夢のような材料を開発した、そんなプレスリリースが米国ミズーリ大学から報じられた。 この材料は、ヒトによる制御などがなくとも、材料自ら自立的に変形するもの。では、この材料はどのようなものなのか、今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

ミズーリ大学が開発した人工材料とは?

2021年11月2日、ミズーリ大学から「Creating an artificial material that can sense, adapt to its environment」というタイトルのプレスリリースが報じられた。

では、このartificial materialという材料はどのようなものだろうか。ミズーリ大学では、この人工材料をMetamaterial(メタマテリアル)とも訳している。

メタマテリアルとは、非常に定義が広いようだ。広義には”ヒトによって創生された特別な機能を持つ物質”という意味合いで使われていて、また負の屈折率を持つ物質として、光を自在にコントロールする物質という特定の意味で使われているケースが日本では多い印象だ。

このミズーリ大学が開発した材料は、メタマテリアルというよりも人工材料(artificial material)という意味の方がマッチしているので、後者を使うことにする。

まず、人工材料の利活用シーンを説明したほうが分かりすいと思う。ミズーリ大学のGuoliang Huang教授は、次のように説明している。

“For example, we can apply this material to stealth technology in the aerospace industry by attaching the material to aerospace structures. It can help control and decrease noises coming from the aircraft, such as engine vibrations, which can increase its multifunctional capabilities.”(編集部訳:例えば、この素材を航空宇宙構造物に貼り付けることで、ステルス技術に応用することができます。エンジンの振動など、航空機から発生するノイズを低減することができ、多機能性を高めることができます)

つまり、この人工材料を航空分野や宇宙分野に活用できるという。例えば、エンジンの振動など発生する騒音を制御および低減するのだ。

ほかには、”For example, a drone making a delivery might evaluate its environment including wind direction, speed or wildlife, and automatically change course in order to complete the delivery safely.”(編集部訳:例えば、ドローンに用いることで、風向きや速度、野生動物などの環境を判断し、安全に配達を完了するために自動的にコースを変更することもできます)とも説明している。

では、宇宙・航空分野、ドローンの航行で活用できるというこの人工材料とはどのようなものなのだろうか。

下図のように圧電素子の上に、2つのアクチュエータと1つのセンサが付けられているビーム(梁)がある。圧電素子とは、素子に圧力が加わることで起電力が発生する材料のこと。イメージはこうだ。イレギュラーな変形がビームに発生したとしよう。

このイレギュラーな変形とは、先述したドローンに加わる風やエンジンの振動と考えてほしい。このイレギュラーな変形が下図のfに見られるようなビームの中央部が変形すると、起電力が発生する。その起電力が、両サイドのアクチュエータにそれぞれが逆起電力となるように印加されるようにすると次に下図gのようにビームは変形する。

そして、この剪断の状態の後に、ビームは元の状態に戻るのだ。つまり、このイレギュラーな変形が発生したとしても、元の形状に材料が戻ってくれるので、エンジンの振動が抑制され、また、ドローンも計画していた航行してくれる、そんなイメージと理解できる。

  • 人口材料

    人工材料(出典:Nature Communications volume 12, Article number: 5935 (2021))

読者のなかには、人工材料から出ているワイヤーが気になるだろう。ちなみにこの繋がれているワイヤーは、伸長または収縮に比例した圧電素子からの起電力をセンサーから取得するため、また、アクチュエータを機械的に変形させるための電圧を印加するために使われている。そして、このワイヤーは、人工材料の自立的な変形になんら影響を与えるものではないという。

いかがだっただろうか。ミズーリ大学のGuoliang Huang教授は、この人工材料をハエトリグサが昆虫を捕らえるための素早い反応、カメレオンが皮膚の色を変えて周囲に溶け込む行動、松ぼっくりが空気の湿度の変化に応じて変形すること、などの自然界の現象を例に挙げて人工材料を例えている。

このように外部環境に応じて自立的に反応する材料があらゆるところで活用されるとなると世界はどのようになるだろうか、どのような利活用シーンが考えられるだろうか。考えただけでも興味深い。