を付けるのであれば120円x $1,000=12万円となります。ここでポイントなのが、われわれ米国に本社がある外資系の場合、仕入れコストも含めてすべてがドルベースで決済されるため、「ドルベースでいくら儲けたのか」が重要となります。

ですので、もしもその後1$=140円まで為替が円安に振れると、同じドルを得ようとすると、日本円では14万円必要になります。この時、日本円定価が12万円のままだと、ドルベースでの利益は大幅に減ることになります。

時には、昨年のように為替が大幅に円安になった場合、日本円定価で販売しても利益がまったく得られなくなってしまう製品が発生することもあります。ですが、為替変動が怖いということで、高めの日本円定価を付けてしまうと、今度は日本国内での他社との価格競争力が弱まってしまいます。

よく、外資系自動車会社の日本での価格と本国での価格を比較し、「本国では安く売っているのに日本ではこんなに高く売っている!ボッタクリだ!」といったネットの意見などを目にすることがありますが、この為替変動リスクを長期的に抑えようとすると、高めの日本円価格を付けたくなってしまう日本の製品担当の心理はよく理解できます。

また、販売後の国別の売り上げや利益の比較もすべてドルベースで実施されるため、日本円ベースでは成長をしているのに、それ以上に円安になってしまうと、ドルベースでは昨対比でマイナスとなってしまうことも起こります。

昨年はまさにそんな年であり、コロナ禍が終わり日本のお客様の需要も戻ってきていることを実感できるほど日本円ベースの売り上げでは好調だったのですが、それ以上に円安が進んでしまい、ドルベースでは「あれ、日本は調子悪い?」と誤解をされてしまう結果になってしまいました。

このような背景から、外資系企業の日本円定価は高めに付けられがちです。ただし、ここで考えていただきたいのが「値引き」です。われわれが扱っている、サーバーやストレージ製品は企業向けであり、ある程度の値引きは状況に応じて可能となっています。

定価はかなり保守的に設定されているからこそ値引き後価格の比較を

そして、この値引き可否の判断もドルベースで実施するのですが、製品定価と異なり、リアルタイムの為替レートにかなり近いレートで判断を行うため、値引き可能幅は頻繁に変動します。

何を言いたいか、というと、定価ベースだけで比較せずに、ぜひ値引き後価格で、価格を比較していただきたいということです。先に書いた通り、定価はかなり保守的に設定をされていることが多く(ただし製品によります)、特に円安が急激に進行した昨年発表した製品は、日本円定価を高く付けざるをえない状況でした。

もしかしたら、1$=160円といった円安もありうるとの観測もあったため、われわれ製品担当としては、断腸の思いで高い定価を付けざるをえませんでした。定価だけを見たお客さまは、あまりの値段の高さにびっくりしてしまわれたのではないでしょうか。

しかし、案件ごとの値引き判断は、リアルタイムにかなり近いレートで実施するため、その時のいわば「勝負価格」をご確認いただけることになります。

ただし、逆に言えばその価格は為替変動で大きく変わってしまうため、値引き金額を入れ込んだ見積書は、有効期限を設けさせていただいております。ぜひ、定価のみを見て「高すぎる」と諦めずに、値引き後価格で検討をいただきたく思います。

一方で、提供できる価格は為替だけでは決まりません。連日放送されていますが、米国では極度のインフレが進行しており、部品の仕入れ価格もドルベースでみても大幅に上昇しているため、為替が円高に振れても提供できる値引き後価格は安くならないということもあります。

また、そのほかの要因でも提供可能価格は変化しますので「円高になったのに安くならないじゃないか!」と感じられることもあるかと思いますがご容赦いただければと思います。いかがでしたでしょうか。カテゴリーマネージャーは、こんなお仕事もやっている、というお話でした。

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