さまざまな施策を講じることで、離職率を劇的に改善したサイボウズ。その根底にある考え方について、執行役員 事業支援本部長の中根弓佳氏へのインタビュー記事を引き続きお届けする。

自立と議論の文化

――離職率を下げるために、勤務時間や勤務場所を選択できるようにするなど、さまざまな人事制度を構築されてきたことをお話しいただきましたが、このことに関して、先日、青野社長が「欲しいと思う人事制度は社員が提案する会社」とおっしゃっていました。実際に提案をどのように吸い上げているのでしょうか?

みんな、やりたいことがあったら言ってくれるんですよ。事業支援相談窓口で意見を受け付けていますが、私や人事のメンバーに直接言ってくれる人もいます。それから、"ピープル"という社内向けのSNSがあるのですが、そこ経由で気軽に指摘してくれることもあります。

――新たな人事制度を発案するときに、定型があるわけではないのですね。

定型はないです。定型にすることでスピードが落ちるのであれば意味がないと思っていますので。その他には、"もやもやスッキリ"という疑問に思ったことを質問できるデータベースなども用意していますし、時には"仕事BAR"を開催して、こちらから意見を聞くこともあります。

――"仕事BAR"とは、どのような制度なのですか?

仕事BARが開催されるBAR(バル)

仕事について、緩い雰囲気で自由な形で語ろうという場です。2009年からある制度で、"場"と"BAR"をかけています。例えば、私が「働き方の多様化について皆の意見が欲しい」とします。全社の掲示板に仕事BAR開催のお知らせを書くと、そのテーマに興味を持っている人が集まってきます。そこで、ピザをデリバリしたり、お酒も交えたりしながら、あれこれ意見を聞きます。最後に、意見をまとめて報告書を提出すると、一人につき1,500円まで補助される、という制度なんです。人事のことだけでなく、プロダクトやサービスについての新しい意見を集めるなど、さまざまな目的で月に2、3回は開催されています。

――お話を伺っていると、意見を聞く場所を複数用意することを意識されているように感じます。

それは意識しています。限定すると話しづらいですし、どこに言えば、誰に言えばいいか分からないということが極力起こらないようにしています。それから、私たちは「自立と議論の文化」を大事にしていまして、「質問責任」と「説明責任」があると常々言っています。「質問責任」とは、「疑問に思ったこと、こうして欲しいということがあったら言おう。何も言わないで不満だけためるのは止めよう」ということです。質問に対しては必ず部門で答える人がいますので、「その人は責任を持って説明しましょう。答えられない場合は、その提案について皆で一緒に考えましょう」と言っています。

失敗しても止めないということ

――たくさんの施策を講じられてきた中で、失敗したことや、うまくいかなかったものはありますか?

サイボウズ 執行役員 事業支援本部長 中根弓佳氏

うーん、私たちの場合、失敗しても止めないんですよね(笑)。

――どういうことでしょう?

うまくいっているところが少しでもあれば、それは成功だと思いますし、失敗している理由を分析して、そこを変えるような仕組みをまた新たにつくれば良いと思っているんですよ。

例えば、サイボウズには部活動制度がありますが、幽霊部員がたくさんいますし、活動していない部活もたくさんあります。でも、活動している部はあるので、それはそれで良いわけです。一方で、部活が続かない原因を考えた時、毎年予算を確保するための事務手続きが煩雑なことも一つの要因でした。また、少なくとも部活が立ち上がっているということは、「社内のみんなと何かをやりたい」という人が結構いるということです。それなら、「土曜日にみんなでBBQやりませんか?」、こういう単発のイベントでも補助して良いじゃないかと考え、新たに「イベン10(イベントー)」という制度をつくりました。

――部活動だけでは社員のニーズを反映していないのではという分析をして、新たに制度をつくられたわけですね。

そもそもの目的は、部活をしてもらうことではなく、「部門を越えたコミュニケーションを促進すること」なんです。部活という形にこだわる必要は全くなくて、目的が達成できるのであれば形を変えよう、いや、変えるというより「増やそう」という考えです。

一人ひとりに合わせた人事制度を

――手段をどんどん「増やす」ことが、職場づくりにおけるサイボウズさんの考え方の根底にある気がします。しかし、人事制度をどんどん増やしていくと、複雑になりませんか?

なります。大変です。運用していくために、極力それをスリム化したり、システム化するよう現場ではがんばっています。

――「機能をどんどん増やしていって、ある段階でスリム化する」ということは、ソフトウェアのバージョンアップに近い考え方のように思えます。

そうかもしれませんね。私たちの仕事は金型を作りませんし、変化に対する抵抗の少なさや気軽さはあるでしょうね。「やってみて駄目なら変えればいい」「オープンにした方がフィードバックがもらえて良いじゃないか」という発想が根底にあるのだと思います。

――「人事制度は増やすもの」という考えが当然になっているのですね。

「増やす」というか、それぞれの状況に合わせよう、ということです。普通は「制度に合う人を選ぶ」と思いますが、サイボウズはそれをしません。実際は、みんな違うと思うんです。"40~50代男性"とくくられても、全員がワーク重視で働いて飲んで帰るということを良しとしているわけではないと思うんですよね。本当は、一人ひとりに過ごしたい生き方や、実現したい理想があるはずです。その理想を達成しながら、チームで仕事の成果を上げていく。この両方が、持続的に活躍してもらうためのポイントだと思っています。

もし、型にはまった人しか採用できなければ、非常に優秀だけど短時間しか働けない人、働かない人は除外しなければなりません。これほど、もったいないことがあるでしょうか。私たちの「チームワーク溢れる社会を創る」という思いに共感してくれる人が、少しでもサイボウズというチームに貢献してくれて、その人の強みを発揮してもらった方が、私たちの理想の実現が早くなると考えています。