自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や消費者の買い控えなどが背景にある。しかし、超大企業と違い、中小企業やB to B(対企業取引)企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。この連載では、ITを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第10回は、買い取り専門店を運営するMTC(東京・千代田)を取り上げる。同社はユーチューブやブログなどを活用して自社の認知度や信頼性を向上させ、業績を拡大している。前田健社長は「ブランディングで安心感のある企業イメージを強調し、気軽に来店できるようにしたい」と話す。聞き手は全研本社の本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

株式会社MTC代表取締役社長 前田 健(まえだ たけし)
1972年生まれ。買取専門店『売るナビ』の創業社長。事業スタートから4年目で100店舗を超える店舗展開を実現。FCオーナーとのウィンウィンの関係構築にこだわり、オーナーの事業失敗を最低限に抑制するサポートを提供している。
出店前の物件選定の際に、現地を直接確認することを創業時から徹底。150の店舗展開を年内の目標に掲げ、全国の候補地を1件1件全て自ら確認している。

ポイント

①ブランディングで顧客からの信頼を獲得。気軽に入店できるイメージも構築
②主力顧客層の中高年もインターネット情報を見て来店する人が増加
③ユーチューブの動画で加盟店の応募数増。ネット動画CMも制作へ
④チラシでの集客がうまくいかなかった店舗も店長ブログを通じた発信で成功

本村:御社はブランド品、時計、貴金属、切手など幅広い商品の買い取り専門店「売るナビ」を運営しています。特徴や強みを教えてください。

前田:当社は現在、全国に103店を展開しています。そのうち直営店が約20、フランチャイズ(FC)店が約80あります。特徴は、商業施設やスーパーマーケット内に出店していることです。商業施設やスーパーに出店する場合、財務状況やコンプライアンス(法令順守)など一定の水準を満たす必要があり、お客様の安心感につながっていると考えています。

店舗の地域密着や地元の方々とのつながりを大切にすることも意識しています。例えば店舗の従業員は、出店しているスーパーに買い物に来た1人1人のお客様に挨拶するようにしています。「買い物のついでに『売るナビ』にも寄っていこう」と気軽に思ってもらえるようになれればと考えています。

  • 「売るナビ」の店舗の外観

本村:御社のビジネスには顧客の信頼性や安心感が重要とのことでしたが、企業ブランディングが自社の事業やイメージ作りにどう影響を及ぼすと考えていますか。

前田:ブランディングで最も重要な効果は、顧客からの信頼を得られることです。買い取り店はかつての「質屋」のイメージがあり、一部の個人の方々は入るのに抵抗があるようです。当社は加盟店を含めてイオンやイトーヨーカドーなど商業施設やスーパーに出店していることが多く、知人から入店する姿を見られやすい側面もあります。当社が企業ブランドやイメージをより向上させることにより、利用者に安心して入店してもらいやすくなります。

本村:ブランド力やそれに伴う信頼感こそ集客の源泉ということですね。確かに、御社の場合、アクセスしやすい場所に出店しており、利用しやすい雰囲気づくりを目指しているように思います。

前田:「日用品などの買い物のついで」に来店してもらえるようになるのが大事だと考えています。路面店は「所持品などを売買する」という目的を持って来店する方々が多いですが、商業施設の中の店舗の場合、気軽に立ち寄ってもらえる利点があります。このため、新しい顧客を開拓しやすくなります。

本村:インターネットやスマートフォンの普及により、ブランディングの現場も大きく変わりつつあります。ネットの普及が御社のブランディングにどう影響を与えていますか。

前田:当社の顧客は50歳以上が9割を占めます。中高年が多いので、ネットは無関係と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。2010年ころは新聞の折り込みチラシを見て来店したお客様がほとんどでしたが、この4~5年はウェブ情報を見てくる方が急増しています。最近はスマホで買い取り情報を集めた上で来店する方が増えています。 ネット上では口コミサイトが増え、それを見て来店する人も増えています。当社はかつてネット広告に積極的ではありませんでしたが、店舗数が拡大したこともあり、今後は必要だと考えるようになりました。

  • 「売るナビ」の店舗内

本村:これまでの企業ブランディングでの成功事例を教えてください。

前田:千葉テレビの企画で動画共有サービスのユーチューブに私が出演したところ、それを見て多くの方々が「加盟店になりたい」と応募してくれました。社長が出演して「人を大切にする」という姿勢や経営理念を直接伝えたことで、FCへの加盟希望者はもちろん、店に来てくれるお客様、当社への入社希望者に安心感を与えることができたと思います。ネット動画CMも制作中で、半年以内には公開する予定です。

本村:最近は企業の社長がCMなどで表に出る事例が増えています。前田社長の場合は漫然と出演するのではなく、「社長の人柄や会社運営をよく知りたい」というニーズに応えるという目的意識を持って出演しているように見えます。

前田:メディアの取材や記事の掲載はプラスになることも多いですが、「人を大切にする」という当社の理念がなかなか伝わらない企画も中にはあります。こうした場合は無料の取材であってもお断りさせていただくことがあります。

本村:ブランディングで失敗した例はありますか。

前田:当社では、新規出店のたびに新聞織り込みチラシを大量に配布しています。このチラシで集客に成功する店舗も多いのですが、一部は失敗する店もあります。あるFC店では15万部ものチラシをまいたにもかかわらず、顧客からの反応が10件程度しかありませんでした。

そこで、店長と本部で話し合い、「店長ブログ」を開設しました。「今日は雨の日キャンペーンをやっています」といった情報を毎日のようにブログで発信したところ、来店客数が大幅に増えました。今後はチラシや情報誌への掲載に加えて、SNSを活用して店舗の認知度を高めていきたいと考えています。

本村:全研本社が運営するサイトに御社のサービスが掲載されています。

前田:全研本社のサイトを通じて問い合わせがあった場合、9割以上が(FC加盟などの)商談につながっています。当社と同業他社との違いをしっかり理解してくれている人が連絡してくるからだと推測しています。先日お会いした方も当初、同業他社のFCに加盟しようと考えていたようでしたが、全研本社のサイトを見て資料請求してくれました。当社のFC店とのつながりの深さや経営理念をきちんと説明したところ、当社の加盟店になってくれました。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

全研本社株式会社 eマーケティング事業本部 バリューイノベーション事業部長 バリューイノベーション事業部

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、13年間で約7000社のインサイドセールスを構築した。