NASAのJPL(Jet Propulsion Laboratory)は、小型の水中探査機「SWIM」の開発について発表した。では、なぜNASAは、宇宙探査機ではなく小型の水中探査機を開発しようとしているのだろうか。今回は、そんな話題について触れたいと思う。

NASAの小型水中探査機「SWIM」とは?

NASAは、小型の水中探査機「SWIM(Sensing with Independent Micro-swimmers)」の開発を発表。このSWIMという呼称は、小型水中探査機の名称というよりは、プロジェクト名称として使われているようだ。

では、なぜNASAが宇宙ではなく小型の水中の探査機の開発を手掛けるのだろうか。その理由は、惑星の地下の海での生命体の手がかりを得るためだ。たとえば、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスの氷殻の下の水中で探査を行い、生命の手がかりを見つけるのが目的なのだ。

  • NASAの小型水中探査機SWIMのコンセプト図

    NASAの小型水中探査機SWIMのコンセプト図(出典:NASA)

ちなみに、SWIMの開発を手掛けるNASA JPLのエンジニアであるEthan Schaler氏は、次のように述べている。

"My idea is, where can we take miniaturized robotics and apply them in interesting new ways for exploring our solar system?"(訳:太陽系探査のための興味深く新しい方法として、小型化ロボットを応用できないか?と考えました)

"With a swarm of small swimming robots, we are able to explore a much larger volume of ocean water and improve our measurements by having multiple robots collecting data in the same area."(訳:小型遊泳ロボットの群れを用いると、複数のロボットが同じエリアのデータを収集することにより非常に大量の海水を調査でき、測定をより良いものにすることができるのです)

つまり、従来の惑星探査では1機ほどの探査機しか投入できなかったが、今回のアイデアを採用することで、多数の小型探査機を送ることができるので、科学的到達範囲を拡大し、数多くのデータを収集することが可能になるというのだ。

まず、惑星の氷殻下の水中に探査機を放出するには、クライオボット(上図左上の円柱状のもの)を活用する。クライオボットにはSWIMが搭載されていて、原子核のエネルギーのものが採用されたクライオボットのバッテリーの熱を利用し、氷を溶かしながら惑星の氷殻を貫いていく。その後クライオボットが水中に達したら、水中探査機を多数放出するという仕組みだ。

水中探査機のサイズは現状不明だが、初期のものは数cmの長さでくさび形のようだ。SWIMは、通信、電力、センシング、推進・制御、コンピューティングの5つのサブシステムから構成されている。

センシングには、温度、塩分、酸度、圧力のセンサ、バイオマーカー(生命の兆候) を監視するための化学センサが搭載されている。これらのセンサから得られたデータは、別の水中探査機が中継器となりクライオボットと通信することができる。また、推進・制御系により、小型水中探査機で魚のような「群れ」を作ることができる。この群れによって、同時に多地点のデータを収集ができるのだ。さらにそれらのグループデータを用いると、データの「勾配」を示すこともできる。また、重複した測定によるデータのエラーを減らすことができるメリットもある。

  • SWIMが氷殻の下の水中に探査機を展開するイメージ図

    SWIMが氷殻の下の水中に探査機を展開するイメージ図(出典:NASA)

いかがだったろうか。宇宙という分野は、地球上での当たり前の製品の設計コンセプトが実は容易に適用できないケースがまだまだ多い。この小型水中探査機「SWIM」のようなアイデアが、さらに増え、採用され、数多くの大きな成果を出していただけることを多いに期待したい。