化粧品業界の日本の市場規模は、2020年にはおおよそ2兆円クラス。2021年は最終結果がまだ公には出ていないようだが、コロナ禍の影響で訪日外国人が減少したことによる売り上げ低下や在宅ワークによるお化粧の機会の低下などにより減少しているという。

そんな中、日本の化粧品業界のトップ企業である資生堂と花王は、それぞれ「第二の皮膚」に関する技術を開発。化粧品市場に革命を起こすことを画策している。今回は、その「第二の皮膚」について、紹介したいと思う。

「第二の皮膚」とは?

「第二の皮膚」とは、あたかも自分の皮膚のように見せてくれる薄膜のことで、化粧品の分野で活用されるものとここでは定義したい。

医療分野で火傷や傷などの治療目的で活用される人工皮膚とは異なる。この「第二の皮膚」を開発したのは、日本の化粧品業界でトップ3に君臨する大手の資生堂と花王。

まず資生堂の「第二の皮膚」を紹介したい。資生堂は、2018年、米国のベンチャー企業Olivo Laboratoriesの特許技術「Second Skin」を取得。

Second Skinは、ポリマーを含む美容液を肌に塗布する。そしてこの美容液の上から、美容液内の架橋反応(ポリマーが手をつなぎあう反応)を開始させる架橋剤を含んだもう1つの美容液を塗布する。

これにより、肌にこの薄膜を作ることができる。そしてこの美容液が乾燥すると、薄膜がピンと張って、皮膚のような状態になるのだ。

しかし、笑ったり、怒ったりと表情が変わったり、手を握ったり開いたりと、肌は変形するのでどうしても歪みが生じてしまい、その薄膜がはがれてしまうという課題があった。そこで、資生堂はポリマーの種類や組成などの検討を行って、肌に接する部分は柔軟性が高くて接着力が強く、上部は収縮性が高いという、上下で非対称な膜構造を作り出すことで、はがれにくさを実現した「Second Skin」の開発に成功したのだ。

  • 形成メカニズム

    第二の皮膚の形成メカニズム(出典:資生堂)

花王も同じ時期に、「Fine Fiber」という技術を開発。

この「Fine Fiber」という技術は、不織布産業分野でエレクトロスピニング法と呼ばれる極細紡糸技術を応用したもの。

エレクトロスピニング法とは、プラスに帯電したポリマー溶液を、マイナスに帯電した対象物表面に向けて噴射する技術。

ポリマー溶液がノズルを通して糸状に引き伸ばされながら勢いよく噴き出し、対象物の表面で幾層にも重なりあって膜を形成する。これによりでき上がった膜は、端にいくほど薄くなるため、自然になじむ。肌との境目がわからないというメリットと薄膜と肌の段差が極めて少ないことから、はがれにくさも実現しているという。

  • 「Fine Fiber」の積層型極薄膜の様子

    「Fine Fiber」の積層型極薄膜の様子(出典:花王)

「第二の皮膚」で何ができるのか?

では、資生堂の「Second Skin」、花王の「Fine Fiber」で何ができるのだろうか。

これらの「第二の皮膚」では、肌と一体化して、肌の凹凸を補正する人工皮膚を形成し、これまでの化粧品や 美容整形などでは不可能であったシワやたるみを瞬時に隠すことを可能することが最大のメリットだ。

  • SecondSkin

    資生堂の「Second Skin」によるシワやたるみを瞬時に隠す(出典:資生堂)

そして、花王の「Fine Fiber」技術は、極細繊維が有する“毛管力” により、あわせて使用する化粧品製剤の保持力や均一化に極めて優れている。この極薄膜は、折り重なった繊維と繊維の間に、化粧品製剤をしっかりと保持。また、液状の製剤を膜全体に速やかに均一に広げてくれる。一方で、繊維の隙間から適宜水蒸気を通すので、肌を完全に閉塞することなく適度な透湿性も保つこともできるのだ。

花王の「Fine Fiber」の動画

いかがだっただろうか。女性の多くは、シミ、シワ、毛穴の開きなど多くの肌に関する悩みを抱えているという調査結果がある※1

この「第二の皮膚」を使えば、一瞬で、シミやシワ、毛穴なども隠すことができ、そして、「第二の皮膚」の“毛管力”を使って化粧水、美容液などを肌へ届け、保湿や通気性まで保ってくれるのだ。

コロナ禍で化粧品市場は縮小気味であるが、ただフェンデーションなどのメイクでシミ、シワなどを隠すだけに留まらない高いテクノロジーを開発し、女性のニーズに応えようとしている点にスゴさを感じる。

もちろん、この話は、女性に限った話ではない。近年、男性向けの化粧品市場も拡大しており、シミ、たるみ、ニキビなどの肌の悩みを抱えている男性が実に80%近くいることがわかっている※2。ぜひ、「第二の皮膚」を利用してみてはいかがだろうか。

文中注釈

※1https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000058242.html
※2https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000064.000056551.html