以前、本連載でコロラド大学ボルダー校のJianliang Xiao博士らが開発したヒトの体温で発電する小型デバイスについて紹介した。その流れでもう1つ紹介したいすごいテクノロジーがある。
それは、汗で発電可能な小型デバイスだ。“汗で発電”という表現をしたが、汗が燃料になるデバイスという表現も正しいようだ。では、次から詳しく紹介したい。
汗で発電するウェアラブルデバイスとは?
カリフォルニア大学サンディエゴ校のJoseph Wang教授らは、汗で発電する小型のデバイスを開発したというプレスリリース※1および論文※2を発表した。
とても驚くべきテクノロジーだ。論文のタイトルには、次のような表記がある。
「A passive perspiration biofuel cell…」
直訳すると、「受動発汗バイオ燃料電池」となるだろうか。直訳の正確性はさておき、汗が燃料となり発電できるデバイスだ。
このデバイスは、非常に小型だ。人差し指の第1関節くらいの大きさしかない。しかも薄膜でフレキシブル、そして軽量のため、絆創膏を付けている、そんな感覚に近いだろう。これを指に装着するだけで発電できるのだという。
どんな原理で発電するの?
では、どのような原理で発電するのだろうか?原理は次のようだ。電極はカーボンが使われている。そのカーボンは汗を吸収しやすいような構造に改良されている。
このカーボン電極に汗が吸収されると、汗に含まれている乳酸と酸素が化学反応を起こし電気が発生するという原理だ。この乳酸と酸素が化学反応を起こすための酵素をあらかじめカーボン電極に添加しているようだ。そして、汗での発電に加えて、圧電素子の機能も備えているとのこと。小さな圧力が加わることでも電気を発生することが可能だ。
実際にこのデバイスから発生する電力を測定している動画があるのでご覧いただきたい。
まだ、指も触れていない状態のそのままのデバイスは発電していない。しかし人差し指の第1関節で、軽くタッチした瞬間、測定グラフがピンとデルタ関数的に上昇しているのがわかるだろう。汗の発電に加えて、圧電素子での発電と考えられる。
動画での縦軸は、電力を示しているが、実際のところこのグラフからはどれくらいの電力が発生しているのかは不明だが、論文によると数十μWの電力を発生することが可能だと記載がある。そして、指を離すとゆっくりと放電していく様子がわかる。汗の発電に加えて、圧電素子での発電と考えられる。
どのようなシーンで使われるの?
この汗で発電するデバイスは、どのようなシーンで使われるのだろうか。以下の動画でそのシーンが配信されている。
例えば、人差し指の第1関節部分にデバイスを装着した状態で、スマートフォンを普段どおりにタップしたり、パソコンのマウスをクリックしたりするシーンがある。他にも、両手の指すべてにこのデバイスを装着して、車のハンドルを握りながらドライブしたりしている。
論文には、睡眠してるだけで何もしなくても発電できるとある。つまり、指の第1関節部分は、日常生活において、モノとの接触も多く、常に小さな圧力が発生しているので、圧電効果と汗で発電しているのだ。何も意識することなく、普段通りに生活しているだけで発電してしまう夢のような発電デバイスだ。
今後、実用化に向けては、さらなる発生電力の向上やこの発生電力の充放電といった技術向上、水や熱に対する耐久性、設計寿命の向上などの研究開発が必要と感じる。
いかがだっただろうか。今回は、汗で発電するウェアラブルデバイスについて紹介した。話は変わるが20年前に比べると携帯電話、スマートフォンは高性能に進化し、とても小型・軽量になった。
これは半導体の集積技術の向上やディスプレイ技術、通信技術、エネルギー密度の高いリチウムイオン電池などの貢献度が高いだろう。では次世代のデバイスはどのように進化していくだろうか。以前紹介した体温で発電するデバイスや今回の汗で発電するデバイスがもし実用化されたら、どのような未来になっているだろうか。想像してみてほしい。
参考文献
※1https://ucsdnews.ucsd.edu/pressrelease/calling-all-couch-potatoes-this-finger-wrap-can-let-you-power-electronics-while-you-sleep
※2https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2542435121002920