通販化粧品会社のランクアップは、好調な業績を続けながら、「残業ゼロ」で働きがいのある職場を作りあげている。その最も根底にある考え方は何か、代表取締役の岩崎裕美子氏へのインタビューを引き続きお届けする。

残業ゼロでも最悪の職場

――残業ゼロと売上アップを達成したにもかかわらず、「職場の雰囲気が最悪だった」とはどういうことですか?

それは、私自身がすごくワンマンだったんです。良い製品を作り、誠実にお客さまにお届けするという熱意が強すぎて、社員に命令ばかりしていました。それもろくに理由も伝えずに、です。社員ではなく「作業員」扱いをしていました。頑張っても頑張っても認められない、やりがいなんて少しも無い職場だったと思います。雰囲気が悪すぎて、ストレスのあまり体調を崩す社員すらいました。私自身、せっかく自分の会社を創ったのに、雰囲気が暗いことがとても嫌でした。朝礼で私が何か明るく言っても、みんな黙ったままで、しーんとしているんです。

――残業を無くすことだけが健康的な職場づくりではないのですね。その状況からどのように改善していったのでしょうか?

コンサルタントに片っ端から電話をかけて、助けてと相談しました。そうしたら、どのコンサルタントからも「風土改革が大事」だと言われたんです。そこで最初に、私と取締役の日高の価値観をすり合わせました。そこで「挑戦」というキーワードが一致したんです。

これを会社の価値観、ランクアップが大切にする考え方として、みんなに発表しました。「また変なことを言ってる」「挑戦って何?」と当初は思われていましたが、それでも繰り返し言っていくと、「この人たちは挑戦が好きなんだ。私たちも挑戦を好きになるか、嫌だったら会社を辞めなきゃならない」ということが伝わっていきました。

――価値観のマッチングをされた結果、社員はどれくらい入れ替わったのでしょうか?

それが、無かったんです。社員はみんな、挑戦を好きになることを選んでくれました。それから新卒採用を始めたり、人事評価制度を入れたり、いろいろな仕組みを入れて、私自身が挑戦していったんです。そうすると、「お客さまと直接お会いできるイベントをやりたい」「広報部をつくりたい」など、新しいことをやる社員が現れるようになりました。無農薬野菜の支給やヨガ教室といった福利厚生も社員の提案です。みんながやっていると、「私も何かやりたい」となって、だんだん文化になっていきました。この、社員のやりがいを引き出せる「挑戦」という価値観を生み出せたことは、会社のために一番良かったことだと思っています。

「挑戦」の尊重

――新しい価値観を浸透させることは大変だったのではありませんか?

ランクアップ 代表取締役 岩崎裕美子氏

大変でしたが、「挑戦が好き」は分かりやすいメッセージですし、3カ月に1回は全員で研修をして、私たちの意志を伝えるようにしました。繰り返していくうちに、「ああ、本当なんだな」という事が分かってもらえたと思います。

私自身もすごく変わりました。基本的に、私は自分が関わっていないことは何もかも嫌だという性格なんです。何か提案されても、いろいろと文句を付けていました。でも、そうすると、せっかく提案してくれた社員にも、「命令」していることになると気付いたんです。今は挑戦という価値観が合っていれば、社員は何をしても良いと考えています。

――岩崎さんは我慢をしているということでしょうか?

最初の頃は我慢しましたけど、みんな楽しそうにやってるんです。だから、「楽しいほうが良いんだ」と、初めて分かりました。少しくらいは私も良い意見が言えるかもしれませんが、私が意見することでみんなのモチベーションが下がるくらいなら、多少変でもやらせたほうが良いと考えています。嫌々やらせて成功しても、全然面白くないんですよね。今は、「やりたい」と言う人がそこにいるなら、その人の気持ちを100%認めてあげたいと思います。

――まさしく「挑戦」を尊重されているわけですね。

自分自身の挑戦なら、仮に失敗しても自分の責任じゃないですか。だから勝手に反省するんですよ。それは大きな経験になります。そのおかげで、会社は今、ものすごく伸びていると思います。

残業ゼロと売上アップの両立

――残業の無いやりがいのある職場はとても魅力的ですが、一方で会社を存続させるためには売上を上げなければなりません。ランクアップが伸び続けている秘訣はどこにあるのでしょうか?

例えば、朝用洗顔料「モイストウォッシュゲル」という洗わない洗顔料を販売しています。これは発売初年度で4.7億円、2年目で7億円売れている製品で、子育て中のママからとても好評なんです。朝の顔って汚れていませんから洗う必要はないと考え、洗浄成分の代わりに美容成分が入っています。子育てをしていると、朝、洗顔のために泡を立てている時間すらもったいないですけど、これなら拭き取るだけで良いので、とても便利です。

他にも、スティック状のファンデーション「BBリキッドバー」を使えば、30秒でメイクができます。子育て中はしっかりメイクする時間が取れませんから、ささっとキレイになれるファンデーションが必要だと考えたんです。

これらの製品はママの経験があったからこそ生み出されたものです。

――新しい製品を生み出す上で、社員の「子育て」が重要な経験になっているということでしょうか。

子育てだけに限りません。以前の私は、とにかくアウトプットの時間ばかりで、インプットする時間をまったく取っていませんでした。旅行も行きたくないし、映画も見たくない、仕事の中だけで生きていたんです。旅行に行ったところで、売上は上がりませんからね。ところが、いざインプットの時間をとると、本当にいろいろな経験ができるじゃないですか。それが新しい製品に波及するんですよ。

――多大なインプットからヒット製品を次々と生み出すことで、残業する以上の業績を上げているわけですね。

そうです。だから自分たちが創りたいものを創るために、ずっといろいろな事を考えています。ランクアップには事務職の社員はいません。みんな自分の使命を持っています。広報だったら会社の取り組みをPRしていくことが仕事で、製品開発は良い製品をつくること、宣伝部は新しいお客さまを獲得することがそれぞれのミッションです。自分がこの会社に来ている理由をみんな持っているので、その使命のために頑張っているんです。

残業続きの職場だと疲れてしまって、新しいことを始めることがなかなか難しいのだと思います。ランクアップは、残業はしませんが、常に挑戦をしています。