自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。
第4回は、計量機器などの販売・メンテナンスを手掛けるクボタ計装(さいたま市)を取り上げる。潜在顧客がクボタ計装の製品性能を実際に試せる「テストセンター」(中国・上海)の運営などを通じて中国進出に成功。インターネットを通じたブランディングも実施している。吹原智宏社長は「B to B(対企業)取引では、お客様が営業担当者にコンタクトするときには購買プロセスの6割がすでに終わっている」と指摘。企業ブランディングの重要性を強調する。聞き手は全研本社 本村丹努琉(もとむら・たつる)氏
クボタ計装 代表取締役社長 吹原 智宏
神戸大学経済学部卒。1990年 クボタ入社以来、 人事部門、マーケティング部門等を経験し2022年から 現職。キャリアコンサルタント資格やメンタルヘルス マネジメント検定など「人」に照準を合わせたマネジメントと 近江商人の「三方よし」の実践がモットー
ポイント
①ITを含めてブランディングは、顧客と体験を共有できる手段。訪問営業が難しくなったコロナ禍で重要性増す
②潜在顧客が製品性能を試せる「テストセンター」や展示会出展で認知度向上。中国でもシェアを大きく拡大
③メールマガジンはターゲットの絞り込みが大事。新手法を検討中
④ウェブマーケティングは顧客の欲しいモノやサービスを効率的に探せるようにする仕組み
本村:御社は計量機器などの販売・メンテナンスを手掛けていますが、特徴や強みを教えてください。
吹原:当社の主力商品である計量機器は、農業機械などで有名なクボタグループの中でも古い歴史を持っています。クボタは1924年に国から計量機器の免許を取得しましたから、100年近い歴史があります。技術の蓄積や高品質の製品を長く作り続けてきたという経験と信頼があるということです。私たちはクボタという大企業のグループ企業ということもあり、安心・安全のイメージや信頼のブランドがあるのも強みの1つになっています。
本村:長い歴史に加えて、親会社が強いブランド力を持つ企業であることが、御社の利点にもなっているということですね。そういう御社にとって、ブランディングは事業にどんな意味を持ちますか。
吹原:ブランディングは、お客様に情報を提供し、体験を共有することができる手段です。当社の主力商品である計量機器は生産設備の中で使う製品ですので、壊れると取引先の工場の生産ラインが止まってしまう重大なリスクが出てきます。このため、「高精度で高い操作性を持つ高品質の商品」であることや「サービスメンテナンスがしっかりしている」ことが伝わらなければ、お客様に選んでいただけません。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業の営業担当者らがお客様と対面でお会いすることが難しくなっています。こうした中で、潜在顧客の方々に、私たちの営業窓口などへアクセスしてもらうきっかけを作ることがより大事になってきました。対面でなくても自社の情報を提供できる「ブランディング」の重要性は高まっているといえるでしょう。
本村:クボタ計装の強みには、充実したサービスメンテナンスやホスピタリティ(もてなし)があるということですが、そうしたイメージの取引先への定着度はいかがでしょうか。また、定着させるために実施していることはありますか。
吹原:当社の社員のうち3分の1はメンテナンスの担当で、提携している販売店の方々も含めれば300人程度がメンテナンスの仕事に携わっています。これは他社と比べても多いと思います。サービス拠点も販売店を含めると全国に約50か所あります。
イメージの定着度については、調査をしたわけではありませんので、定量的なデータはありません。ただ、年末に取引先に届ける当社のカレンダーには「お客様の近くで迅速にスキルを持って誠実に対応する」と掲げています。こちらは毎日見ていただくものですので、当社のお客様に対するコミットメント(公約)になり、従業員への意識づけにもなっていると考えています。
本村:インターネットが企業ブランディングに果たす役割をどう見ていますか。
吹原:中国での顧客開拓に向けて2010年から中国最大の展示会に定期的に出展し、当社や当社商品である「フィーダ」の認知度を大きく引き上げることができました。フィーダは、粉・粒・液などの原料を一定の流量で次の工程に供給する装置のことです。高機能プラスチックやフィルム、食品、医薬品などの製造に使われています。
中国・上海には当社の「テストセンター(フィーダテクニカルセンター)」を設立しました。お客様が取り扱っている原料の粉などをテストセンターに持ち込んでもらい、当社製品で実際に供給テストをすることができるようにしました。そこで高い品質を実感してもらうわけです。
中国は面積も広く日本との文化の違いもあるため、人海戦術だけでは認知度を高めていくことには限界がありました。業界最大規模の展示会への継続出展とテストセンターを通じて、当社の製品(フィーダ)が高い品質と安定した供給能力を兼ね備えていることをお客様に認識していただけたと考えています。高性能な商品と企業ブランディングを通じて、日本だけでなく、中国でもフィーダメーカーとしての地位を確立することができました。
本村:消費者に身近とはいえないB to B企業はB to C(対個人取引)企業に比べて認知度を引き上げることが難しいという見方もあります。B to B企業である御社のブランディング施策で、成功例を具体的に教えてください。
吹原:中小企業は従業員も資金力も多くありません。それだけに知名度を引き上げるのは難しいといえます。しかし、従業員が少ないのは、会社の理念を徹底させやすいということでもあると前向きに考えています。
本村:従来は非常に良いイメージだった「メード・イン・ジャパン」というブランドが一部で通用しなくなりつつある中、それを打開するために「ホスピタリティ」は重要な要素になるのかもしれません。一方、具体的な企業ブランディングの失敗例も教えていただけますか。
吹原:約10年間続けてきたメールマガジンの配信を停止しました。配信先のターゲットを絞れておらず、売り上げへの貢献度も図りづらかったということが背景にあります。情報化社会が発達してメルマガも珍しくなくなりました。単純にメルマガを送るだけでは、なかなか売り上げにはつながりません。今回の経験から、ターゲットとするお客様を製品ごとに絞り、そのお客様が必要とする情報を最適なタイミングでお届けして商品への興味や理解度を高めていきながら、商談につなげることが大事なポイントだと気づき、新しいやり方を検討しているところです。
本村:ウェブマーケティングは企業のブランディングにどんな役割を果たしていますか。
吹原:ウェブマーケティングは「お客様が探していることに効率的にこたえられる仕組み」だと考えています。お客様は製品を探していることもあれば、新しい技術を探していることもあります。こうしたお客様に、どうやって私たちの製品やサービスにたどり着いてもらうかが重要です。
全研本社には2021年10月から「液体充填機」の専門メディアを運営してもらっています。液体充填機は、容器に一定量の液体を充填する機械のことで、当社の主力製品の1つです。
当社製品の高い付加価値を全研本社の専門メディアを通して潜在顧客に知ってもらうことは、価格競争に陥らないという意味でも大事だと思います。コロナ禍を受けて、営業担当者によるお客様への訪問が難しくなる中、ウェブを通じた案件創出は効率的な営業支援になっています。
本村:潜在顧客が御社への理解を深めた上で、問い合わせしてもらうことが重要だということですね。的確かつ詳細な情報の提供は、吹原社長がお話しされていたホスピタリティにもつながるかもしれません。
吹原:そうですね。報道や専門メディアは、自社の課題へのソリューションを探している企業が、当社にたどり着いて課題を解決するきっかけになるものです。計量機器を取り扱う企業では技術継承が進み、担当者の若返りが進んでいます。若い人ほどインターネットを通じた情報収集をするだけに、ウェブマーケティングはますます重要な役割を果たしていくことになるでしょう。
(編集協力 P&Rコンサルティング)