ネット選挙の問題点

ようやく「ネット選挙」が解禁されます。しかし、その中身はウェブ業界の有名人や有識者の理想論を鵜呑みにしてまとめられたとしか思えない、見通しの甘さが目立ちます。優秀な官僚は、大きな議論に発展する重要な問題点に気がつきながらも、生ぬるくスルーしているのでしょうが、これについては後ほど。「なりすまし」を課題として、一定の抑止力を提示しました。しかし「なりすまし」を取り締まることなど「不可能」です。例えば「Twitter」においては公式認証により、本人だと特定できますが、それはあくまで本人のみのはなしです。議員の友人、関係者、親戚に「なりすまし」すれば、「身内からの悪評」を捏造することなど造作のないことです。

そもそもネットにおいて「誹謗中傷」は避けられず、これこそ官僚が口をつぐんでいる部分でもあります。そして筆者も先日、誹謗中傷されていることを発見しました。ところがこれが「誹謗中傷0.2」だったのです。

オプティミストの寝言

誹謗中傷に対してはネット上で反論ができる。とは、オプティミスト(楽観主義者)の寝言に過ぎません。反論に転じたときには、すでに致命傷となっていることもあります。「先制攻撃」が有効であるのは地対地ミサイルでも、ネットにおいても同じこと。候補者名での検索結果に誹謗中傷を綴ったブログが検索結果として表示されてからでは遅すぎます。

「Googleはコンテンツの中身を保証しない」

のです。また、コンテンツに「嘘」があっても、削除をするか否かはGoogleという「米国の民間企業」の気分次第です。そもそもTwitterの本人確認も同じで、日本の選挙活動が、米国の民間企業の支配下にあることへ議論が全く成されていないのは「国政」を預かるものとして浅はかすぎます。

筆者への中傷もGoogleの検索で見つけました。そこではこの連載もあげつらわれ、マイコミジャーナル(当時)も貶められています。

そもそも論の間違い

中傷を要約すると、筆者の実績が有名飲食店ただひとつしかなく、そのサイトも不十分で「プロ失格」とした上で、そんな人物に連載を持たせていると媒体を非難します。本当にその1つしかなければ、別のサイトの連載ですが「現場のノウハウ」と題して6年以上も続けることなどできはしません。しかし、なにをもって「実績」とするかは、それぞれの価値観で異なります。だからこれは問いません。

ところがサイト批判に「メニューがない」とありました。これはおかしい。なぜなら、粗忽な筆者のケアレスミスで「上タン塩の値段が間違っている」とおしかりを受けたのは、つい先日のはなし。そこで批判のソースとなっているURLをみると、見事に間違っています。これは旅行代理店が企画した「オフィシャルツアー」のイベントサイトで、筆者の手によるものではありません。ちゃんとページの上部には「オフィシャルツアーサイト」とあります。つまり、間違った情報をもとにした「誹謗中傷0.2」です。

ご丁寧に中傷のタイトルは「宮脇睦0.2」とあります。いやはや本稿をお読みでしたら警告しておきますが、仮に事実を羅列したとしても、そこに「公益性」がなければ「名誉棄損」は成立します。それが「事実誤認」をもとにするのなら論外。そしてあなたは「プロ失格」とまで表したのですから「営業妨害」にも該当します。

憲法と法律のはざまで

あまりに粗忽な事実確認により批判は、まさしく「0.2」なので、放置しても良かったのですが、事実誤認を元に「プロ失格」とまで罵られては商売に影響します。そこでブログの運営会社である、LINEで絶好調の「NHN Japan」に削除依頼を申請します。そして彼らの対応次第では、彼らも含めて法的対応も視野に入れております。これは「プロバイダ責任制限法」を根拠法として。

そしてこれこそが官僚様がネット選挙に踏み込みが浅い理由です。誹謗中傷と「表現の自由」は紙一重なのです。作品どころか、作家の人間性まで踏み込んだ罵詈雑言であっても、「批評」という名の表現との線引きは困難です。ましてや政治家という公共性の高い人物への言及の、どこまでを中傷とするかの明示は困難です。

事例の明示が困難なとき「包括的に網をかける」という官僚スキルが存在します。大まかな規制を示して、運用のなかで柔軟に対応していこうというものですが、こと「表現」には通用しません。「表現の自由」を守れと、作家や漫画家に学者、そしてなによりネットの住民が大騒ぎをするからで、東京都の「東京都青少年健全育成条例の改正」における「非実在青少年」をめぐる騒動からも明らかです。そして非難の声に政治家は敏感です。「うるさい黙れ」と火中の栗を拾うものは都知事時代の石原慎太郎氏ぐらいのものです。とはいえ「ネット選挙」をこれ以上、先送りするのも困難。そこでこちらも官僚スキルのひとつ「見て見ぬふり」をして、浅い議論のままネット選挙を解禁させようとしています。

エンタープライズ1.0への箴言


「誹謗中傷を初期消火が肝心」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」