自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。この連載では、ITを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第3回は、個人向けの注文住宅の開発・販売などを手掛けるリブランド(大阪・吹田)を取り上げる。同社は建設業としては珍しく、企業全体の従業員が心がける信条や行動指針である「クレド(CREDO)」を採用。インターネットなどを通じて発信し、他社との差別化や企業イメージの向上に成功している。同社の福家孝社長は「クレドは有能な社員の採用や離職率の低下にもつながっている」と胸を張る。聞き手は全研本社 本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

リブランド 代表取締役 福家 孝(ふけ・たかし)
大阪府豊中市出身 工務店の息子として生まれ、小学校4年生の時に「一級建築士になる」と決める。大阪工業大学建築学科を卒業し地元建設会社に勤め、ビル、マンションの建設に携わり、15年間は現場監督を7年間は建築営業を行い、22年のサラリーマンを経て2008年、46歳で独立開業。BtoB、BtoCと建築工事全般の請負を行い、幅広い客層に向け事業を展開。最近は当初の夢でもあった住宅会社を目指す活動を行い、ブランディング、広報に力を注いでいる。教育事業を展開するグループ会社がある。

ポイント

①行動指針である「クレド」を策定。インターネットでの情報拡散や地域のイベントを通じ、顧客ファーストの姿勢を鮮明に
②クレドを通じて社員への経営理念が浸透。顧客サービスの向上や離職率が低下
③企業ブランディングを担当する「ブランディスト」を任命。「子供が賢く育つ家」をテーマにHPなどを刷新
④比較サイトなどウェブマーケティングを活用し、潜在顧客の開拓を加速

本村:御社は近畿圏、特に大阪府の北摂地域を中心に注文住宅などの販売をされています。改めて事業の概要と強みを教えてください。

福家:私たちの事業にはB to B(対企業取引)とB to C(対個人取引)の2つの柱があり、それが強みの1つになっています。企業向けの仕事は小売店や自動車ディーラーなどの店舗を建設する仕事で、今のところ全体の7~8割を占めています。3年ほど前からは、個人向けの住宅建設に力を入れており、今後、成長していく分野だと考えています。

個人向け住宅については、「子供が賢く育つ家」をテーマに、脳科学の研究者と連携して開発した注文住宅を販売しています。具体的には、家の床に、丸太から切り出した自然な状態の木材(無垢材)を使用しています。無垢材は熱伝導率が低いため、温もりがあり、幼児の活動を活発にします。木目や木の香りにはリラックス効果があり、睡眠の質が向上すると言われています。子供の好奇心を刺激するため、リビングに家族共有の本棚を設けるなど、部屋の使い方も工夫しています。こうした個性的な住宅の開発も私たちの強みだと考えています。

  • リブランドが開発した住宅

    リブランドが開発した住宅

リブランドの「7つの約束」をホームページで強調、地域イベントにも力

本村:御社は、企業全体の従業員が心がける信条や行動指針である「クレド(CREDO)」を採用していると伺っています。クレドを標ぼうしている建築会社はほとんどないように思います。クレドを含め、御社の事業に企業のブランディングはどんな意味を持つのでしょうか。

福家:クレドは、大手ホテルチェーンの「リッツ・カールトン」が採用していることで知られています。知人の経営者に教えてもらい、当社でも4年前から導入しました。  

具体的には、「お客様の立場になり、何事も私達のものと受け止め、誠意と熱意を持って対応します」「お客様が理解できていないことがあれば、理解できるまで何度も説明し、確認することで頼れる存在となります」といった7つの約束をホームページで強調しています。インターネットを通じて、お客様にも見ていただけるようにすることで、当社のブランディングにつなげています。

  • クレド

    クレド

月に一回、地域の方に頼んでいただけるようなセミナーを開いて「味噌の作り方」や「お花のリースづくり」など、暮らしに役立つことを教えており、喜ばれています。これもクレドの一種だと当社は考えています。こうしたイベントを10年以上続けており、回数は約120回に達しています。

社内向けのブランディングという意味でもクレドは貢献しています。クレドを浸透させることで、社員たちが会社の経営理念をより理解してくれるようになりました。結果として、「お客様に対して専門用語を使わず、できる限りわかりやすく説明をする」「お客様に寄り添う」といったサービスの向上につながっていると思います。

クレドは、取引先との関係も良好にしています。昨冬、取引先の自動車ディーラーの店舗の改修工事が終了した際に、当社の担当者が花束をもらって帰ってきたことがありました。本人は、「お客様のために一生懸命動いただけだった」と話していましたが、取引先の方々がその懸命な働きぶりを評価し、感謝してくれたのだそうです。

本村:福家社長はこれまで約120回も、お客様以外も参加できる地域イベントを開催したと仰っていました。御社は、こうしたイベントを通じて社外はもちろん、社内でもクレドを浸透させているように思います。クレドの浸透と実践が、御社の評価を高め、ブランディングにもつながっているということかもしれません。

福家:その通りです。社員たちは、クレドに賛同し、地域社会に貢献したいという想いで集まってくれています。社員全員で毎週月曜日は地域の公園を清掃しており、地域の方々が感謝してくださっています。社員たちに「自分は仕事も含めて社会貢献している」という喜びがあるためか、ここ数年は会社を辞めたいという人が1人もいません。そういった意味では、離職率の低下や優秀な人材の採用といった「社内ブランディング」にもつながっていると言えるでしょう。

インターネットは拡散力とスピードが魅力、HPと実態が違えばリスクにも

本村:クレドの情報開示でもホームページを利用されています。インターネットが企業ブランディングに果たす役割をどう考えていますか。

福家:インターネットの拡散力とスピードは、これまでの紙のメディアにはなかった大きな利点です。クレドの情報拡散だけでなく、当社では、メールマガジンを10年間、毎月発行し続けています。詳しく、正確な情報をホームページに掲載することで、多くのお客様に自社のことをより理解していただけます。それが結果的に当社のブランディングや他社との差別化につながると考えています。

ただ、ホームページの内容と企業のサービスの実態が違うようではITブランディングの意味がありませんし、むしろリスクにもなりかねません。当社の場合、お客様に当社のイメージを伺うと「ホームページの通りですね」と言っていただいていますので、一定の成功を収めていると考えています。

本村:大企業と違い、規模が小さい中小企業のイメージ戦略は難しいという見方もあります。中小企業ならではのブランディングの難しさはありますか。

福家:中小企業は従業員も資金力も多くありません。それだけに知名度を引き上げるのは難しいといえます。しかし、従業員が少ないのは、会社の理念を徹底させやすいということでもあると前向きに考えています。

「ブランディスト」を任命、ペルソナ層を中心に顧客開拓

本村:御社が実施したブランディングの施策で失敗例を教えていただけますか。

福家:創業時に、ある知人から「自社のブランドを確立させるために、仕事の範囲をやりたいB to Cに絞った方が良い」という助言を受けたことがあります。当時の私は「確かにその通りだ」と思いました。そこで、個人向けの仕事だけを受注しようとしたところ、売上高が半分ほどに落ち込んでしまいました。

「これではいけない」と気づき、B to Bの仕事も喜んで受けるようにして経営の基盤を固めていきました。足元では、それを軸に個人向けの事業を拡大しつつあります。こうした教訓を受けて、「ブランディングも背伸びは禁物だ」と痛感しました。

本村:企業ブランディングではターゲットの絞り込みが難しいとよく言われます。しかし、現在の御社は、「子供が賢く育つ家」「クレド」など、巧みにターゲットを絞ったブランディングを実施し、成功しているように見えます。

福家:業績の安定後、当社では過去に広報経験のある社員(見谷麗さん)に「ブランディスト」という役職名を与え、企業ブランディングを本格化しました。2020年のことです。ブランディストという言葉は、私たちの造語です。

  • ブランディストの見谷さん

    ブランディストの見谷さん

ブランディストとして主にやってもらっているのが、ホームページの刷新です。もともとは社長の私を全面に押し出したものでしたが、見谷さんから「子供が賢く育つ家の開発と販売をしている企業」というイメージを明確に打ち出してもらいました。新しいホームページでは、ペルソナ(典型的なユーザー像)を「36歳の奥様と38歳の世帯主で、子供1人」といった形で明確にし、それを意識したつくりにしました。メールも難しい言葉を避けるなどアットホームな雰囲気にしました。本社のイベントスペースでお出しするコップやペンも、ペルソナ層の間で流行しているブランド品を使うなど配慮をしました。

本村:ウェブサイトなどを通じて多くの消費者を集客する「ウェブマーケティング」が、ブランディングとともに注目されています。御社はどのように活用されていますか。

福家:全研本社が運営している「とよはぐ(豊中市で子供をはぐくむお家サイト)」など2つの比較サイトと、ブランディングメディア1つに当社の記事を掲載してもらっています。子育て世帯の方々などが読んでいるため、潜在顧客に当社を深く知ってもらえる利点があります。これらのサイトを通じて連絡をいただき、お会いしたお客様の場合、過去には次回(2回目)のアポ率が99%に達したこともあります。受注も増えており、効率的なマーケティングができていると考えています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

全研本社株式会社 eマーケティング事業本部 バリューイノベーション事業部長 バリューイノベーション事業部

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、13年間で約7000社のインサイドセールスを構築した。