自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。この連載では、ITを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第5回は、北海道や東北地方などで個人向け住宅の建設を手掛けるロゴスホールディングス(札幌市)を取り上げる。同社は寒冷な気候に合わせた住宅づくりを強みとし、北海道の住宅建設で最大のシェアを誇る。地域のイベントにも積極的に参加し、SNSと融合させて内外に発信している。同社の鈴木章悟・執行役員(マーケティング部長)は「ブランディングやマーケティングは地域性を考慮した上で、顧客ターゲットを絞り込むことが重要だ」と強調する。聞き手は全研本社の本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

ロゴスホールディングス 執行役員 マーケティング部 部長 鈴木章悟(スズキショウゴ)
1987年7月18日生まれ。

2010年4月~2013年10月:リアルワールド(現:デジタルプラス)でSEM事業部、ソーシャルメディア事業部、メディアソリューション事業部などに従事。
2013年11月~2017年3月:リクルート住まいカンパニーで戸建分譲、売買領域の広告営業。既存CLへの業績伴走がメイン。
2017年4月~2022年5月:豊栄建設(2021年1月よりロゴスホールディングスに出向、現在の体制としては出向のタイミングからスタート)。クライアント先であった豊栄建設で、マーケティング全般に従事。
2022年6月~:ロゴスホールディングス

ポイント

①地域に合わせた企業イメージ作り、ブランディングを推進
②地域イベント協賛とSNSを組み合わせたブランディングで成功
③ブランディングやマーケティングは顧客を絞り込むことが重要。できなければ失敗リスク
④インターネットは顧客に合わせたブランディングやマーケティングに有効

本村:御社は北海道や東北地方で住宅建設を手掛けています。特徴と強みを教えてください。

鈴木:当グループには、ロゴスホームと豊栄建設、GALLERY HOUSEという事業会社があります。これらの事業会社が、個人向けの注文住宅と建売住宅を中心に建設・販売しています。特に北海道では年間1000戸以上の住宅を建設しており、最大のシェアを占めています。2030年には年5000戸の供給を目指しています。

私たちの強みは、地域や気候に応じた住宅を建設できることです。地域によって気候はそれぞれ違い、必要な住宅も違います。このため、新しいエリアに進出する際には、その地域のお客様に合った住宅を提供している会社にグループに入ってもらっています。それによって規模を拡大させ、資材や設備機器の仕入れ価格を引き下げることができています。

本村:地域や気候に合った住宅を建設できることが強みということですが、内容を具体的に教えてください。

鈴木:北海道は非常に寒い地域なので、家全体の気密性や断熱性など性能が高くなければいけません。豪雪地帯も多いため、雪に押しつぶされないよう家全体を加重に強い構造にする必要もあります。

例えば、北海道では、土地の形状や大きさにもよりますが、屋根に積もった雪が自然に落ちるよう設計された「三角屋根」はほとんどありません。屋根からの落雪で1階や窓が雪に埋もれてしまうことがあるからです。雪下ろしをすることなく、屋根の上の雪を自然に処理できる「無落雪屋根」と呼ばれる屋根を採用している場合が多いです。一見、平らに見えますが、積もった雪を下ろさなくても家屋が潰れないような構造になっています。

本村:国内には多くの住宅メーカーがひしめいており、差別化は容易ではないように思います。企業のブランディングは他社との差別化が目的の1つですが、御社にとってどんな役割を果たしていますか。

鈴木:当社はホームページをはじめとしたウェブサイトやSNS、交通広告やマスメディアなど、多くの手法を用いてブランディングを実施しています。これらにより、当社のインターネットでの指名検索(「ロゴスホーム」「豊栄建設」等)が増え、集客の単価が下がっています。当社に興味を持ち、指名検索をしてくれたお客様は、成約率も高い傾向があります。

ある調査によると、個人が住宅を購入する際、10年前は5~6社を比較検討していましたが、現在は2~3社だそうです。これは、インターネットの普及や検索機能の高度化に伴い、絞り込みがしやすくなったためだと考えられます。高性能の住宅を建設できる技術力はもちろんですが、事業展開をしている地域に合わせたブランディングを通じてお客様の検討対象に入ることが重要です。

  • ロゴスHDのグループ企業、ロゴスホームが建設した住宅

本村:一般的なハウスメーカーは、全国に向けたブランディングをしているケースが多いと思います。御社の場合は、事業展開しているエリアごとにブランディングを変えているということですね。

鈴木:そうですね。例えば、ロゴスホームでは「十勝型住宅」というイメージを強調しています。北海道の十勝地方は、冬は摂氏マイナス30度まで気温が下がり、夏はプラス35度にも上がる過酷な気候です。北海道などでは、それに対応できる高性能の住宅を建設できる強みをいかしてブランディングをしています。しかし、その特徴を温暖な九州地方で強調しても、あまり潜在顧客の心に響きません。地元企業と協力したり、当社のグループに入ってもらったりすることで、地域に合わせた事業運営やブランド作りをすることが大事だと考えています。

本村:大企業と違い、規模が小さい中小企業のイメージ戦略は難しいという見方もあります。中小企業ならではのブランディングの難しさはありますか。

鈴木:中小企業は従業員も資金力も多くありません。それだけに知名度を引き上げるのは難しいといえます。しかし、従業員が少ないのは、会社の理念を徹底させやすいということでもあると前向きに考えています。

本村:御社は地域のイベントにも積極的に参加し、「地域や顧客をよく知る」ことを大事にしているように見えます。それがエリアに合わせたマーケティングにも役立っていると思います。企業ブランディングでの成功例を教えてください。

鈴木:とりわけ反響が大きかったのが、オフラインとオンラインを融合したブランディングです。北海道の岩見沢市で「JOIN ALIVE(ジョインアライブ)」という野外音楽フェスが毎年開催されています。当社は地元のラジオ局とコラボし、このイベントのネーミングライツ(公共施設などに企業名や商品のブランド名などを冠した愛称を付ける権利)を取得しました。社名を記載したフォトスポットを設置し、「写真をSNSに投稿してくれたら、出演したアーティストのサイン入りのTシャツをプレゼントする」という企画を実施したところ、投稿が約250件に達し、若い潜在顧客を中心に話題を呼びました。当選者は看護師を目指しているAさんという学生でした。彼女は「試験前で不安だったが、当選できて嬉しくて泣いてしまった」とのことでした。1年半後、Aさんが「試験に合格した」という連絡を当社のアカウントあてに送ってくれた時には、私たちも本当に嬉しかったです。

この音楽フェスで実施したブランディングは、未来のお客様の開拓が目的でした。若者たちが将来、「家を建てよう」と思った時に当グループの豊栄建設とかロゴスホームなどを想起してくれるだけで良かったからです。しかし実際には、1人1人の心に「刺さる」ブランディングとしても成功だったように思います。

  • ロゴスHDのグループ企業、豊栄建設が協賛したライブイベント

本村:多くのブランディング施策を実施しているということでしたが、これまでに失敗したケースはありますか。

鈴木:もちろん成功ばかりではありませんでした。あるプロスポーツのチームで有名選手の引退試合があり、冠スポンサーになりましたが、残念ながら反響は乏しく、高額な広告料に見合いませんでした。そのチームのイベント参加者の年齢層は高く、当社の顧客層には合わなかったことを事前に調べきれなかったのが反省点です。やみくもに広告などのブランディングを実施するのではなく、ターゲットを絞ることの重要性を実感しました。

本村:インターネットはここ20~30年で爆発的に普及しました。ウェブマーケティングについての考え方を教えてください。

鈴木:ブランディングやマーケティングの際に重要なことの1つは、顧客ターゲットの絞り込みです。インターネットはターゲットの絞り込みや、ワン・トゥー・ワン・マーケティング(顧客一人一人に合わせたマーケティング)という点で有効だと考えています。例えば「年収や年齢、居住地域、どんな住宅を購入したいのか」、「弊社ページへの流入後、何回の訪問で、どのくらいの時間、どのページを見ると問合せに繋がりやすいのか」、といった属性を細かく絞ってマーケティングを展開することができます。

本村:インターネット上には様々な情報が氾濫し、単にホームページで自社を紹介しただけでは見向きもされない時代に入っています。誰にどういう表現をしてアピールすれば自社に注目してもらえるかが大事です。御社は自社に注目してもらうために地域や顧客を知り、ターゲットを絞る努力をしている住宅メーカーのように思います。

鈴木:自社に注目してもらうという意味で、全研本社と協力して運営している注文住宅のウェブサイトも効果的なマーケティングに非常に役立っています。自社が良いサービスをしているというアピールはどの会社もしていますが、それが潜在顧客に明確に示せているかは別問題です。

高額な家を何軒も建てる人は少ないだけに、お客様も購入するのは真剣です。そうした際に、当事者ではなく、第三者が中立的な立場から当社の高気密・高断熱などの特徴や強みを整理し、他社と比較してくれるのは、お客様にとっても客観的な決断をするのに大きな助けになっています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

全研本社株式会社 eマーケティング事業本部 バリューイノベーション事業部長 バリューイノベーション事業部

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、13年間で約7000社のインサイドセールスを構築した。