自社の商品やサービスを「その企業ならでは」と認識してもらう企業ブランディングへの注目が集まっている。国内外の競争激化や物価の上昇などが背景にある。しかし、大企業と違い、中小企業がブランド戦略を打ち出すのは容易ではないとされる。こうした中で、インターネットを活用してコストを抑制しつつ、効果的なブランディングを実施する中小企業やB to B企業も出始めている。この連載では、ITなどを活用してブランディングを行っている事例を紹介する。

第12回は、太陽光発電の設置事業などを手掛けるアーク(北海道札幌市)を取り上げる。同社はラジオやテレビのCMを継続的に実施し、「北海道の太陽光発電はアーク」というキャッチフレーズを繰り返すことにより、企業の認知度を引き上げてきた。今後は、テレビやユーチューブの広告に芸能人を起用するなど新機軸も打ち出す方針だ。聞き手は全研本社 本村丹努琉(もとむら・たつる)氏。

  • 株式会社アーク 代表取締役 渡邊賢二氏

株式会社アーク 代表取締役 渡邊賢二(わたなべ けんじ)
1982年生まれ。水処理装置関連の会社などを経て2004年に札幌市に水道事業の企業を創業。05年に商号をアークに。08年にオール電化(エコキュートやIHクッキングヒーター)関連事業や太陽光関連事業を開始。09年にテレビCM、10年にラジオCMを始める。13年に法人向けの土地を自社メンバーで開拓し、不動産事業を開始。投資型太陽光発電(高圧)へと軸を変更し規模拡大を図る。23年4月時点で自社発電所保有容量「2万1713kw」まで保有案件を拡大。

ポイント

①北海道ローカルのラジオCMを15年、テレビCMを10年以上継続。社名が地域に浸透
②東京ビッグサイトのイベントへの出展で大企業からの問い合わせが増加
③芸能人をテレビCMやユーチューブで起用へ
④ネットメディアを通じ、成約の精度向上やさらなるブランド力強化を目指す

本村:御社は法人や個人向けに太陽光発電システムの設置事業や蓄電池事業を手掛けています。企業ブランディングは、御社の経営にどのような形で貢献していると考えていますか。

渡邊:ブランディングの効果で重要なのは、会社の知名度向上に加えて、詳しく会社を知ってもらう「認知度」の向上だと考えています。アークはHBC北海道放送の「シンセンラジオステーション」という番組でCMを15年以上も実施してきました。「太陽光発電のアークです」というキャッチフレーズを繰り返すことによって、知名度を向上させられたと思います。パーソナリティーの声質が独特で、その方の声を聞くとアークを想起するという方もいるようです。

10年ほど前からローカル局のテレビCMも放送してもらっています。動画広告は文字や声だけの広告よりも会社のことを深く知ってもらえる特徴があります。これらのCMは、必ずしもすぐに結果が出たわけではありません。長く継続してきたことに意味があり、業界内で社名が浸透してきたように思います。好調な本業との相乗効果もあり、この15年間で売上高も約40倍に増えました。

  • アークは太陽光発電の事業に携わる

    アークは太陽光発電の事業に携わる

本村:渡邊社長の場合、ただCMを続けるだけでなく、人とのつながりも含めて経営に最大限活用していこうというスタンスを感じます。

渡邊:「CMは出し続けることが重要だ」という考えも、知人であるラジオのパーソナリティーから教わったことです。北海道の経営者仲間からも、同じようなことをアドバイスしてもらいました。こうした人とのつながりがブランディングでも中期的な成功につながっているように感じます。今後はユーチューブなどインターネットメディアも積極的に活用していこうと考えています。

本村:中小企業やB to B企業にとって、ブランディングは難しいとよく言われます。これについてどう考えていますか。

渡邊:確かに、中小企業のブランディングは大企業に比べて難しいと思います。大企業に比べて動かせる資金が圧倒的に少ないからです。もっとも、アークの場合は北海道限定のブランディングですから費用を抑えやすいという利点があります。例えばテレビCMを放送する場合、全国放送なら莫大なお金がかかります。しかし、当社は北海道限定で放送してもらえば良いので、必要資金が限られます。当社は売上高の一定の割合を広告費用として確保しており、費用対効果を考えながら戦略的に予算を振り分けています。

本村:理論上は継続が重要だとわかっていても、実際に御社のようにマーケティングやブランディングを習慣化している企業は少ないように思います。

渡邊:事業を始めた当初、北海道の方々は太陽光発電になじみがありませんでした。「雪の多い北海道で太陽光発電ができるのか」と疑問を持つ人も多くいました。企業としての信頼を高め、太陽光発電への理解を深めてもらうためには、広告を続けることが必要だったのです。私は何事も結果だけでなくプロセスが大事だと考えています。広告もすぐ結果が出なかったとしても、数年は続けるようにしています。

本村:ラジオやテレビの北海道限定のCMの長期継続が認知度向上に貢献したということでした。このほかにも、ブランディングの成功事例はありますか。

渡邊:2021年と22年に東京ビッグサイトのイベントに出展したところ、予想以上の反響がありました。ビッグサイトのイベントの参加企業は全国を対象にしていることが多いのですが、アークは北海道限定の企業です。この「地域限定」というのが変わっていて面白かったのか、多くの大企業から引き合いがありました。例えば、大手コンビニエンスストアチェーンなどから問い合わせがありました。こうしたイベントに参加したことで、経験値が増え企業としての地位も向上したように思います。

  • イベントへの出展も認知度向上や新規顧客の開拓に効果を発揮

    イベントへの出展も認知度向上や新規顧客の開拓に効果を発揮

本村:御社のブランディングでは成功例が多いですが、失敗した事例もあるでしょうか。

渡邊:テレビCMの制作で広告代理店に任せきりにしていたら、自分のイメージと大きく違っていたことがありました。当社のことを詳しく説明するために30秒くらいのCMを作ったつもりが、15秒のものになっていました。代理店の方は専門家ですから、過度に干渉するのは良くありませんが、自らが参加していく意思や姿勢も大事だとわかりました。

本村:先ほどの話では、売上高の一定の割合を広告費用として確保するということでした。企業の成長に伴い、広告に使える予算も増えているのではないでしょうか。

渡邊:その通りです。「継続が大事」とお話ししましたが、同じことばかりでは視聴者や読者に飽きられてしまいます。そのため、新しいことにも挑戦します。今年は初めて当社の広告に芸能人に出演してもらうことにしました。テレビCMには貴乃花・元親方(元横綱)を、当社のユーチューブの広告にはタレントの藤崎奈々子さんを起用する予定です。

本村:全研本社が運営している北海道の太陽光発電のウェブサイトに御社のことが掲載されています。

渡邊:中期的に当社のホームページの閲読数の増加や効率の良い顧客獲得などに貢献してくれると期待しています。これまでCMを通じてブランディングを行ってきたことから、企業からの問い合わせや採用への応募は比較的多くあります。今後の課題は、成約の精度を上げることと、他社と比べたアークの良さをどう表現していくかということです。全研本社のウェブサイトを通じて、こうした課題の解決を目指していきたいと考えています。

(編集協力 P&Rコンサルティング)

本村 丹努琉(もとむら・たつる)

全研本社株式会社 eマーケティング事業本部 バリューイノベーション事業部長 バリューイノベーション事業部

通信機器販売やエネルギーコンサルティングなどのベンチャー企業3社で営業責任者として組織構築に従事。1人のカリスマだけに頼らない組織営業スタイルを確立し、収益増に貢献した。2009年に全研本社株式会社に入社し、ウェブマーケティングを担当する「バリューイノベーション事業部」の立ち上げに参画。コンテンツマーケティング黎明期から、オウンドメディアを基軸としたWEBブランディングを提唱し、13年間で約7000社のインサイドセールスを構築した。