ちょっと興味深いニュースが飛び込んできた。2021年5月25日、宮崎大学工学部の川末紀功仁(かわすえきくひと)教授を中心とする研究グループが、メガネをかけるだけで豚の体重を瞬時に可視化する装置の開発に成功したと発表したのだ。
ドラゴンボールのスカウターを思わせるようなこの近未来感のあるメガネだが、なぜ川末教授はこのようなメガネを開発したのか、どのようなメガネなのか、今日は、そんな話題について紹介したいと思う。
豚の体重がわかるメガネとは?
この豚の体重がわかるメガネは、端的に言ってしまえば、AIと ARを使うことで豚を体重計に乗せることなく、体重が測定できてしまう装置だ。
この装置は、3Dカメラ、スマートグラス、傾斜センサー、演算PCで大きくは構成されている。3Dカメラはその名の通り、3次元的に情報を捉えるためのカメラ。スマートグラスとは、レンズ部分に数値情報を表示し、人の視覚に付加するためのメガネ。傾斜センサは、実際にこの豚の体重がわかるメガネを装着している作業者の頭の傾きを検知するセンサだ。
まず、3Dカメラで撮影した豚の画像は、パソコンに送られる。
この豚の画像はパソコンで処理・演算され、体重が推定される。そしてその推定された体重の数値はスマートグラス上に表示されるのだ。
体重の推定にあたってパソコン上で実施される処理、演算はつぎのようなもの。あらかじめ準備された豚の枝肉標準モデルを使って、3Dカメラで撮影した豚の形状データと比較(フィッティング)しながら、枝肉重量を推定する。
つまり、これくらいのサイズの豚であればこれくらいの体重であるという豚の体重の指標となるモデルがあり、それと比べながら3Dカメラで得られた情報から体重を推定していく。
ちなみに、枝肉とは頭部や内臓を通り除き、骨がついたままの状態の肉のことで、通常この状態で出荷される。
この演算においては、撮影によって真っ直ぐでない豚の姿勢や体の形状などを補正する機能も具備しており、豚の頭部の有無における枝肉重量、生体重量の推定も実施可能だという。このような緻密な処理、演算により、豚の体重の誤差は数%程度以内におさまるようだ。
なぜ豚の体重がわかるメガネを開発したのか?
では、宮崎大学の川末教授は、なぜ豚の体重がわかるメガネを開発したのだろうか。
その前に、こちらの技術も紹介したい。川末教授は、以前からAIとIoTを用いた豚の自動選別装置を開発している。 これは、出荷する豚とえさ場へと移動させる豚を選別する装置で、ある誘導路の分岐点でカメラで豚の体重を推定するというものだ。
115kg以上の体重であれば出荷、それ未満であればえさ場へと移動させるのだ。作業者は、出荷時や体重測定時に豚を実際に持ち上げたり、押したりするなど手を使うことなく作業を進めることができるのである。
養豚において、豚の体重を測定することはとても重要なこと。しかし、作業者が豚衡機という豚の体重計で豚の体重測定を行うのには、非常に重労働であり時間も要してしまうという課題があるのだ。
そのため、養豚農家のなかには、豚の体重を測定せずに飼育日数と豚の見た目だけで、成長状態や出荷時期を判断してしまうことも少なくない。
そのため、適正体重で出荷されないケースも多く、収益面で機会損失が発生しているという。この豚の体重がわかるメガネであれば、両手をフリーにし他の作業も進めながら、効率よく豚の成長状態や出荷時期を判断することができるのだ。
いかがだっただろうか。宮崎大学の川末教授の開発した装置は、これら養豚農家の課題を解決する素晴らしい技術であり、豚だけでなく様々な畜産農家にも適用されるであろう、そんな期待感がある技術だ。いつか人の健康診断、体重測定もこうなる日が来るのだろうか……(笑)