アメリカを主導とした有人月面探査計画、アルテミス計画をご存知の方も多いだろう。一方で、中国も同じく月面開発計画を始動している。それが、ILRS(International Lunar Research Station:国際月面研究基地)計画だ。
2021年6月16日、中国国家航天局(CNSA)から「ILRS Guide for Partnership」(vol.1)が発表されている。ここには、始動するILRSについて詳しく書かれている。今回は、このILRS計画について紹介したい。
中国のILRS計画とは?
今回、CNSAから発表されたILRS Guide for Partnershipは、その名の通り、パートナーシップに関する文書であるが、計画について詳しく記載されている。
この文書は、3つの章で構成されている。第1章がILRS計画について、第2章と第3章がこの計画の体制や役割などのパートナーシップに関して書かれている。
まず、表紙だが正直デザインに惹きつけられる。そして表紙の上部には、CNSAとロシアの宇宙開発全般を担う国営企業、ROSCOSMOSのロゴがある。ILRS計画は、この両国の共同プロジェクトになっているのだ。
では、ILRS計画は、どのような計画だろうか。
この文書には、月面および月の軌道上を活用することで、有人活動、無人活動を含めて月に関する“科学的な”研究を行う計画と定義されている。この科学的な研究とは具体的には、月の地形、地質、地質の年代、月内部、月の物質に関する研究や月からの天文学や地球観測、月でのバイオ・メディカルの研究のようだ。
ILRS Guide for Partnershipには、ILRSのデザインコンセプトが2つ掲載されている。このデザインコンセプトからどんなことを読み取ることができるだろうか。
あくまでもこの文書に書かれていた内容と照らしての予想にはなるが、下図で筆者が勝手に(1)と採番したものは、エネルギーベースのデザインコンセプトのようだ。
円形上の太陽光発電システムが複数並べられている。そして、受電したエネルギーは、ローバーや装置などにワイヤレス伝送されている印象だ。そして、原子力発電だろうか。2機ほどの発電施設も描かれている。左側の白色の円筒型の機器は、植物関連の研究のものだろうか。
もう1つ、(2)と採番したもののデザインコンセプトは、科学的な研究やデータ伝送の様子が描かれている。月面活動といった情報を一元的に集約し、それを地球へと送信する様子、月からの天体観測や地球観測の様子、ローバが月の地質などを調査している様子が描かれている。
ILRS計画はいつ?
では、ILRS計画はいつ、どのように進んでいくのだろうか。
ILRS Guide for Partnershipはでは、2030から2035年までのスケジュールが引かれている。
ILRS計画にカテゴライズされているかは不明だが、初期のフェーズでは、中国やロシアの探査機によって、ソフトランディング技術、月のサンプルリターン技術、大型貨物の輸送技術などの技術実証が行われるようだ。
これらの技術を確立させた後にILRS計画へと進んでいく。ILRS計画は、5つのミッションで構成されている。ミッション1では、インフラ整備が計画されている。ILRS計画及びこれからの月面活動の基盤となる通信、エネルギーなどのインフラを整備するミッションだ。ミッション2は、科学的な研究活動の拠点を整備すること。ミッション3は、月の資源の有効利用の技術実証。ミッション4は、月面でのバイオメディカル研究、ミッション5は、月での地球を含めた天文学の研究だ。
いかがだっただろうか。ILRSについて少し詳しく知っていただけたかと思う。このように、同時期にアメリカを中心としたアルテミス計画と中国を中心としたILRS計画という、世界の2大国が月を目指している。さて、どのような未来が待っているのだろうか。