自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。この連載では、ITを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第7回は、京都府でレンタル着物事業を展開するOKAMOTO(レンタルきもの岡本、京都市)を取り上げる。同社は6人の20代の女性で構成するインスタグラムの発信チームを結成し、フォロワーを約2倍に増やした。また、京都の60のホテルと提携したパッケージ商品も提供し、自社のブランドを向上させている。

OKAMOTOの岡本一喜・専務取締役はブランディングの効能について「集客増に加えて同業他社との価格競争も回避できる」と話す。聞き手は全研本社 本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

OKAMOTO 専務取締役 岡本一喜
1985年生まれ。京都市出身

清水寺参道沿いの老舗織物店に生まれる。
家業に入ってからは日本の伝統文化である呉服を時代に合わせて提供したいと考え、着物や和小物、着物のハギレなどのネット通販を始める。
2004年レンタル着物業を開始。観光客向けの散策用着物レンタルという新しい形を確立、年間20万人以上来店という反響を得る。
レンタル着物店の拡大の傍ら、TVや雑誌等メディアへの衣裳提供も展開。SNSも積極的に活用し、新しい着物の楽しみ方を提案。
現在、レンタル着物店を7店舗、飲食店を5店舗経営。

ポイント

①6人の20代女性社員で構成するインスタグラムの発信チームを結成し、若者向けのコンテンツを発信。フォロワー数も倍増し、認知度と企業イメージの向上に成功
②京都の約60のホテルと提携し、宿泊と着物のプランを融合したパッケージ商品を提供し、信用力も向上
③インスタのコンサル会社にフォロワー増を依頼したが、成功せず。プロに任せっきりにせず、自分たちのアピールポイントを伝えていくことが重要と痛感
④インターネットの普及で情報取得が容易になり、着物へのハードルが低下

本村:御社は「着物の本場」ともいわれる京都府でレンタル着物店を運営し、競合ひしめく中で最大手の一角を占めています。御社の特徴や強みを教えてください。

岡本:当社はレンタル着物(散策着物)発祥の会社です。京都に7店を構えており、すべての店が総床面積1000坪以上の大型店です。このため、お客様は一般のレンタル着物店の約3倍に当たる1000種類以上の柄から自分の好きな着物を選ぶことができます。

店舗の内装もそれぞれ違い、和風な店もあれば、コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれたスタイリッシュな雰囲気の店舗もあります。このため、ライトユーザーには親しみやすく、リピーターの方々も来店するたびに新しい発見があるわけです。顧客層はいわゆる10~20代のZ世代と呼ばれる方々が大半です。かつてはほとんどが女性でしたが、最近は2割ほどが男性になってきました。

  • OKAMOTOの本店

本村:御社の店舗に伺った際に、丁寧な「おもてなし」や歓迎ぶりに驚かされたことがあります。企業のイメージ作りやブランディングを御社は自然に実施していると感じました。企業ブランディングが、御社の事業にどんな意味を持つと考えていますか。

岡本:ブランディングは、企業の信頼性や集客力を向上させる効果があることに加え、価格競争を避けるという意味でも重要だと考えています。当社は、サービスに応じた適正な価格を設定していますが、お客様からは「着物の仕上がりが良く、満足度が高い」と評価されています。創業以来、培ってきた「OKAMOTOなら、要望にきちんと対応してくれる」という信頼とブランドが当社を支えていると感じています。

新型コロナウイルスの感染拡大前には、2年に一度くらいは海外の展示会などで啓蒙活動をしていました。これまで中国、台湾、タイの展示会に出展しました。海外でも「京都の着物」をアピールすることで、日本の着物自体の認知度を上げようと努めています。

  • タイ でも着物の啓蒙活動

こうした「着物自体のブランディング」の効果もあり、コロナ禍前は、来店者の7割を外国人が占めていました。「京都の着物ならOKAMOTO」というイメージを外国人観光客が持ってくれたのだと思います。政府は今年10月に入国者数の上限を撤廃し、海外からの個人旅行も解禁しました。今後は外国人の利用者が再び増えると予測しています。

本村:自社だけでなく、着物そのものをブランディングしていくことが自社のイメージ向上や事業の成功にもつながっているということですね。こうした着物のブランディングにインターネットはどんな役割を果たしていますか。

岡本:ネットの普及により、情報取得が容易になったことが最も重要な変化だと考えています。多くのネットユーザーが自らの情報を発信・共有したことにより、多くの人にとって着物へのハードルが下がりました。かつては着物を身につける際に「下着はどうすれば良いか」「どんな体型でも着ることができるのか」などの心配や疑問がありましたが、今ではネットに多くの情報が掲載されており、容易に解決できるようになりました。当社もSNSやホームページなどを通じて具体的な着物の提案やプランなどを発信していますが、ネットを通じて、お客様の当社への「安心感や信頼感」が高まっていると思います。

本村:具体的な御社のブランド戦略での成功例を教えてください。

岡本:2020年に、6人の20代の女性社員で構成するインスタグラムの発信チームを結成し、フォロワー数が約2倍の1万1000人に急増したことです。従来は神社仏閣の前で着物を着た女性などの写真を発信していましたが、インスタチームは、鏡に映ったり、白い壁の前に立っていたりする着物の女性の写真を発信しました。若い人が「可愛い」と思う写真を多く発信したことで、たくさんの若い女性たちが当社のインスタをフォローしてくれたのです。もちろん、当社のイメージも向上し、集客も増えました。

  • 20代の女性社員で構成するインスタグラムチーム

このほか、京都のホテル60社と提携して宿泊プランと着物プランをコラボしたパッケージ商品を旅行サイトで販売しました。お客様は当社で着物をレンタルして京都を観光し、ホテルに着物を置いたまま帰宅できるわけです。多くのホテルと提携したことにより、当社の認知度も上がり、信頼性もより向上しました。毎月300人程度の方がこのプランで予約してくれています。

本村:ホテルとの提携では御社だけでなく、ホテル側にもメリットがあったのではないでしょうか。

岡本:ホテル側から「着物プランがあるから自社を選んでもらえた」という声を多くいただいています。提携していないホテルから「当社も提携したい」という要望も出てきました。一方でホテルとのコラボがあったから、京都で着物レンタルというサービスがあると知ったというケースもあり、集客面、ブランディング面で相乗効果があったと考えています。

本村:一方で御社が実施したブランディングで失敗例もあったと聞いています。具体的な失敗例とその反省をどういかしたかを教えてください。

岡本:2社のインスタのコンサルティング会社に依頼しましたが、費用だけがかかり、フォロワー数はまったく伸びませんでした。相手がプロだからと思い、仕事を丸投げしたのが良くなかったと思います。当社自身がコンサル会社と協力して、アピールポイントや着物の流行などをSNSでバランス良く発信できれば結果は変わっていたと思います。ただ、こうした失敗の反省が、インスタグラムのチームの成功につながったと考えています。

本村:御社は国内外のブランディングでSNSやメディアを上手に活用しているように思います。

岡本:そうですね。中国では中国版ツイッターの微博(ウェイボ)や中国版インスタグラムといわれる「小紅書」を使って情報を発信するなど、地域に合わせたブランディングに努めています。日本国内では、全研本社が運営している専門サイトに取り上げてもらっています。当社のHPで情報発信している内容とは別の角度から、京都着物の良さを紹介してくれていることや、客観的に当社の魅力を掘り下げてくれていることが奏功し、春休みはこのサイトから当社のHPに流入した人たちが、400人も予約してくれました。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

全研本社株式会社 eマーケティング事業本部 バリューイノベーション事業部長 バリューイノベーション事業部

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、13年間で約7000社のインサイドセールスを構築した。