日立造船、商船三井、ヤンマーパワーテクノロジーは2022年3月16日、「メタン酸化触媒システム」の基本設計承認(AiP:Approval in Principle)を世界初取得」というタイトルのプレスリリースを発表した。

この技術は、LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)燃料船のメタンスリップ削減に関するもので、温室効果ガス削減の観点でとても重要なもの。では、このメタン酸化触媒システムとはどのようなものなのか、今回はそんな話題について紹介したいと思う。

メタンスリップ削減技術「メタン酸化触媒システム」とは?

まず、メタンスリップについて初めて耳にしたかたも多いだろう。

メタンスリップとは、LNG燃料中のメタンの一部が燃焼せず、そのままメタンとして大気中に排気されてしまうことだ。メタンはCO2に比べて温室効果が高く、大気中に排出されてしまうと環境によくない。

そこで、3社はこのメタンスリップにより大気中に排出される前にメタンを酸化させてしまえばよいと考え、未燃焼メタンを含むLNG燃料機関・発電機の排気管にメタン酸化触媒を配置し、その触媒でメタンを酸化させることに成功したのだ。これが、今回基本設計承認を得たメタン酸化触媒システムだ。

この開発の経緯は次のようだ。これは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業、次世代船舶の開発で「触媒とエンジン改良によるLNG燃料船からのメタンスリップ削減技術の開発」として採択されたプロジェクトだ。

日立造船とヤンマーパワーテクノロジーがコンセプト設計を実施し、コンセプト設計に基づいて、実証運航を行う商船三井と、船の建造とこのメタン酸化触媒システムの搭載設計を行う名村造船所が共同でリスク評価などを通じた作り込みを進め、国際ガス燃料船舶安全コード考慮した安全対策を織り込んだ仕様であることが確認されたのだ。

  • 実船実証を予定している大型石炭専用船(CG)と基本設計承認

    実船実証を予定している大型石炭専用船(CG)と基本設計承認(出典:日立造船)

では、この基本設計承認がどれほど凄いことかというと、この承認は、前例のないもしくは前例が極めて少ない機器やシステムについて、船級協会が現状の規則やガイドラインに照らして、成立性・安全性に問題がないことを認めたものだけにしか発行されることがない承認だというのだ。

技術力の高さがうかがい知れる凄いことだとお分かりいただけただろうか。

このプロジェクトは、2021年度に始動。そして、2026年度までの6年間でこのコンセプト設計の実機実証を行い、そしてメタン酸化触媒とエンジンの改良を組み合わせることでLNG燃料機関のメタンスリップ削減率70%以上を実現するという。

いかがだっただろうか。今回のメタン酸化触媒システムの基本設計承認取得はこのシステムの社会実装に向けた重要な第一歩だという。これからは、ますます船舶、海洋輸送などの市場は様相が変化していくことだろう。